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工事完了

 津波対策の堤防建設もいよいよ大詰めとなった。

 ここまで二週間掛けて数千人の作業員を投入して、かなり広範囲の堤防が完成した。

 「これまでよく頑張って作業を進めてくれた。予定では本日終わる事になりそうじゃが、ゆめゆめ油断してはならぬ。良いか。そなたたちが一番えらいのはこれだけの工事を行いながら事故や怪我人を一つも出していないことじゃ。早さはいらぬ。丁寧に安全に声を掛け合うのじゃぞ」

 葵の声掛けに作業員全員が大歓声で応える。

 

 「おらの て~ぼ~ ほこら~しい~♪

  まごの ひまごの まもり~がみ~♪

  あめも たいふう こわく~ない~♪

  あおい ひめさま かわい~らし~♪」


 昼食を終えてほどなくして、作業は完了したと報告があった。それを受け相馬半兵衛と寺岡信行が最終確認で端から見て回る。

 二人が確認を終えて葵に報告する。

 「最終確認を終えました。高さ、厚み、固さなど十分に津波に耐えうる強さとなりました。末代まで集落を守る魔除けとなりましょう」

 「そうか。真に大義であった。寺岡殿、これからの管理も引き続き頼むぞ。津波だけではなく、日々の波打ちに破損があれば補修せねばならぬ。これくらいと軽視せぬようにのお」

 「ははっ!姫様の申された通りに致します!」

 「相馬殿はこの後どうするのじゃ」

 「拙者も寺岡殿と同じく管理していく所存にございます」

 「あいわかった。ではよろしく頼むぞ」

 「ははっ!」

 

 葵が作業員皆の前に出る。

 「皆の衆、以上でこの工事は終わりじゃ。真によく頑張ったのお。そなたたちが作った堤防は未来永劫残さねばならぬ。それでこそ家族を、さらには末代まで守る魔除けとなるのじゃ。出来たことに満足せず、その後も時間がある時で良いから見に来るのが大事じゃぞ。それと、疲れたところ時間を掛けてしまうが、順番に礼金を受け取って家に帰るのじゃ。その日の飲み代で全部遣うでないぞ」

 良子と藤子が、順番に公平に礼金を渡していく。

 一人一人十分な報酬を手にして満足して帰っていく。先崎政之助が持参した小判をどんどん渡され、全て支払った頃には千両箱も全て空になってしまった。


 葵たちもつきっきりで工事に携わっていたので、屋敷に戻って久しぶりにゆっくり休むことにした。


 翌朝、集落の村人たちに工事完了の報告を伝えにいくと、各家庭や色んな場所に藁で出来た葵姫が飾られていた。

 「姫様あ!工事お疲れ様でした~!」

 「姫様あ!これで不安なく生きていけます~!」

 「姫様あ!有難うございました~!」

 と、村人が葵たちの周りにどっと集まってきた。

 「皆の衆、街のものたちが立派な堤防を作ってくれたぞ。今後、水害の心配はないと思ってもらって良いかと思う」

 「姫様、なんと謙虚な!」

 「姫様が動いて下さったお陰ですぞ!」

 良子と藤子は、うんうんと頷いている。

 「わらわは‥‥土塁など重くて持てぬし‥‥監督も別の者に任せてたんじゃぞ」

 「では、総監督となりますなあ!」

 「ぬう、もうそれでよいわ!それより、これらの藁の姫はわらわなのかえ」

 「はい!誰からともなく、新しい守り神としてお作りするのが流行りまして!」

 「恥ずかしいのお‥‥じゃが、作ってもらえたことは有難いの。それならば、わらわだけでなく、この者たちも藁の人形を作ってくれぬか。わらわよりも工事に励んだ者たちじゃ」

 「はい!」

 

 それからこの集落では次郎や良子、藤子も作り、新たな魔除けとして飾られていく。


 集落の者たちと分かれ、再び彭丈園に向かう。

 空から見る堤防は、下流域をしっかり守る防護壁となっているのがわかる。津波対策の堤防も乗り越えられずに波を受け止めてくれそうだ。

 次郎は、今回の工事を振り返り考えていた。

 空から見ていて改めて思う。これだけ広範囲の堤防を、集落を守るためとはいえ、よく作ろうと思えたものだと。

 人数が集まったから良かったものの、集まる人数によっては何年掛かるか分からない規模だ。集められても今回のように莫大な費用が掛かる。いくら姫からのお願いといえど、すんなり出せたのは何故なんだ。

 

 次郎の考えを察した藤子が代わりに答える。

 「次郎様。人集めは思っておられるより簡単でございます。経験不問で相場より高めの報酬を提示するだけである程度集まります。例えば、無職の者は勿論、現在行っている仕事よりも稼げると思った者は来てくれます。あとは大義名分で動く者もいます。この工事は多くの者を救う作業になる。完了した暁には未来永劫この偉業は語り継がれるだろう。いざ参加せよ、と」

 「なるほど‥‥」

 「軍資金については‥‥今はお話し出来ません。但しお話し出来る日はあります。それまでお待ちください」

 「わ、分かりました」

 

 「彭丈園が見えて参りましたぞ」

 雲じいが教えてくれた。









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