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欲しかった言葉

 治水工事は朝から夕方まで行われた。街まで遠くはないので皆一旦自分たちの家に帰る。そして翌朝続きの工事を行っていく。

 さすがに数千規模の食事を藤子一人では大変なので各自持参でお願いしている。

 工事が順調に四日目に入り、下流沿いの堤防は高さに加え厚みもかなりのものに出来上がった。

 今日からは補強工事を行い、せっかく作った堤防が崩れないように固めていく。

 東から馬の走ってくる音が聞こえてくる。

 葵の姿を見かけると馬から降りて膝をついて礼をした。

 「早田新右衛門でござる。これより、この地の領主、丹波家に向かい、お目付け役を果たして参ります」

 「荒井千吉でござる。これより、早田様とともに丹波家の財政、帳簿に誤りがないか確認を果たして参ります」

 「相馬半兵衛でござる。これより、この地にて津波対策の堤防建設の監督を果たして参ります」

 「寺岡信行でござる。これより、相馬様とともに堤防建設の管理維持並びに警護を果たして参ります」

 「先崎政之助でござる。陛下より大規模工事の軍資金にするようにと千両箱を十五箱持参致しました」

 と、五名ずつ十名が挨拶していった。

 「皆よう来てくれた!領主丹波は賭博と女に散財しておるようじゃ。決して赦すでないぞ!また、津波対策の堤防建設も大規模工事になる。怪我人が出ぬように気をつけよ!海の近くじゃから波が高い時は無理せず中止するのじゃぞ!」

 「ははっ!」

 では、これにて、とそれぞれの持ち場へ向かって行った。

 

 

 領主丹波家では、早田新右衛門に領主丹波茂利はこってり搾られていた。

 「賭博はいつ頃から始めてどれくらい使ったか答えよ」

 「三年前‥‥です。小判百枚程です」

 「荒井殿、いかがでござるか」

 「八年前に領主に就任してからでございます。女遊びもこの頃からで、ざっと小判八千枚は出費しております」

 「丹波、嘘はいかんなあ。何故嘘をつくのだ」

 「い、いやあ‥‥き、記憶が‥‥そのう」

 「棒打ち二十回!」

 「ひいっ!ぎゃああっ!」

 

 「村人から何度も治水工事をお願いする依頼があったようだが、何故実施しなかった」

 「それは‥‥その‥‥」

 「荒井殿、いかがでござるか」

 「聞き込みによりますと、下僕に対応させておいて、結局は毎回放置していたようでござります」

 「不誠実!自己中心的!話しにならぬ。棒打ち二十回!」

 「は、反省しますっ!やめっ、ぎゃああっ!」

 「お主の領地は水害が発生しやすい上に、大きな地震があれば津波で壊滅する危うい土地だ。賭博や女遊びなどせず、就任からコツコツ始めておればとっくに領民を守れる立派な堤防が出来ておったのだ」

 「は‥‥い‥‥」

 「知ってるか。不甲斐ないお主に代わり、葵姫が先日から大規模工事を行っておる。今年七歳の姫様が、だ」

 「なんですと!‥‥」

 「お主は就任してから何も仕事をしていない!よって、役職剥奪!領地没収!財産差し押さえとし、懲役七十五年とする!」

 丹波茂利は黒い髪を一瞬で白髪になり、絶望の目をして連れられてしまった。


 工事を始めて一週間になり、堤防は補強工事も終わり、津波対策の堤防建設を中心に進めていく。

 葵も現場に着き、作業員に声を掛ける。

 「急な大規模工事を連日取り組んで頂き、大義である!そなたたちが今行っておる工事はそなたたちの家族を末代まで守る真の魔除けとなるものじゃ!見事造り上げた暁には誇りとせよ!じゃが、無理はするでないぞ!これは重労働じゃ。疲れたら十分休むのじゃぞ!」

 これを聞き、作業員が大歓声を挙げる!

 「こんな小さな姫様に鼓舞されて頑張らねえわけにはいかねえなあ!」

 「わしらでも誇れるものを造れる‥‥やる!やるぞ!」

 「疲れたら十分休め、とは、この仕事のきつさをよく分かってる。大した姫様だぜ!」

 工事が佳境に入り、疲れもピークを迎えた今、最も欲しかった言葉をもらい、作業員たちの心に響く!

 「作業する時は唄を唄うのも良いぞ!わらわはちょっと思い浮かばぬが、誰か唄えるか」

 葵が言うと、どこからともなく唄い始める者が出てきた。

 それに合わせて唄が広がっていく!

 唄は疲れを軽減させ、緊張を手解き、協調性を生む。

 チームワークが強くなり作業はテンポ良く進んでいった。








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