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改善

 八郎の母親は嵩崑(すうこん)人参の効果により、みるみる改善していった。

 与平が説明する。

 「随分、健康になりましたね。まず、血行が改善され血色が良くなりました。その事で食欲も増幅されて通常の食事を食べられています。さらに、散歩をする事で日差しに慣れてきて季節に身体が追いつきました。暑さで汗を出しているのが証であります。代謝が出来れば体内は正常に機能します。また、歩くので運動不足も解消しております」

 確かに母親は病に伏せていた頃に比べて、健康的で明るくなった。

 八郎も母がよくなるならと、与平にアドバイスされながら母親によく付き添って励ましていたのだ。

 

 与平から、もう家に戻っても差し支えない事となり、葵は二人に話し掛ける。

 「思えば偶然立ちよった土地ではあったが、八郎の泣き声によって母上の病に気づくことが出来た。じゃが、治るまで十日ほど掛かってしまったので、これからの生活に皺寄せがきておろう。なので、こちらを受け取るのじゃ」と藤子から小判を十分に渡した。

 母親と八郎が驚いて拒否したが、葵は「八郎がのお、色々良くしてもらいながら返すものがない、と悔し涙を流しておった。貧しさを改善するのはすぐには無理じゃ。じゃが、民が十日も仕事を離れれば、取り返すのもまた困難であろう。この小判はの、わらわたちとそなたたちとの時間代と思うて欲しい」

 「時間代‥‥」

 「そうじゃ。母上を治すためとはいえ、十日も要してしもうた。せめて、その時間を払わせておくれ」

 「確かに十日分の稼ぎは、仕事が出来ずなくなりました‥‥本当によろしいのでしょうか‥‥」

 「勿論じゃ。遠慮なく受け取っておくれ」

 「有難うございます‥‥有難うございます‥‥」

 母親は泣き崩れる。八郎は母親に抱きついて涙を流している。

 

 八郎と母親を集落まで送っていくと、雲じいが入り口で出迎えてくれた。

 「運転のおじいさんだ!」八郎が言う。

 葵は集落を訪れながら、ここには医者がいないことに気づいた。

 そこで、雲じいに頼んで空き家をリフォームして病院に改造していたのだ。

 さらにタイミング良く東から馬が走って向かって来ている。

 葵を見つけると馬から降りて膝をついて礼をする。

 「秋田貞包でござる。これより、この地にて医者を勤めて参ります」

 「石巻和子でございます。これより、この地にて秋田様の助手を勤めて参ります」

 「楢川平次郎でござる。これより、この地にて秋田様と共に医者を勤めて参ります」

 「喜多島秀子でございます。これより、この地にて楢川様の助手を勤めて参ります」

 と、あと数人はこの集落の全ての改善のためのチームが来てくれた。

 「皆よう来てくれた!この土地は季節がはっきりしている分、身体がついてゆけず病になりやすい。にも関わらず医者が一人もおらなんだ。これからは皆が健やかに暮らせるよう励んでおくれ」

 「ははっ!」

 

 屋敷が浮かび上がり、新たな土地へ向かう。葵はこれまでの旅を振り返り、不甲斐なく感じていた。

 「兄上。わらわはのお、旅立つまで、外の世界はもっと健康的で人々が豊かで楽しく暮らしていると思うておった。でも実際は病に伏しても医者が居なかったり、男手を奪われ貧しい生活を強いられておったり、水害に悩む土地があったりしておった」

 「そうだな‥‥」

 「父上もなかなか目が届かぬのかも知れぬが、国も放置していたと言われても仕方ない有り様じゃ」

 「事実全てに目を行き届かせるのは難しいだろ」

 「じゃが、それを出来なければならぬ。人の上にいながら、何も知らなかったでは済まぬのじゃ」

 「だが、実情を知るには実際その土地に行かねばなるまい。今回の旅のように」

 「そこでじゃ。兄上のような盗賊を使いたいと考えておる。盗賊は身軽で足も早い。一定の地域を巡らせ、足りぬものや必要だと思うものを随時知らせてもらうのじゃ!」

 「名案だが、盗賊を使うというのが難関ではないか」

 「行動に見合う報酬を与えれば良かろう」

 「それはいいが、問題は人間性だ。盗賊だぞ。いいやつばかりじゃない」

 「ふむ‥‥」

 「盗賊じゃなくても、信用の置ける者に巡らせた方がいいだろう」

 

 それを受け、葵は早速手紙を書き始めた。

 「早鳥、出でよ!」

 葵は鳥の足に手紙をくくりつけ、城へ飛び立たせた。

 王は手紙を受け取ると、男女二人を呼び寄せた。

 左近と椿という名で二人とも元忍者である。

 この国では既に戦は終わり、忍者は廃業となっていた。侍となるもの、商人になるものなど様々だが、二人はたまたま城の警護をしていた者たちであった。

 左近と椿は東西に分かれ、変装しながら土地ごとに馴染みながら調査していった。

 葵は忍者を知らなかった。産まれる前からその職業がなかったからだ。

 これにより、国として少しずつだが改善されていく土地が増えていくこととなった。

 






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