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ナデシコ

 所変わってナデシコ国王の城、大和城。

 ナデシコ国王、德俵伊右衛門は久しぶりに葵からの早鳥を招き入れ、手紙を受け取った。

 「一子!一子(かずこ)!葵からの手紙じゃ!」

 伊右衛門に呼ばれ、王妃、一子がバタバタと急ぎ足でやってきた。

 「一子。葵からの手紙じゃからとはしたない」

 「それははしたなくもなります!葵からですよ!」

 「ふふ、まあよい。どれ、一緒に読んでみよう。親愛なる父上母上。早速本題に入りますが‥‥手紙もせっかちじゃのお。わらわが旅に出てから何度か早鳥を飛ばして、父上母上に解決していただきましたが、全国にはこのような悪事や貧しくなる原因。また、何かがなくて困っておる者が多くいるのではないかと思いました。そこで、地域を巡りながら不備を伝える役目の者を探してほしいのです。よろしくおねがいします‥‥とのことじゃ」

 「誰か適任がいるでしょうか‥‥」

 「助九郎。誰かおらぬかのお」

 伊右衛門も一子も実情は助九郎に任せていた。助九郎は伊右衛門と同世代の忠臣で、これまでの人材派遣は助九郎がおこなっていたのだ。

 「左近と椿がいいでしょう」

 「そうか。では、二人を呼んでくれ」

 

 左近と椿が伊右衛門と一子の前に膝をついて礼をする。

 助九郎が二人の紹介をする。

 「左近と椿は現在、大和城の警護をしております。元は忍者の二人。情報収集、変装も得意でございます」

 「なるほど。知っての通り、現在葵が見聞を広める旅に出ておるのじゃが、余の行き届かぬ事が色々あるようでなあ‥‥そこで、そなたたちにも全国を巡りながら、不備不足している事を探ってもらいたいのじゃ」

 「ははっ!」

 「情けない話しじゃ‥‥戦もなく平和に呆けて余は何も見ておらなんだ‥‥たった七つの葵につつかれ、初めて国の実情を知るとは‥‥せめて支援は精一杯やるつもりじゃ。金に糸目はつけぬ。我が民が豊かに不自由なく、そして不安もなく暮らせるよう、見て廻ってくるのだ」

 「ははっ!」

 

 左近と椿が東西に分かれて旅立った後、一子はほっとした表情を見せて話す。

 「それにしましても、葵が元気そうで‥‥ううっ‥‥」

 「そうじゃな。葵はこの一年で自分に出来る事を懸命にやり遂げようとしておる‥‥葵が今後、どのように民を救うのか。頼もしい娘じゃ‥‥」

 

 雲じいの案内する次の名所、飛蕉閣に到着した葵たちは屋敷を降りる。

 六月の花と言えば紫陽花だ。その紫陽花が目の前に広がる。

 「兄上!これは見事な紫陽花じゃ!綺麗に色づいて鮮やかじゃのお」

 走り回りながら花を見ている葵に、良子と藤子がハラハラしながら後を追いかける。

 次郎はいつものように花には興味がないが、葵の反応を楽しんでいる。

 「こっちは桔梗じゃ。これはまた凛々しい花じゃのお!何かこう一途なおなごのような佇まいをしておる」

 「葵。花のどういうとこが好きで見ているんだ」

 と、次郎が聞いてみた。

 「わらわには弟や妹に見えて愛らしいのじゃ。この国に咲いてくれておるのじゃぞ!大事にしてやらねばのお!」

 「そうだったのか‥‥」

 「兄上!これがナデシコじゃ。この国の名をもつ花じゃ!」

 「何でナデシコを国の名前にしたんだろうな」

 「それはのお。分からんのじゃ。なにせ、随分昔の事じゃしのお」

 「ならば困難だな‥‥」

 「謎ではあるが、可愛らしい善き花じゃ。そんな可愛らしい我が子のようなこの国を愛情持って育てたい、そのような理由ならば良いのお」

 次郎は葵にそう言われ、ナデシコが可愛らしく見えてきた。

 

 小さい花びらをしている‥‥

 守りたくなる花だな‥‥

 葵‥‥

 小さくて守りたくなる花‥‥

 

 次郎はナデシコを葵に重ねて俄に愛らしく見えてしまうのだった。







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