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別れの日

 数日様子を見ながら葵たちは見守っていると、本州からの村人が手土産を持ちながら先住民の集落によく来るようになっていた。

 「こんにちは。今日は魚をいっぱい釣ってきたんだ。皆で食べてください」

 「これ、うちで採れたスイカなの。テオちゃんに食べてほしくて」

 など、毎日誰かがやってくる。

 「おれの妻と子供がテオちゃんに見つけてもらって助けてもらって‥‥一生恩返しをしたいんだ」

 「うちの旦那を助けてくれてありがとうねえ‥‥うちの子供も六歳なの。良かったらお友達になってほしいわ」

 と、テオは命の恩人として大人気になっていた。

 

 また、先住民とともに暮らす村岡郡司たちの五人の子供はテオと同じように身体に塗料を塗り、布一枚の服を着るようになった。

 そのうち、本州からの村人の子供たちも布一枚の服を着て遊びに来るようにもなった。

 

 「もう安心だな、葵」

 次郎がそう言うと、葵は寂しい表情で「そうじゃな‥‥」と呟いた。

 次郎は、不用意な言葉だったと後悔した。

 せっかく友達になれたテオ‥‥

 だが、葵は全国を回る旅のため、やがて別れる事になる。

 「葵。テオは優しい子だ。遠く離ればなれとなっても、きっと友達として忘れずにいてくれるだろう。葵もそうなんだろ」

 「決まっておろう‥‥わらわは忘れぬわ‥‥」

 


 そして、別れの日。

 葵たちが先住民の村を訪れた。

 「わらわたちはこの土地を離れ、また旅に出る。テオよ。そなたと出逢い、そなたのその優しい心に触れ、友達となれた事。わらわは生涯忘れはせぬ」

 「葵のおかげで、たくさんのお友達が出来たよ。でも、葵は特別のお友達。わたしの心にいつも葵、いるよ!」

 「テオ、お別れじゃ。最後に笑顔を見せておくれ。そなたを思い出す時は笑顔が良い」

 テオが最高の笑顔を見せてくれた。

 「元気でのお。わらわはどうやら笑顔にはなれぬ。涙が止まらぬのじゃ‥‥」

 「大丈夫。わたしの心、色んな葵いるから楽しい」

 「それはなによりじゃ‥‥テオ!さらばじゃ!」

 「葵!さよなら!」

 「末長く生きるんじゃぞ!約束じゃ!」

 「これからの旅が楽しくなるように祈ってる!」


 葵たちを乗せた屋敷が舞い上がる!

 葵が大きく手を振る。テオの姿が小さくなり、やがて見えなくなる。

 葵はテオとの出逢いを振り返る。

 「思えば、話す事が出来ぬのに人懐っこい子じゃったのお‥‥何より、救助の際に出たあの声。まさに奇跡を見せてもろうた。勇気をもろうたのじゃ‥‥」

 「葵‥‥」

 「友達との別れというのはまことに辛いものじゃな‥‥」

 葵はしばらく一人、部屋に閉じ籠り、納得するまで泣き通すのであった。






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