葉山邸
葉山邸である。
まさに、ドラマで見たような大きな屋敷である。門から中の屋敷まで車で三分弱とかなりデカい。洋式の屋敷であったものの、どこか昔の日本経済が潤ってたバブル期(株式、土地高騰など)に建てられたのを改装したのだともいえる。屋敷の前にはベンツが置かれていたが、その隣に植木屋の白い軽トラックが置いてあった。
植木職人の親方にハルと弟子はミナトが憑依していた。
ミナトは、セキュリティカメラと自分の眼をリンクさせて見ていた。
「準備できたっす」
「おう。あとは任せろ。植木は、こっちで適当に切っとくよ」
と、一応は仕事をし始める。
植木の中に何かを仕込んでいた。
そこへ、手前の若い女の子のピザ屋に憑依した三田である。
ピザを届けてついでにあるモノを巧みに盗む事が任務だ。
「誰も注文なんかしてねぇはずだ」
とガラの悪い変な柄のシャツを着ていた男がそう言った。
「この家の番号からなんですが」
とスマホに表示された番号を見せた。
「誰か、注文したのか」
と、勝手に納得してスマホをいじり出した。
支払いの画面がフリーズしている。
「スマホの調子がおかしいから。今、財布を持ってくるから待ちな!」
と言って奥の方に行った。
三田は、下駄箱から靴の裏にGPSの発信器を取り付けた。
スリは、基本的に元の場所に戻す事が得意だ。誰の靴がどこの場所か狂いもなく仕掛けて元の場所に戻した。これで、いちいち、尾行なんかしなくとも足取りはコレでバッチリだ。
玄関にはもう1人の訪問者がいた。
「メンタルセラピストの御影 蘭子です。奥様にお取り次ぎください」
と中に入り込んだ。
彼女は一回、見れば記憶できる能力が備わっていた。下半身が無くなって、知能が倍増したそうだ。
そこへ葉山夫人である。
いかにもセレブらしい服装はしていたが着せ替え人形みたいな感じで、ウェーブの長い髪は艶があっても彼女からは正気がない。
「先生、こちらへ」
と奥の方に通された。
応接間だが、何処かの有名な画伯が描いた絵や高級家具のテーブルや椅子、ソファと敷き詰められた絨毯まで豪華だった。
ただ、葉山夫人だけが、ぼんやりとしていた。
「すみません。先生にここまでご足労いただくなんて」
落ち込みが見て取れる。
せっかくの運ばれたお茶だが、飲んでいる暇はない。
「あなたは、もう死んでいる!まさに、お化けですね」
「えっ?」
「もう、お化けに飽きたでしょう!」
葉山夫人、いや、麗子は、瞳を大きく見開いていた。
意表を突いたのだ。
「ここらで蘇りませんか?」
蘭子は、袋からウォーキングシューズを取り出した。
「貴女は、今日から貴女の道を歩くのです」
言われるまま、夫人は靴を履いた。
そして地図を渡した。
「私が出来るのは、これまで!ごきげんよう!」
と、とっとと帰って行った。
あんまりにも呆気ないのでぽかーんとしていた。
メールでのやり取りは、かなり丁寧だったので会う事にしたのだ。
地図、初めてだ。
誰も地図なんて渡してくれなかった。
実家の父親は、「お前は黙ってオレの言うことさえ聞けばいい」と結婚した相手もそうだった。
買い物は、いつもデパートの店員が家まで運んでくれる。美容院も有名なところ。着る物やバックも何処かのブランド。何もかも決められた世界。
一枚の地図を広げた。
この近所の地図だ。
手書きの可愛らしいイラストだった。
パン屋、喫茶店、お花屋さん、お肉屋さんの所には、『コロッケが美味しい』。
お婆ちゃんの美容院。
神社には、ソフトクリームが描いてあって、、。
見ていて楽しくなった。
それに、このシューズは、なんて履き心地が良いんだろう!