セリーナのデビュー
「美しすぎて直視できないよ、セリーナ」
まるで眩しいものを見るように目を細めるジェフェリー様。
デビューまでに婚約を解消と言う当初の作戦は失敗に終わりましたが、ここ数日でジェフェリー様への気持の変化があり、このままが良いなぁ。と思っています。
ジェフェリー様はとても優しくて、王妃様曰くデレデレしない! と注意されていますけれど、私の前でだけだとおっしゃってくれるので、特別感? が感じられてすごく嬉しいのです。
【ツンデレ】と言う言葉を殿下の側近の方にお聞きしました。今、ご令嬢の中で流行っているのだそうです。
普段はツンとすましているのに一定の大事な人の前でだけ優しいお顔を見せてくれるのだそうです。それがツンデレと言うそうです。
ジェフェリー様は私にだけそのような態度になるのだそうです。特別感があって嬉しいものですわね。
今となっては十年間の無表情がなつかしいと言うか幻だったのかとさえ思います。
ジェフェリー様が学園に入学するまでは王子妃教育で、会話はないけれど毎週王宮でお会いしてましたから、会えなかった一年は空白ですし、その分も含めて関係の見直し期間だと思えばよろしいですわよね。
「ドレスをプレゼントしていただきありがとうございます。似合っていますか?」
「もちろん似合っているよ。女神のように天使のように妖精のように! すごく可愛い! 私の婚約者が可愛すぎて尊いよ」
とても嬉しそうにジェフェリー様は褒めてくれた。興奮気味に? 褒めてくれた。
「……褒めすぎですわ」
「気持ちが溢れるんだよ。私が贈ったドレスをセリーナが着てくれるなんて! こんなに嬉しい事はないよ」
とまぁこんな感じでデビューを迎えたセリーナ。
今年デビューを迎えた誰よりも注目を浴びた。新聞社はセリーナのデビューの記事を載せジェフェリーとの仲の良さをアピールした。
アピールなどしなくても既に周知の事実だったのだけれど。二人の姿絵を模したものは街で人気になった。ゴシップ紙を信じる者などもはや誰もいない。将来の国王と王妃が仲睦まじいのは国民にとってもいい事だから。
これに反対するのは……
「なによ! セリーナ様の着ているドレスは本当は私が貰うはずだったんだから!」
拾ってきた新聞をぐちゃっと握りつぶすジュリアナ。
「そんなわけあるか! おまえのせいでフロス商会は倒産したんだ! 妻は出ていくし従業員にも訴えられて残ったのはこの小さな倉庫と問題児のおまえだけじゃないか!」
そう言って元フロス商会社長でジュリアナの父は激昂していた。
「親なんだからなんとかしてよ!」
「おまえも働け! 仕事を探してこいっ!」
小さな倉庫に残っているものをなんとか売り捌いて利益を出さなければ生活ができない。働いていないジュリアナはお荷物でしかない。
「王宮のメイドにでもなろうかなぁ~正妃でなくとも側室でも、」
「バカな事を言うな! メイドになれるような身分ではない! おまえの戯言には付き合いきれん! 出ていけっ!!」
ジュリアナと、ジュリアナの父は毎日喧嘩が絶えない。
格が違うとバカにしていたサムとダニエルの家は、順調に儲けを出している。二人は学園の休みの日にはボランティアで勉強を教えたり忙しなく生活をしているようだ。
******
「出て行けって言われてもねぇ……あら! サムじゃない?」
街をぶらぶらと歩いていると学園で一緒だったサムがいた。
「ジュリアナさんか?! 久しぶりだね」
「なによ! その口の利き方は!」
「いったいどうしたんだい?」
「お茶でも奢ってよ! 疲れちゃった」
「君は人混みが苦手だろ? それじゃ」
そう言ってサムは逃げるように去っていった。
「なによ!」
はぁ。こんな事なら平民でもお金持ちの商家の家に嫁げばよかったわ!
こんな普通の情けないワンピースを着て街を歩く日が来るなんて思わなかったもの。本当にむかつく。全部がセリーナ様のせいじゃないのよ!
「ジュリアナ・フロスか?」
「あら? あなたは?」
フルネームで呼ばれたことにより振り向くジュリアナ。誰だっけ?
「覚えてないとは言わせねぇ。おまえのせいで会社は潰れ借金地獄だ!」
……見覚えあるわね。
「あ! そうだあんた! ゴシップ誌の?」
「そうだ! 貴族の連中に目をつけられて逃げまわる日々だ! おまえのせいだ!」
目が血走っているゴシップ紙の男。廃刊になったとは聞いていたけど潰れたんだ。それがなんで私のせいよ!
「人のせいにしないでよ! 何もかもセリーナ様のせいじゃないの! もう! なんなのよ! 許せないわあの女!」
「……ほう。じゃぁこれやるよ」
急に態度が変わり、ニヤリと笑うゴシップ紙の男。
「なによ? それ!」
「これは水につけて衝撃を与えると煙が出る仕組になっているボールだ。その隙にそのセリーナ様とかをやっちまいなよ。目眩しにはなる」
「ふーん。手伝ってくれない?」
「いや! 俺は顔が割れている。おまえの好きしろや、じゃあな」
このゴシップ誌の記者はジュリアナは元よりフロス商会に恨みがあった。
その後ジュリアナは学園の門の外の木陰に隠れていた。ある馬車が通るのを待っていた。
「きた! セリーナ様の馬車」
セリーナの家の馬車に向かって思いっきり投げつけた。水にたっぷりつけて準備万端だ!
投げたボールは馬車に的中し、ドンッ! という衝撃が走った。
「何事だ!」
ジュリアナ側から見えないが、護衛騎士が出てきてジュリアナはすぐに捕らえられた。
「まさかリークされた情報が事実だとは……念のため警備を強化しておいて良かった。あ! セリーナは見ちゃダメだよ!」
ジェフェリーが馬車から降りて現場を確認している。
「まさか王太子と婚約者が乗る馬車に、害を加えようとするとは……命知らずな。牢に、いや、王都から追放、二度と足を踏み入れないようにしてくれ。家族がいるのなら家族も連帯責任とする。また暴れるようならば、国外追放とする。この件に関しては陛下もご存知であり私が一任されている」
「「「「「はっ!」」」」」
「お待たせ、行こうか?」
「ジュリアナ様はなぜこのような真似を?」
「さぁね。分かれば止めていた?」
「そうですね……私に恨みがあるのなら直接お聞きしたかったですけれど、ジェフェリー様の婚約者のわたくしに何かあれば、その後どうなるか考えればわかりそうですのに……罪は償って貰いましょう」
「ふむ。王都での生活に慣れていたあの娘には辛い事となるだろうな、牢に入れるとそれだけ経費が掛かるから、追放くらいで許してやろう」
「怪我はなかったですし、あの方が投げてきた物もただの革製のボールですものね」
「父上や母上に甘いと怒られそうだな……」
「私も一緒に怒られますわ」
「優しいねセリーナは」
「本当は怒っていますよ。ジェフェリー様に相談したら一緒に馬車に乗るって言ったから! あのリークが嘘で劇薬だったらどうするんですか? ジェフェリー様に何かあっては困りますよ。囮なら私だけで良かったのです」
「それはこっちのセリフだよ! セリーナに何かあったらと思うと生きた心地がしない! それに私が一緒にいた方がすぐに対処できるじゃないか」
「でも、」
「いや、」
「でも、」
馬車の中には側近と侍女もいる。
イチャイチャする空間に耐えきれず外を見る。私は空気だ! 空気! 空気! と侍女は耐えていたのだが、空気の読めない側近の一人が
「よかったですね。セリーナ様のお顔を見てお話が出来るようになって!」
急に恥ずかしくなるジェフェリーとセリーナ。
「いや、まだ緊張はする」
「とっとと殿下がセリーナ様に告白しておけば、こんな事件も起こりませんでしたからね! これからは仲良く国の手本になるようなお二人で居てください!」
「「……はい」」
その後ジェフェリーとセリーナは結婚し、めでたく子宝にも恵まれ、おしどり夫婦として名を馳せた。
ジュリアナは父親と合流し、結果親子喧嘩の末、大暴れしたことから国外追放となった。
「私は王太子殿下の元恋人よ!」などと追放された国でも言っておりその後の行方は分からないままだった。
【完】
これにて【完】となります。
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