世話役のジェフェリー
「殿下、送っていただきありがとうございました」
ジェフェリー様がジュリアナ様を教室まで送ってきたようで、送った後はすぐに教室を後にされました。
中々話をするチャンスがありませんわね。昨日お手紙を頂戴しましたので、お返事を書かなくてはいけないと思っていました。
『親愛なるセリーナ・ランディ嬢
セリーナの入学を祝って万年筆を贈ります。それと新入生の世話係をする事になった。
ジェフェリー・ロジェ・エルノ』
『親愛なるジェフェリー・ロジェ・エルノ殿下
この度は素敵な万年筆をお贈りいただき有難うございました。大切に使わせていただきます。お世話役の件は大変なお役目ですが頑張ってくださいまし。
セリーナ・ランディ』
お返事をお返ししました。
さて、私の目標は婚約解消ともう一つ。この学園に入るにあたり平民の方との交流を深めようと思っておりました。
ちょうどサムさんと、ダニエルさんがいらしたのでお話を聞かせてもらいましょう。
「お話し中失礼致します。私はセリーナ・ランディと申しますの。少しお話を聞かせて下りませんか?」
「「え! 僕たちですか?」」
「えぇ。私恥ずかしながら市民の方の生活を知りませんの。宜しかったらお聞かせくださいませんか?」
セリーナが話しかけると恐縮した様子だったが快諾してくれた。
「えぇ、お役に立てるのなら、なんなりと」
サムさんがお答えくださいました。
「ありがとうございます。それではサム様の家は何の仕事をされていらっしゃいますの?」
サムやダニエルは平民の為家名は無いので名前で呼ぶ。しかし一部の平民でも家名がある家もある。
「え! 呼び捨てで構いません! 様だなんておよしください!」
「それではサムさんと呼ばせてください」
セリーナは人を呼び捨てにする様なことはしない。平民であっても同じ学園で過ごす仲間だから。
「はい。えっと僕の家は王都の街でパン屋を営んでいます。人気が出てきて今は支店が出来ています」
「まぁ。パン屋さんを? 素晴らしいですわね」
「素晴らしいですか? それはどうしてでしょう? 貴族の方から見たら取るに足りない仕事でしょうに」
不思議そうにセリーナを見るサム。貴族のことはよく知らないがたくさんの使用人が住んでいるというイメージから単なるパン屋が素晴らしいという意味が分からない。
「不思議な事を仰いますのね。食事を取ることは生きていくためには必要不可欠ですわ。それにパンは主食ですもの。それに美味しくないと支店が持てませんでしょう?」
「はい。そう言っていただけて光栄です」
その後もダニエルさんとサムさんに市民の暮らしを聞いて有意義に過ごしました。
「お話を聞かせてくださってありがとうございました。とても為になりました。どうか私のこともセリーナとお呼びくださいね」
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「セリーナから返事が来た! なになに? 世話役を頑張ってくださいだと? 優しいなぁ。セリーナは! 字も美しい。心が美しいのがよく分かるような繊細な文字だ。万年筆は私と色違いのお揃いなんだよ。喜んでくれたようだ! この日の為に用意しておいて良かった」
はしゃぐジェフリーに一言。
「なんで手紙にしたんですか? 声をかければよろしいのに」
「掛けられないから手紙なんだよ! 手紙だって毎日書きたいと思っていて、抑えているんだ! プレゼントだって可能なら毎日したい! 抑えているんだ!」
「本日のセリーナ嬢は?」
「超絶可愛かった! あの透き通るような肌、ピンクがかった頬、小さくて薄い唇、何をとっても絵になる!」
「そうじゃなくて……交流を持ってください。お茶に誘うのです!」
「……分かった。勇気を出すよ」