セリーナの婚約者
「セリーナ様は殿下と婚約をされていたのですね!」
サムさんとダニエルさんとお話をしているときに聞かれました。
「え、えぇ、そうでしたわね」
曖昧にお返事を返してしまってすみません。するとお二人は何かを察してくださったのか、話題を変えてくださいましたわ。
このお二人のこういった些細な気遣いはとても素晴らしく思いますわね、ありがたいと言うか……もちろん隠している訳ではありませんが、自ら宣言する必要性が感じられないと言うか……
「セリーナ様、先週のお休みには話をした教会へ行かれたとの事でしたが、」
「えぇ! そうなんですの。小さい子たちがみんなで学んでいる姿を見ると、国の明るい将来が見えたようで嬉しくなりました。市民の皆さんが通えるような学校があればよろしいのにと思いました。微力ながら、父に相談して本と筆記用具は寄付させて貰える事になりましたわ」
サムの話の途中で珍しくセリーナが興奮した様子で返事をする。
「セリーナ様ありがとうございます。みんな喜びますよ!」
「何かの足しにしていただけたらとても嬉しく思いますわ。今度教会でバザーがあるそうなので、私も寄付する事になったのです。手作りのものを持ち寄るのだそうですね。それでお二人にお手伝いしていただきたいのです」
教会では年に一度バザーがあり周辺の方々が寄付をしたりバザーで販売するお菓子や花など手作りのものを販売して教会は生計を立てている。教会は祈りを捧げたりと市民の心の拠り所でもある。
「はい。喜んで!」
「私のように貴族が行くと皆さん萎縮されては困りますでしょう? 邸で侍女とお菓子を作る事にするので、それを販売していただきたいのです。そのお菓子の売り上げを教会への寄付にしたいと思っていますの」
焼き菓子は人気の品で毎年完売すると聞いた。どうせなら人気のものを販売して少しでも力になりたい。
「なんて慈悲深い……みんな喜びます。ありがとうございますセリーナ様」
良かったですわ。何かのお役に立てそうで! お菓子なんて実は作ったことはありませんけど、侍女は作れるそうなので教えてもらう事になった。
「それでは私は失礼しますわね、サムさん、ダニエルさん、また明日」
「「はい、お気をつけて!」」
今日も実にタメになるお話を聞かせてもらいました。教会のバザーが楽しみですわね。焼き菓子を作るなんて初めての経験ですもの。
******
「セリーナが教会のバザーに焼き菓子を寄付するようなんだ。なんとかして全部買取できるように手を回せないか?」
ジェフェリーが側近達に言った。
「無理です! 良い加減にしてください。お茶です! お茶に誘いなさい」
側近の一人がジェフェリーにごちる。
「それより、あの平民の男子生徒と話している時のセリーナは楽しそうで、見ていて辛い! それに私のことを聞かれても、なんのコメントもなかったではないか……」
うじうじとするジェフェリーを見て側近の一人が言った。
「もしかして嫌われているんじゃないですか? 同じ学園にいるのに声もかけないし、婚約者の交流も持たない。なのに年に数回律儀に手紙は届くんですから、複雑でしょうね」
「そう言うものなのか?!」
「いえ、分かりませんけどね」
「明日こそお茶に誘おう……」
「得意の手紙でお誘いすればよろしいのでは?」
「そうだな……そうするよ」
はぁ。とため息をつくジェフェリー。
「話したい事は沢山あるのにな……」
「格好つけてないで、ありのままの姿をお見せすれば良いのですよ。あの無表情の顔では好かれませんよ?」
現時点で百面相をしているような面持ちだ。
「そうなると顔面崩壊だぞ?」
「セリーナ様の前限定とすればよろしいではないですか? 女性はツンデレとか言うものに弱いと聞きましたよ。いい言葉が世の中にはあるものですね」
「ツンデレ……か。覚えておこう」
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