幽霊ときどき半お化け刑事
妻を守るために、殺された被害者のハルさんと事件を捜査する事にした。
半お化けの時は、パジャマだったがハルさんのお陰でいつも着ているグレーのスーツに、着替える事にした。
といっても着ていた時のイメージで変えられるだけなんだがこれは便利だと思った。
幸い、ハルさんは幽霊なので憑依という能力がある。
僕を罠に嵌めた人間に思い当たるのは、数知れず被害者家族にも無能と罵られ、今もときどき、死ね!と手紙がくる。
「お前さんは、意外にも刑事に向いているかもな」
とハルさんが言う。
落ち込んだりしそうもないタイプだと思われているみたいだ。
ハルさんは女、子供には悪さはしなかったが男には容赦しなかったらしい。
「やっぱ、男の悲鳴って最高!」
と凄いテンションだ。
男専門のサディストらしい。
縦のシマシマのスーツが似合っていた。
「本当に、妻に、恨みが無いんですよね」
「ないよ。俺はまともな人間じゃなかったから、殺される覚悟はしていたよ。たまたま、相手がアンタの奥さんで良かったよ」
アッサリとした答えだった。
「えっ!だって、まともな殺され方してなかったんですよね」
と、妻が起こした現場写真は壮絶だった。
バラバラ死体もいいところ。
思い出したら吐きそうだけど。
だけど、あの笑顔には勝てない!
やっぱ、好きなんだなぁと照れていた。
「おいおい。まともに殺された方が怨むかも知れないよ」
「ハルさん、他に、まりえちゃんに殺されて幽霊になっている人とか居ませんか?」
この際、幽霊といえども妻に害する連中はピックアップしたい。
「いるけど。アイツには近寄れないほど怯えてるよ。逆に長生きしてもらった方が助かる連中だよ」
「そんなに酷い目に遭ったんですね」
ひとまず、安心だ。
さてと、どうするかなぁ。
職場に行ってみるかと昼間っから半お化けと幽霊は、警察署に向かった。
電車を乗り継いで殺人課の部屋にたどり着いた。幽霊と半お化けは、飛べなかった。
中では、物物しい話をしていた。
「まさか、杉浦が署の麻薬を横流ししていたなんて」
同僚の宮田がそう言った。
「人は見かけによらないですね」
と、山田が頷きながら言った。
えっ!麻薬ってなんだ!
僕はそんな事してないぞ。
「先輩は、そんな事しませんよ」
と、後輩の篠田は否定してくれた。
「まぁ、こればかりは、分からないからなぁ」
課長までそんな事言うの?とショックだ。
前髪薄い課長を恨めしそうに見つめると。
「なんか寒く無いか?ゾクゾクするぞ」
半お化けでも温度を下げる能力は有るらしい。
「とにかく、アイツがそんな事はしない。まぁ、調べるのは麻薬取締の連中だろうよ」
通称、マトリ。
ご縁がない部署である。
麻薬絡みの殺人は、ほとんどない。
というより、僕はまだ死んでいない。
植物人間とはいえ生きている。
「ハルさん、麻薬の売人って詳しい?」
と相棒のハルさんに話をした。
「おう。任せろ」
そんな訳でとある六本木のクラブである。
見覚えのある場所。
もしかして、まりえちゃんが殺したのは売人の元締めを突き止めるため。
僕は、まりえちゃんに愛されてるんだなぁと照れてると。
「お前なぁ。時たま、変な顔するけど。止めろよ。それとも、お前、俺のことを、、」
「ま、ま、まりえちゃんが僕のために、バラバラ死体を作ってたなんて」
と泣きだした。
「おい、後悔してもしょうがないだろう」
「いいえ、違うんです。感激しちゃって」
「お前、刑事だろう?」
「でも、1人の男です。僕との結婚も仕方がなくしたのかなぁとコレでも落ち込んだりしたんです」
殺せない男との結婚なんて殺人鬼には地獄だよなぁと。
「それより。被害者とかお前、考えないの?さっき殺されたあんな奴でも家族はいるんだよ」
「あ、あ。それ。まりえちゃん絡みの被害者家族は皆さま、喜んでましたよ。逆にこっちが殺そうと思ってたって」
本当のことだった。
テレビドラマなんかは、1人ぐらいは、泣いたりするが現実には皆無だった。
「でもよ。お前。1人ぐらいは悲しんでやれよ」
「うん。そうですね。植物人間から回復したらビールをお供えして供養してみますね」
と、なんか脳天気な刑事だった。