命を救う声
テオは土砂に埋もれた家屋から、生きている者の声を聞いた!
木材と家具に囲まれて動けない母親とその子供がいる!テオは家具をどけようと力を込めるが微動にしない!やはり大人の力が必要だ!
遠くに葵や次郎がいる!テオが大きく手を振るが気づかない!
早くしなければ、助けられる命を死なせてしまう!
テオは必死に声を出す!しかし声が出ない!
死なせたくない!
大人が来てくれば助かるのに!
テオは涙を流しながら声を出し続ける!
神様!お願い!私に声を!
「アァぁ-----!」
葵が反応する!
「テオか!兄上!あそこじゃ!テオが誰か見つけたようじゃ!皆の者!こちらを手伝ってたもれ!」
次郎と大人たちが駆けつける!
「ここだ!親と子供がいるぞ!」
テオはさらに違う場所に行き、ここにも人がいると、身振り手振りで伝える!
救助された者は屋敷に運ばれ、与平と藤子、良子が手当てをしている!
「おお!ここだ!ここだ!皆、慎重に掘り起こすのだ!」
見ると、先住民の村人たちが来て救助に参加している!地震が発生したので心配で見に来たらしい。
テオの並外れた聴力と嗅覚で次々に埋もれた人を見つけていき、大人たちに救出されていく!
「お父さ~ん!せんせい、お父さんを助けてぇ!」重症の父親が運ばれる!
与平が手当てしていた患者を藤子に預けて、父親の元へ治療に向かう!
運ばれてくる者は基本重症者がほとんどだが、その中でもレベルがある。応急処置でいい者、緊急手術が必要な者、などに分けて、可能な限り生存率を上げるのだ!
テオの動きが止まる!
既に二十人ほどが救助されているが、まだ、埋もれている者が何人か残っているようだ!
葵がテオに話しかける。
「テオよ。さすがに疲れてしもうたかのお。そなたは十分頑張ったぞ。あとは大人に任せるのじゃ」
葵がそう言うと、テオは地面を指差して、葵を指差し、手で目を塞ぐ動きをした。
後で見ていた次郎が説明する。
「葵‥‥恐らく地面に人がいる。だが、もう死んでいるから葵は見ないで、と言いたいのだろう‥‥」
「そうか‥‥皆を助ける事は叶わぬか‥‥悔しいのお‥‥」
「葵。あとは任せろ。テオ、悪いが全員掘り起こさないといけない。手伝ってもらえるか」
テオは頷いて案内する。
こんな幼い子供に酷な役割をさせている‥‥
残された仕事は死体探しだ‥‥
だが普通の人間ではどこを探せばいいのか見当もつかない‥‥
テオの能力に頼るしかないのだ‥‥
人命救助が一段落して、村岡郡司が村人たちを集める。
葵が前に立ち話し始める。
「わらわはナデシコ国の姫、葵じゃ。この度はこのような天災に見舞われてしまい無念に思う‥‥重軽傷者は二十三人、死者は三名じゃ‥‥皆を助けることが叶わずまことに残念じゃ‥‥」
村人からすすり泣きが聞こえてくる。それでも迅速な救助により最低限の犠牲にとどめたとも言えるのだが、亡くなった家族の事を思えばそんなことは言えるはずもない。
「森を守る知識が行き渡っておれば助けられた命じゃと思うとわらわは悔しくてのお‥‥」
葵は先住民の村人、本州からの村人たちに間伐の重要性と、滝が先住民のお墓だという事を説明してみせた。
「そういうわけで、今後は森に詳しいこの者、村岡が間伐を取り仕切らせてもらう。これは先住民の墓を守ることにもなり、こちらの村人たちを土砂崩れから守ることにもなる大切な事なのじゃ」
村人全ての者が神妙に耳を傾けている。
「先住民の村人たちよ。ここに並ぶ村岡郡司以下の者たちは、そなたたちと一緒に暮らす者たちじゃ。文化文明は違うところがあるじゃろうが、互いに受け入れながら末長く生活してほしい」
葵がそう言うと村岡郡司以下の三十名が礼をした。先住民たちは思わぬ話しに信じられないといった表情を見せる。
先住民の村長が葵に話しかける。
「葵様!この方たちは我らと一緒に暮らしていただけるのですか!滅ぶだけの我らと!」
「そのための子供たちじゃ。テオと仲良くするんじゃぞ」葵は子供たちの頭を撫でながら言った。
テオが子供たちの前で身振り手振り挨拶する。
「わたし‥‥よろし‥く‥‥」
「テオよ!声が出ておるぞ!身振り手振りせずとも!」
言われてテオも驚いている!
「あ‥‥わたし‥‥テオ‥‥ほんと‥だ!」
テオは話せる事が嬉しく、子供たちに話しかけていく。
この土地に奇跡が起きた!
先住民には希望がもたらされた!
本州からの村人たちは土砂崩れという教訓を得た!
村には二度とこのような悲しい天災が起きないように死者三名の大きな墓を建てる事となった。




