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 七月となり日差しが強くなる。

 気温も上がり葵たちは暑さでぐったりしていた。

 「暑いのお‥‥じい。どこか涼める場所を知らぬかえ」

 「それでしたら、良い場所がございますので寄り道しますよ」

 進路を西から南に変えて屋敷は飛んでいく。

 良子と藤子は変更された行き先を予測して何やら準備を始めている。

 葵は次郎に扇で仰いでもらいながら、「氷が欲しいのお‥‥かき氷‥‥食べたい‥‥」

 葵は外を見る余裕がない様子だが、次郎は何となく行き先がわかってきた。これは葵も喜びそうな場所だ。

 「葵。そろそろ着くと思うぞ。外を見てごらん」

 葵はだるそうに身を起こす。目の前には水平線。透明度の高い海が広がっている!

 「おお!海じゃ!一度来てみたかった海じゃ!じい。これは良い場所じゃ!えらいぞ!」

 「ははっ!」

 

 屋敷が砂浜に着陸する。

 良子と藤子が既に水着姿になり、外に出てシ-ト、チェア、パラソルなどを設置している。

 設置が終わると、屋敷に戻り、雲じいと次郎に水着を渡して、葵を別部屋に入っていった。

 与平以外は水着姿で砂浜に立つ。

 雲じいは越中ふんどし。次郎はサーフトランクス。藤子はボディを活かしたビキニ。良子は競泳水着。そして葵は顔だけ出した頭からの全身スーツとなった。

 

 「ちょっと待てえい!」

 葵が良子を呼ぶ。

 「あ、浮き輪ですね~。はいどうぞ」

 「これも必要じゃが‥‥違う違う!」

 「どうしましたか」

 「わらわは何で頭から包まれておるのじゃ」

 「全身用ですので、これが正しい着方になります」

 「あたまは着なくてええじゃろ。のお。兄上」

 次郎は、ゆるキャラみたいでそのままでいいと思っている。

 「そうですね。頭だけ脱ぐという手はあります」

 良子が残念そうに言う。

 「ああ、そうか。頭だけ脱げば良かったのか‥‥というか、もうちょい可愛らしいのは無かったのか‥‥」

 「暑さで急に寄り道で来ましたからね」

 

 暑さを洗い流すように海で泳ぐ。

 葵は泳げないので浮き輪に全身を乗せて浮かんでいる。

 「海の上で気持ちは良いが、泳げないとつまらぬのお。浮かんでいるだけじゃ‥‥」

 雲じいは体力的にもう陸に上がりシ-トで休んでいる。藤子も陸に上がり、食事や飲み物の用意をしている。

 良子は葵の側で泳ぎながら見守っている。

 次郎は久しぶりに泳ぐのだが、あまりの透明度に少し潜水して水中を楽しんでいる。

 山田時代、水泳部に在籍していた。社会人になってからは泳ぎからは遠ざかっていたが、身体が覚えているのか、全盛期のように泳げている。

 

 「ああ、こっちに来たときに次郎として若返ってるのもあるかもな」

 あのままだったらオレはアラフォーだ‥‥

 体力も落ちてきてこんなに泳げなかっただろう‥‥

 それに盗賊スキルの中に、侵入するためか「水泳」「潜水」スキルがある。使わなくても十分泳げている。

 使うと何か変わるのかな、と思いながら水中から顔を出す。

 

 遠くで葵が叫んでいるのが聞こえる!

 見ると、葵が浮き輪に乗ったまま、かなり沖へ流されているのが見えた!

 離岸流だ!

 波がどんどん海岸に打ち寄せると、沖へ戻ろうとする流れがどこかに発生する。

 その流れは毎秒2m!たった一分で120m流されてしまうのだ!

 次郎は岸の皆に叫ぶ!

 「皆が行ってはさらに危険だ!オレが行く!」

 次郎が水泳スキルを発動してみる!

 素の泳ぎよりかなり速い!追いつけそうな速さだ!

 「兄上~!怖いのじゃ!助けてたもれ!」

 葵も波に大きく揺らされ、いつ海に落ちてもおかしくない!

 「葵!なんとかしがみつくんだ!」

 次郎が必死に泳いでいるが、追いつけそうで追いつけない!

 

 さらに遠くから一際大きな波がくる!

 次郎の目の前で葵がその波に呑み込まれていった!

 「潜水!」

 次郎がマグロのような速さで水中を駆け抜ける!

 海底に向かって沈んでいく葵を見つける!

 次郎が全速力で泳いで葵を捕まえる!

 素早く上昇!二人が海面から顔を出す!岸まで200mはある!葵の意識がない!

 次郎は全力で岸に戻る!

 

 うかつだった!プールじゃない海だ!

 泳げない葵の側で守ってやるべきだった!

 

 次郎が海岸に着き、葵に心臓マッサージを試みる!

 全員が駆けつける中、次郎が叫びながら心臓を刺激する!

 「葵!頼む!戻れ!戻るんだ!」

 葵が口から水を吐き出す!

 「次郎様!代わります!」と、与平が後の処置をする。

 

 葵は一命を取り留めた。

 次郎は震えていた。

 スキルのお陰でギリギリ命を助けることが出来た‥‥

 オレが盗賊じゃなかったら、このスキルはない‥‥

 危うく死なせてしまうところだった‥‥

 

 次郎だけではない。むしろ、他の者たちの方が自分を責めているようだった。

 「わしが海に降りなければこんなことには‥‥」

 「食事の用意より姫様を見守っていればこんなことには‥‥」

 「ずっと見ていたにも関わらず姫様を助けられなかった‥‥」

 「姫様の命を預かりながら何も出来なかった‥‥」

 

 葵が体調を取り戻して、皆のいる部屋に訪れた。

 「そう自分を責めるでない。離岸流に沖に拐われるなぞ、運が悪かったのじゃ。じゃが、わらわは生かせてもろうた。運が良かった‥‥。兄上。命を拾うてくれてありがとう」

 皆、葵が助かって本当に良かったと、涙を流しているのだった。








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