義賊 太助と次郎
盗賊の次郎は五年前に、この異世界に来た。
前の世界では鍵屋をやっていて、金庫やドアを解錠したり合鍵の作成などの仕事をしていた。
その時の名前は山田龍彦。三十路。二十四時間対応で一人で全てをこなしていたので、体力的に疲れがピークに来ていた。
運転しながら、気づけば寝ていた事があった。
そんな中でも一日に数件の依頼をこなしていかないといけない。
深夜0時を回る。
ようやく今日の仕事を終わらせた山田は運転しながらラジオをつける。
ラジオでは、自分の夢をテーマにしてリスナーからメールしてもらい読み上げている。
色んな職業が出る中でもYouTuberを目指す人が結構いることに驚いた。
「なりたい仕事が出来たら最高だけど、そう上手くいかないのが人生てもんよ」
山田が呟く。
鍵屋も、やりたくてなった職業ではない。
経験も何もなかったが、コツコツ自分のペースで出来る仕事だと思って始めたのがきっかけだった。
本来は警察官になりたかったが落ちてしまい、それからはアルバイトを色々やるようになった。
その時たまたま鍵屋を始められる機会があり、そのまま職業にしたのだ。
気づけばラジオの声が聞こえなくなっていた。
寝てる!
ヤバいと思って慌てて山田が目を開けると、目の前に対向車が来ていた!
避ける間もなく山田は即死。
そして山田は異世界に来た。
異世界での山田はだいぶ若くなっていた。十二、三歳くらいだろうか。気づけばそこは古びた小屋の中だった。これはまた貧しそうな場所だなと思っていると、改めて見渡すと着替えの服や何かの道具があったり、どうやら自分はここに住んでいるらしいことがわかった。
「次郎、そろそろ行くぞ。用意しろ」
小屋の外から声がした。次郎というのはオレの名前なんだろう。
「すまん、どこに行くんだ」と、聞いてみる。
「はあ?!高木の屋敷だろうがよ」
高木の屋敷……よく分からない……
「すまねえ。何をしに行くのかよく覚えてないんだ。教えてくれないか」
と言うと外の男はため息をついて教えてくれた。
「俺たちは盗賊だ。当然盗みに行くんだ。だが、高木は悪どいやり方で稼いでいる。だからそいつから金を奪って村のみんなに分けてやるんだ」
なるほど、義賊というやつか。
そういや何かの道具があったな。ふむ、こりゃあ鍵開けの道具だ。
前の世界の記憶ならあるから解錠は出来る。
でも、本当に出来るのか。
不安はあるが道具を持って外に出た。
外には声の主の男がいた。名前も、太助と教えてもらった。年の頃は十五歳ぐらいだ。
村の様子を改めて見渡すと、贔屓目に見ても貧しい村だ。太助はこんな貧しい村になったのは、どこかで悪いやつがその分を稼いでいるはずだと思って計画したのがきっかけで盗賊を始めたという。
黒頭巾黒装束となり、村を出て山に入る。
走りながら思う。
月が無かったら、これじゃ真っ暗だ。時代も以前とはかなり過去にいるような、感覚だ。
ほどなくして、城下町に着いた。
太助がついてこいと先に行く。だが、行き先が民家の屋根だ。太助は身軽に登って次郎を待っている。
次郎は試しに太助と同じルートで登ってみる。すると、自分が思っていたより跳べている!まるで重力が軽減されて月を歩いているような、不思議な感覚だ!
屋根伝いに走る。
あっという間に目的の高木の屋敷にたどり着いた。
「次郎、暗視を発動しろ。見張りの提灯を消すからな」
暗視……なんだそれは。
「おい、暗視も忘れたのか?スキルを思い浮かべろ。その中に暗視がある。それを選択して発動するんだ」
スキルって、ゲームかよ。と思いながら言う通りにしてみると頭の中に使えるスキルがズラリと並ぶ。
「暗視……あった。発動」
すると、赤外線カメラのように周りが見える!
太助はそれを確認すると見張りの提灯を吹き矢で消していった。月の明かりがあるが、これはかなり暗い。
太助と次郎が倉の屋根に着き、瓦を剥がして中に入る。早速、小判入れの箱を見つける。
しかし、鎖で縛られさらに南京錠が三個もついている。倉は三階建て。見張りが改めて提灯を用意してここまで来るまでに解錠しなければならない!
次郎は山田の時の知識を思い出す。
それに三個とも一般的なシリンダー式だ……
鍵穴は底面にある……
これなら針金で楽勝だ……
見張りが倉の閂を開ける音がした!
次郎は針金を二本用意すると一本を直角に形づける。
直角針金を鍵穴に差し込み鍵を回す方向に力を入れる。
見張りが移動する音がする。侵入者に注意しながら階段を目指しているようだ。
次郎が真っ直ぐな針金を差し込みシリンダー内部のピンを削るように前後に動かす。
ピンが全て揃い、カチッとした感触!次郎が一つ解錠した。
見張りはもう二階に来ている!
次郎が二個目に取り掛かる。
階段を登って来ている!
登りきればそこには太助と次郎がいる三階だ!
次郎が二個目を解錠した!
見張りの提灯が三階に現れた!
恐る恐る見張りが奥の小判入れの場所まで来てみると、すでに鎖はほどかれて小判入れを二箱盗まれた後であった。
太助と次郎は軽やかな足取りで屋根伝いに戻っていく。
小判入れも相当重いはずだが重力軽減スキルで軽くしている。
しかし、この町並みはまるで江戸時代のように長屋ばかりだ。
だが、スキルなんて要素はどういう事だろう。
太助が屋敷から離れた貧しい一角で止まった。
屋根の上から奪った小判入れから小判を取り出し、豪快に撒き始めた!
「俺たちは義賊の十右衛門様だ!悪どい商売をしていた高木の小判を頂戴した!これで酒でも呑むがいい!」
町民は我先にと小判を懐に入れていく。
町民にとって義賊はヒ-ロ-だった。いなければ、富裕と貧困の差はさらに広がり、暮らすこともままならない。そういう時代である。
太助と次郎はそのように義賊をやってきていたのだが、山田にとっては初めての盗賊だ。
山田が知っている義賊と言えば鼠小僧や石川五右衛門。自分がまさにそれをやっている事が、何か現実離れしていて夢を見ている感覚だった。
そして……。
あれから五年の月日が流れた。
幾度も富裕な屋敷から小判を盗んでは貧しい者たちに分け与えてきた。
自分たちの報酬は、小判一枚ずつにしている。
盗んだ小判全てを報酬にしてもいいのだが、自分が富裕になると、それこそ悪どいやり方で稼いだ悪人となる。義賊は本来、王が政策を施して貧困を助けなければならないものを代わりに行い正していく存在である。
だから報酬は最低限にしているのだ。
四月となり、寒さも和らいできた頃。
太助は遂に王の城を狙う事を計画する。
長年、悪どい富裕が無くならないのは王の政策に問題があると、一度鉄槌を下そうとの事である。
そして、そこで次郎は、ある姫と出逢うことになるのだ……