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テオ

 暦は九月を過ぎた。

 葵たちの旅も五ヶ月近くとなった。

 さらに西に向かっているので、まだまだ暑い。

 だが、からっとした暑さなので風が吹けば心地よい。

 そして、この辺りはナデシコ国の中でも最も西にある島になる。日本での位置は沖縄辺りだ。

 雲じいが適度な場所に屋敷を着陸させた。

 葵たちが外に出てみると、まずヤシの木が目に入る。さらには透明度の高い海。そして、野生の子供がこっちを見ている。

 「粗末な衣装じゃのお。この土地の者は皆このような感じなのじゃろうか」と葵が言うと、藤子が答える。

 「もしかしたら、先住民かもしれません」

 「なんじゃと!」

 その子供は、布一枚を服にしており、身体には何色かの塗料を塗っている。

 その子供が、笑顔で手招きしている。恐らく葵と同じくらいの歳だろう。性別も男なのか女なのか分からない。

 「ついていってしまっておるが、大丈夫かのお」

 「とりあえず敵意はなさそうだな‥‥」次郎はそう言いながらも警戒してついていく。

 

 しばらく行くと、集落が現れた。

 そこは島でも高い位置にあり、独自の文化を築いているらしい。

 子供についていくと、その子の家に案内された。

 近所の者が葵たちに歓迎の礼をしている。

 「ホンスから来たんかあ」

 子供の父親が葵たちを出迎えてそう言った。

 「ホンスとはなんじゃ」

 どうやら、本州の事らしく、この辺りの訛りのようだ。

 「そうじゃ。わらわたちはここから遥か東の土地からやって参った。いきなりお邪魔して済まぬ」

 「この子はテオと言いまして、ホンスの方を見かけると友達になりたいのか、家に招くのです」

 「そうか。良いぞテオ。わらわは葵じゃ。友達になろう」

 と葵が言うと、テオはニコと笑った。

 

 「のお。もしやこの子は‥‥」

 「はい‥‥テオは喋る事が出来ません。村の中でも一番年下で、友達と呼べる者もいないのです」

 「憐れじゃのお‥‥」葵はテオに話しかける。

 「わらわものお。友達と呼べる者はおらぬのじゃ。ここにおる良子が歳も近く友達になれそうじゃが、友達なんて滅相もないと言う始末」

 良子がそれを聞いて言う。

 「姫と世話係ですよ!友達なんて‥‥」

 テオは話を聞くと微笑んで、葵と良子の手をお互いに握らせた。

 「見よ。良子や。テオは友達になるべきじゃと言うておるぞ」

 「そりゃあ本当は‥‥友達に‥‥」良子が聞こえないように呟く。

 

 ほどなくして、テオの母親がヤシの実のジュースを人数分持ってきた。

 葵は勿論、次郎たちも初めて飲む。

 正直、美味しくはない。と次郎たちは思ったが、薄味のスポーツドリンクのような味なので飲めない事はない。

 そのなかで葵は「おお!初めての味じゃ!わらわは好きな味じゃ!」と言った。

 お世辞で言っているのでない。いや、葵の場合は味は二の次なところがある。いきなり訪れた自分たちをジュースでもてなした心意気を誉めたのだ。

 

 テオが葵の着物を引っ張り、外へ行こうと誘っている。

 「わかったわかった。飲み物馳走になった。では失礼するぞえ」と、テオに連れられるまま、またついて行くことになった。

 

 しばらく歩いていくと、小高い丘に来た。

 テオがさらに奥に連れていく。

 見ると、海を挟んで向こうに陸が見える。日本で言う九州だ。

 今度は、森の方へ連れていく。

 「テオよ、ゆっくりで良い。はあ、はあ‥‥わらわは‥‥体力がない‥‥はあ‥‥のじゃ」

 と言うとテオは、ごめんなさいといった表情をしてゆっくり歩き出した。

 テオは友達が出来た事が嬉しくて、自分の住んでいる良い場所を案内したいのだろうと、葵たちは思い、喜んでついていくのであった。







 

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