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秋雨

 森の中は神秘的な雰囲気に包まれている。

 「なんとも素晴らしい‥‥ここは夢の世界のようじゃ‥‥」

 緑の苔に覆われた岩や大木。流れる小川もとても綺麗だ。

 木々の間から時折日差しが届くせいか、この時期なのに雪が舞っているかのように見えてくる。

 

 テオが遠くを指差す。

 見ると、幾条の青い線が並ぶような美しい滝が見える!

 「これは癒されるのお‥‥」

 葵は、今回の旅はこのような景色を見るために来たのかもしれないと思ってきた。

 

 「このような美しい景色はずっと守らねばならぬのお‥‥」

 葵がそういうと、テオは少し寂しい顔をした。

 

 来た道を戻り、テオの家に戻る。テオの父、ダエンに訪れた場所を伝えてみると、ダエンは語り始める。

 「私たちはこの土地に昔からいる種族です。自然とともに生き、自然に教わってきましたが、やがては滅んでいく運命なのです。しかしながら、ホンスからこの土地に移り住むようになり、親交出来れば血は残せると思っていましたが、我らの文明は遅れており、それは叶わぬ事と悟りました。テオがあなた方に紹介した滝は私たちの死後に行く場所、つまりお墓なのです」

 「お墓じゃと!」

 「悲しいことに、ホンスの住民は自然の尊さなどは、あまり理解されないようで、土地を拡げるために開拓をしております。このままでは、我らのお墓も形を変えてしまうことにもなりかねません。ですが、力なき種族である我らの運命でもあるのでしょう」

 ダエンはつぅ~と一筋の涙を流しながら話す。

 「恐らく種族の最後をテオは見ることになるのでしょう。この子は優しいので笑顔を見せてくれますが、不憫で‥‥」

 

 役割を終えたり運命により淘汰されるものはいる。だが、確かにそれがいた、という証になるものはダエンの言う通り残さねばならない。

 

 その時、テオが葵に身振り手振りでもうすぐ雨が降ることを伝えた。

 「雨‥‥何故分かるのじゃ」葵が聞くとダエンが答える。

 「テオは話せない分か分かりませんが、耳と鼻は鋭いようでして、まず外れたことはありません」

 葵たちは、わかったと、彼らと別れ屋敷に戻った。

 「おいおい、本当に降ってきたぞ」

 次郎も驚く。大粒の雨が降る。

 「長く降りそうですね‥‥」藤子も心配している。

 葵は難問を前に何かいい手はないか考える。

 しかしどうすればいいか分からない。あの種族の人数も少なすぎる。それに、テオに近い歳の者は見たところいなかった。強いて言えば親のダエンとその妻だ。他の者は年寄りしかいない。やはり運命を辿るしかないのか‥‥

 

 葵は取り敢えず人が欲しいと早鳥に手紙を括り、城へ飛び立たせた。


 しばらく雨が続く。

 現在では太平洋高気圧とシベリア高気圧がぶつかって出きる秋雨前線のせいだとわかる。

 このナデシコ国ではそのような知識はない。次郎もなんとなく秋は雨のイメージがあるという程度だ。

 その間、テオが屋敷に何度も遊びに訪れていた。

 遊びに来るときは必ず何か手土産を持ってくる。母親が作ったおやつだったり、この辺りで釣れる魚だったり。そうしてるうちにテオは女の子で、葵の一つ下の六歳だとわかった。

 葵は、その気持ちが伝わり微笑ましく嬉しく思った。テオ自身、初めて出来た葵という友達に会いたくて、会うきっかけに手土産を持っていくのだろう。

 また、この長雨で葵が寂しくしていないか、と気遣ってくれているのだろう。

 

 そういう優しい心をもつテオだからこそ、葵は悲しくなってくる。

 この子が話せていたら、自分の気持ちを上手に伝えられるだろう、と。

 この子が話せていたら、素敵な殿方と出会い、伴侶となれるやもしれない、と。

 いくら与平でも、声を発するような治療は分からないという。

 なんとかしたいものじゃ‥‥

 葵は降り続く雨を眺めながらテオのことを考えるのであった。







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