祭り
暦は八月となり、蝉の鳴き声があちこちで聞こえてくる。
うだるような暑さが続く中、葵一行を乗せた屋敷はさらに西へと飛んでいた。
暫く山が続いて何もすることがない。暇を弄ぶように次郎や良子、藤子を呼んで珍しい話しなどを話させていたが、それも飽きてしまった。
「兄上~。何か楽しい事ないかのお」
「そう言われてもなあ‥‥」
「じい、次はどこに向かっておるのじゃ」
「姫様。お祭りに行きたくはございませんか」
「お祭りじゃと!行ってみたい!」
「ふぉふぉふぉ。では、参りましょう」
「やった~!さすがはじいじゃ!」
外を見ると大きくはないがそこそこの街が見えてきた。
屋敷を街の近くだが目立たない場所に着陸させると、葵たちは早速街へと入っていった。
街に入るとずらりと奥の方まで屋台が並んでいる。
「おお!屋台じゃ!兄上~!りんご飴、焼きもろこし、わたがし!迷ってしまうのお!」
次郎は、はしゃぐ葵は一口食べたら終わりなのに、と思っている。
「兄上!何か食べたい物はないのかえ」
「そうだなあ。じゃあ、焼きもろこしにしようかなあ」
「たしかに美味しそうじゃ!主人、もろこしを一つおくれ」
「へい」
次郎がもろこしを受け取ると、葵は金魚すくいを見つけた。
「兄上!あれやってみたい!」と、次郎の袴を引っ張る。
「あ、ああ。金魚すくいか。やってみようか」
二人が座ってみると、正面に雲じいが既に椀一杯に金魚を掬っていた。
じいが親指をたててどや顔している。
「兄上!わらわもやるぞえ!」
葵がポイを手に金魚を追いかけていくが、水からあげるとポイは豪快に破れてしまった。
次郎もポイを持ってやってみた。
山田の時の小学生頃にやったきりだが、その時は何匹か掬えた記憶がある。さらにテレビなどの情報、知識もあるので、かなり掬える自信がある。
まず、タ-ゲットの金魚を見つける。その金魚に気づかれないように後ろからポイを水面に斜めに差し込み、素早く金魚を掬う!
が、金魚に跳ねられ逃がしてしまった!しかもポイも再起不能となった。
「だめかあ。下手になっちまったなあ」
「なんの兄上!もう一度やるぞえ!」
「そうだな!」
ちらと雲じいがやっているのを見てみる。
見ると結構しっかり水の中にポイを入れて、金魚を追いかけながら下から素早く掬っているようだ。
なるべくじいの真似しながらやってみる。
葵は躊躇なくポイを水の中に入れると、近くにいた金魚に狙いを定めて一気に椀へ運んでみた!
「おお!兄上、掬えたぞ!」
「なにっ!これはやられたなあ、葵」
「ふふふ。実はじいのやり方を真似てみたのじゃ」と、次郎にやり方をレクチャーしてみると、次郎もコツを掴み、一匹掬うことが出来た。
お土産の金魚を二人で二匹もらって葵は満足して歩きだす。
「良子と藤子はどこに行ったんじゃろ」
「ああ。さっきは焼きそばのとこにいたみたいだが‥‥」
「では、食べ物屋台をはしごしておるのじゃな。二人とも食べることが好きなのじゃ」
「そうか。葵はたべな‥‥」
次郎が言いかけている時に女性の悲鳴が聞こえてきた!
葵と次郎が駆けつける!
二十代の女性が子供の名前を何度も叫びながら泣いているのが見える!
「茜!茜っ!ああっ!うっ‥‥」
「どうしたのじゃ!話してみよ!」
女が、子供‥‥と思っているようなので次郎が少し説明する。
「この方はこの国の姫様の葵姫だ。話してみてくれ」
「葵‥‥姫様!‥‥はい。さ、先ほど目を少し離した隙に娘の茜を拐われて‥‥」
「なんじゃと!どっちに行ったかわかるかえ」
「あちらに‥‥」と、街の外の方を指差している。
「わかった。ここで泣いておっても仕方ない。一緒に参るぞ。兄上も来てくだされ」
と、人攫いが逃げた方へ三人は走り出した。