表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/61

旅立ち

 葵姫の部屋に旅の共が集まる。

 世話係の良子。十歳。

 食事係の藤子。三十歳。

 操縦、整備士の雲じい。七十四歳。

 国最高の医師の与平。五十二歳。

 盗賊、警護の次郎。十七歳。


 「姫様。準備はよろしいですか」と良子が聞いた。

 「そろそろ参ろうか」葵が雲じいに、頼むと頷く。

 雲じいが操縦席に座りエンジンを掛ける。この世界の技術で原油ではなく、魔力で作動するのだが、動くのは姫の部屋を含む大奥の西側部分である。

 「では、出発の前に城の庭に参りますぞ。発進じゃ!」動く小屋敷が浮かび上がる!

 乗り心地はなかなかいい。体感はエレベーターのようにスムーズに上がっている。

 城の天守閣を周り、庭に着陸する。

 葵と旅の共が小屋敷を降りると、城中から大歓声があがる!

 「姫様あ~っ。いってらっしゃいませ~!」

 「姫様あ~っ。たくさん、たくさん、旅して下さいませ~!」

 「姫様あ~っ。綺麗な物いっぱい見に行って下さいませ~!」

 

 全ての者がはち切れんばかりの笑顔で見送っている!次郎は、この姫は愛されているんだな、と改めて葵の役に立ちたいと思うようになった。

 葵は城中の皆に明るく手を振って応える。

 天守閣には王と王妃が笑顔で見送っている。

 しかし、葵と目が合うとニコと微笑んで頷くと部屋に入ってしまった。

 

 葵もそれを見て皆に頭を下げて「いってきま~す!」と最高の笑顔を見せて屋敷に入った。

 

 次郎も屋敷に入ると葵の姿はなく、部屋の前に良子が涙を流しながら立ちはだかっている。

 おそらく、葵は部屋の中で寂しい気持ちが出てきて泣いているのだろう。だとしても、ここまで見られたくないものなのか。

 

 雲じいがエンジンを掛ける。

 城中の皆は全て中に入ってしまっている。

 魔力特有のタ-ボエンジンのようなキュイ-ンという音が心地いい。上昇を始めた小屋敷は西方面に方向を変えて飛んでいった。

 

 部屋から葵が笑顔で出てくる。

 「良子。まだ泣いておるのかえ。まあよい。部屋で思い切り泣いておいで」

 そして、雲じいと次郎に「これからお花見をしに参るぞ!次郎、これからの一年は楽しい旅じゃ!遠慮せず、そなたも楽しむのじゃぞ!雲じい、どちらの桜に行くのかの」と言った。

 「西の名所、清島でこざいます」

 「おお。それは楽しみじゃ。藤子。料理もよろしく頼むぞ」

 「はい。かしこまりました」藤子はお辞儀して調理に向かう。

 

 花見か‥‥

 そういえば山田だった頃は忙しくてじっくり見るなんて出来なかったなあ‥‥

 こっちの世界では遠くの山の色具合を見て、もしかして桜かなと思ったぐらいだ‥‥

 

 葵が窓から外の景色を見ながら、おお!おお!とはしゃいでいる。

 「次郎。見よ。空からの景色じゃ。美しいのお」

 四月の晴れ渡る空。

 スピードはゆっくりなので風も気持ちがいい。

 

 この国は日本と同じ形なのだが、ナデシコ国といって四季もある。文字も数字も同じだ。

 所々に桜が見え始める。今は四月中旬なのでまだ西方面しか咲いていない。

 時折冷たい風が入り交じるので、医師の与平が日課の診察をする、と葵を診察室に招いた。

 

 昼食休憩に途中の平原に着陸する。

 

 ここは開けた平原で見晴らしがいい。

 良子がテキパキとテーブルや座布団を並べて、藤子が料理をその上に並べていく。

 「ここも素晴らしいのお!良い場所に着陸した!雲じい、えらいぞ!」

 「ははあっ!」葵に褒められかしこまる。

 「料理も素晴らしい!これなど見た目が可愛らしいのお!次郎、見よ!藤子の料理は凄いじゃろ!」

 次郎も見てみたが確かに素晴らしい。季節の旬の素材をふんだんに使い、新鮮さが伝わってくる。

 見ただけで美味しい満足感がある。

 

 「では、戴きましょう!」

 皆が手を合わせて料理を戴く。

 「おお。藤子!旨いのお!頬が落ちてしまうぞ!これも旨い!」

 藤子はとても美味しそうに食べてくれる葵を見て微笑みで応える。

 「ふう~。普段の何気ない食事じゃが、なんと幸せな事じゃろなあ」

 

 次郎はそれを聞いて僅かに違和感を覚えた。

 それが何かは分からない。ただ、少食なのか、色々手をつけたが一口ずつ食べただけだ。

 姫様なら色んな贅沢な料理を食べてきただろうから慣れているはずだ。

 だから、一口で十分という事なんだろう、と次郎は解釈した。

 

 貧しい育ちのオレとは、やはり色々違うな‥‥

 「藤子さん。姫の言うように本当に素晴らしい。こんなに美味しい料理は食べた事がない」

 次郎は素直にそう言った。藤子はまた微笑みで応える。

 「夜はお花見での料理でございます。その時も喜んで頂きますようにお作りいたします」

 「おお。それは楽しみじゃ!わらわは少し身体を動かしてくるぞ!次郎、参れ!」

 と、葵に言われて、食べかけた食事を置いて後を追いかけた。

 







 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ