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 暑い日が続き、少しでも涼しそうな場所を目指して山の中の竹林に屋敷を降ろす。

 「おお。竹が良い具合に日差しを遮り日陰をつくっておる。涼しいのお」

 雲じいが次郎を連れて何かを作っている。葵は良子を連れて日陰を選びながら散歩している。

 「竹の緑がまっしぐらに空に向かっておる。美しいのお」

 「はい!竹は夏が一番綺麗だと私も思います!」

 

 竹は弾力性と丈夫さにより用途が広い。

 ざるや籠、串、熊手などの工芸、日用品。扇子、提灯、和傘などの骨。物差し、竹とんぼ、竹馬などの文具、玩具。釣り竿、生け簀、魚籠などの釣り道具。他にも竹刀、竹槍、和弓、また、建築で使う足場材にもなる。


 暫く歩いて屋敷に戻ると、藤子により低めのテーブルに座布団が並べられている。

 何より、竹の流しそうめんに目を惹かれる。雲じいと次郎がこれを作っていて、水も流れるように設置している。

 そうめんと薬味は藤子が用意しており、葵にめんつゆの入った器と箸を手渡す。

 竹の流しは直角に二本で構成され、上の竹からの水は藤子が魔力で水の塊を生み出して、チョロチョロ流れるようになっている。

 下の竹の終わり部分には掬い損ねたそうめん受けに、ざるを置いている。

 流し部分には節がいくつかあったが、次郎が流れやすく綺麗に取り除いた。

 流しの竹を支える柱を雲じいが作った。竹を縦に十二分割にして細い竹を12本をつくり、そこから三本取り、針金で固定する。流しの竹を支えるのに柱を二組ずつ使って上手く水が流れるように調整して完成した。


 まずは葵が挑戦する。

 「姫様あ。参りますよ~」藤子がそうめんを入れ始める。

 「おお。流しておくれ~」

 そうめんは上の竹を流れ、下の竹に受けられ、葵の元へ流れている。

 葵はぎこちないながらも掬い上げると、器にそうめんを移した。

 「ふぅ~。上手く掬えたぞ」

 薬味も入れて、そうめんを口へ運ぶ。

 「おお!これは素朴で優しい味じゃなあ。水が冷たいお陰で涼やかになるのお」

 葵は、次はわらわがそうめんを流す役じゃ、と藤子に代わり流し始める。

 「皆並んで食べるのじゃ~」


 屋敷のメンバーは家族。

 誰一人血の繋がりはない。

 旅立ってから三ヶ月になる。

 葵の一言から始まった計画。

 箱入り娘の葵が外の世界を見てみたいと始まった計画。

 そうめんを掬って食べる。

 それだけの事が葵にはとても楽しく嬉しく感じるのだ。

 皆が喜んでくれている。

 それが葵を満足させていた。

 

 流しそうめんが終わると、雲じいが葵に竹馬を渡した。

 「竹馬‥‥」勿論初めて乗る。

 足を乗せる部分を低くしているので乗りやすくはなっているが、コツが分からないので、すぐに降りてしまう。

 次郎が前から支えながら教える。

 「馴れると簡単だ。まあ、馴れるまでが難しいんだが‥‥乗れるな。よし。こんな風に前に体重をかける感じに。じゃあ、右を動かしてみよう。手で竹を持ち上げながら右足を前に出す‥‥力を抜いた方がいいな。お、そうそう。次は左だ。いいぞ。それを交互にやってみるぞ。うん、そうだ」

 「難し‥‥こう‥‥ひだり‥‥」

 交互に何度も歩いていく。次郎は、こっそり持つふりをして手を離す。

 「そうそう。出来てるぞ。葵。一人で歩けてるぞ」と次郎が微笑んで離れる。

 「おお。おお。ほんとじゃ!歩けておるぞ!」

 葵が竹馬のまま走り出した!

 「お~!速い!わらわは速いぞ~!」

 屋敷の周りを駆け抜ける!七月の竹林の日陰に流れる涼やかな風を感じる!

 「兄上~!竹馬楽しいぞえ~!」

 葵が一周して戻ってくる。ひまわりのような笑顔で戻ってくる!

 「兄上~止めて~」

 「えっ!」

 「止まらないのじゃ~」

 「うわ、わかった!」

 次郎は竹馬の間から葵を受け止める!

 葵はそのまま次郎に抱きつきながら、安心して一息つく。

 

 「兄上。竹馬を教えてくれてありがとう」

 次郎は思わぬ素直な言葉に驚く。

 「わらわはのお。こういう楽しい遊びを全然知らなかったのじゃ。世の中の子供たちは、このような遊びをたくさん知っておるのじゃろうなあ」

 「葵‥‥」

 「全部でなくて良い。子供らがどのように遊んでいるのか。それを想像出来れば、わらわは楽しくなれるのじゃ」

 思えば、おはじきやお手玉も知らなかった葵‥‥

 今からでも教わる事が葵にとって大切な事なのだろうか‥‥

 次郎はこの後、竹とんぼを作って葵に見せた。

 これも子供たちが遊んでいると知ると、満面に笑みを浮かべて満足するのであった。







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