三ヶ月でお役御免の世話役
「ジュリアナ様が羨ましいですわ! 殿下にお世話を焼いて頂けるだなんて。学園を卒業したら殿下にお会いするチャンスはそうそうございませんものね」
クラスメイトがジュリアナ様を囲んでお話をされていました。皆さんと交流が出来ていてとても良いことですわね。
「どうして会えなくなるのですか?」
ジュリアナ様がそう仰ると話をしていた皆さんは笑い出しました。
「ふふふっ。学園は平等と言われますけれど、皆さんちゃんと身分を弁えていますのよ。今は毎日学園に通っていますし、殿下を頻繁にお見掛けする事が出来ますけれど、卒業後はそれぞれ別の道に分かれますでしょう? ジュリアナ様は将来王宮でお勤めされますの?」
成績優秀者は平民であっても王宮で働く事が出来るし貴族でも女官志望者は多いと聞く。
「はい。出来ればジェフェリー殿下のお側でと思います!」
明るく元気に答えるジュリアナ様を疑問に思った生徒が質問した。
「それは、どう言った意味で、ですの?」
ジェフェリーの側で働く人物は特に厳しく審査される事になる。ジェフェリーは将来王になる人物で学園が同じでただ優秀と言うだけでは選ばれない。
「え! 秘書とか? ですよ!」
「それは難しいですわよ。殿下の側近の方は皆男性です。殿下のお側に付ける女性といえば、婚約者か侍女、メイドくらいですし、侍女やメイドでも皆さん高い教養がありますし、貴族の令嬢ばかり……執務のお手伝いとなれば尚更、婚姻関係を結ばないと厳しいですわよ」
貴族の令嬢ならば皆知っている事。貴族の家で執務を手伝う人物は血縁関係があるもの、当主が信頼できるもの。王族の手伝いとなれば尚更のこと。国家の機密を守れるもの。そうでなければ務まらない。
「そうなんですか……厳しいのですね」
「国の重要書類なども沢山ありますでしょうから……でも! 王宮で働いたら箔がついて、婚姻先も優遇されたりですとか信用は高まりますもの。ジュリアナ様はこの学園に入学出来る程優秀ですから努力次第ですわね」
皆が笑顔でうんうん。と頷いていた。
「……私が平民だからですか?」
ジュリアナが言った。
「何を仰ってますの?」
生徒達に悪気は一切ない。ジェフェリーが世話役をしている平民の生徒に食ってかかるほど愚かではない。
「私が平民だからジェフェリー殿下の近くにいるのが気に入らないんですか?」
「そうは言っておりませんわよ? ジュリアナ様が羨ましいと言うお話でしたでしょう? 三ヶ月間とはいえ学園にいる間は殿下が自らジュリアナ様のお世話をしてくださるのですから」
「平民だから情けで世話をしてくれると言いたいのですね? 貴族サマ特有の遠回し……ひどいですぅ」
ジュリアナは、わぁぁっ。と泣き出した。周りの生徒達も何事かと注目し出した。
「困りましたわね……そんなつもりはございませんのに」
騒がしくなって来ました。クラスの皆さんが泣いているジュリアナ様に注目していますわね。話は聞こえていましたし、フォローする為に立ち上がりジュリアナ様達の元へ行こうとしていた時でした。
そこへ殿下がちょうどよく登場されましたわ。こちらの様子を見て、固まっているようでした。何があったか分かりませんものね。
「ジェフェリー様ぁぁ……」
ジュリアナ様は、「わぁぁん」と子供のように泣きながら殿下の元へ行きました。固まる殿下の腕に抱きつきました。
「酷いことを言われました。私が平民だからとバカにされました」
ジュリアナ様が指を差す方向はなぜか私に向かっていますわね。
殿下がはっとした顔をして私と目が合いました。久しぶりに殿下と目が合ったような気がします。
「ここから連れ出してください」
ジュリアナ様はそう言って殿下を強引に教室の外に連れ出しました。
「セリーナ様、お騒がせしてしまい申し訳ございませんでした」
先ほどジュリアナ様とお話をされていた令嬢達が私に謝ってきましたが、気になさらないで欲しいのです。
「いいえ。変に誤解を受けてしまわれたようですわね。私もフォローしようとして出遅れたことをお詫びいたしますわ」
もう少し早く声をかけていれば何か違ったかもしれませんもの。殿下にも申し訳ないような気がしました。
「セリーナ様……なんてお優しいお言葉を……さすが殿下の婚約者でいらっしゃいますわ」
******
「お茶に誘えましたか?」
執務室に戻り椅子に腰掛け机に向かった。するといつものように側近に声を掛けられた。
「いや……よくわからないんだが、あの女子生徒が泣いていて教室から強引に連れ出されたんだけど、セリーナと目が合った。久しぶりだったよ! 嬉しいものだな。目が合うのは。セリーナは可愛すぎて尊い」
「連れ出されたって……三ヶ月の間だけの世話役ですよ! 世話役だとしても距離感を持って接してくださいね! 変に誤解を招くような態度を取らない事! それと! セリーナ様とお話をしないのであれば、単なる付き纏い事案となります。お気をつけください。気持ち悪いですよ」
はぁ。とため息を吐く側近の一人。
「せっかく勇気を振り絞ってセリーナに話しかけようと教室へ行ったのにあの女子生徒に邪魔をされてしまった……」
「へたれ……」
「何か言ったか?」
「……いいえ」
「そうか……」
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