新聞社への告発
【王立学園の学園長はワンマンだ!】
【王太子と平民の身分差婚を阻む権力】
【許すまじ!王都一のフロス商会を邪魔するランディ侯爵!】
【王太子の婚約者は贅沢病で民の税金を搾り取っている】
【ジュリアナ嬢の強制退学の裏側とは?】
「まぁ……この記事を市民は信じて読んでいますの?」
セリーナが呆れたような顔をする。妄想記事であり事実無根である。
「いや。そっぽを向いている」
そう言ってジェフェリー様は笑いました。そしてまた別の新聞を取り出してきた。
「はい。違う新聞。これはちゃんとした所が発行しているから信頼度も高い」
セリーナは新聞を受け取り目を通した。
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「すみません、記者の方はいますか?」
初老の男性が新聞社の受付にやってきた。何か秘めた事がありそうな様子が窺える。
「こちらでお待ちください」
受付の女性に案内された場所は簡素な応接間といった感じだ。一角にある硬いソファに腰かけた。
「お待たせしました。私は記者をしているベルナールと言います」
ベルナールは応接間にいる男を見た。何か疲れているような感じがしたが、目だけはしっかりとこちらを見ていた。
「急にやって来て失礼します。私はロイズと申します」
「いえいえ歓迎しますよ。ロイズさんは何かを告発したくて来られたのですか?」
「! っどうしてそれを?」
驚くロイズ。フロス商会の実情を包み隠さず話しに来た。昔は良かった。しかし今はそうではない。
今のままではフロス商会はダメだという気持ちを伝えに来た。もっとみんなの意見が通るような会社にするべきだった。ワンマン社長ではダメだと思いながらも自分のするべきことを後々にした罰だ。会社や組織が大きくなるとおざなりになるところが多々出てきて報告しても握りつぶされた。会社の為にと言うより自分の保身の為だった……そう言う自分に嫌気が差した。
「しがない記者の勘ですよ。お話を聞かせてもらっても?」
「はい。私は長年フロス商会で働いていました」
「ほう、王都一と呼ばれるフロス商会ですか。今は……大変な時期と言ったところですね」
「はい、私は経理を担当していました。最近は全盛期のような売り上げはなく、ご存知の通り売り上げは落ちていく一方でした」
「何か原因があったのでしょう?」
「はい。例のゴシップ誌の件はご存知でしょうか?」
「ふむ。最近の話ですと王太子殿下とフロス商会の娘の偽ロマンスですね」
「はい。事実無根であるにも関わらずにまるでそうなるようにと言う意味合いを込めて噂を流せと、人を雇い噂を広めていました」
「なるほど」
「もちろん事実とは異なりますし、王太子殿下と商会の娘さんは実際は恋愛関係にはありませんが、娘さんはそのように社長に話をされていました。自分は王太子殿下にとって特別なのだと」
「ふむふむ」
「王太子殿下が娘の為に婚約破棄をするのなら慰謝料まで支払うなどと社長は言っていました」
「盲目ですなぁ。娘可愛さのあまり周りに耳を傾けなかったパターンですな」
「学園に入学された社長の娘さんは自分も偉くなったかのように振る舞っていました」
「いやいや、王立学園に入学できるなんて優秀なんですな」
「実際はそこまで……と言う感じです。平民が授業料免除なのは皆さん知っていると思いますが、それは優秀で将来は王宮で働く候補としてです。国の為に、そして私達平民の希望として学園で勉強する機会が与えられます」
「それは有名な話ですね。実際私も何人かの出世している方に取材させてもらった事がありますが、皆さんとてもやり甲斐があると言っていました」
「学園では貴族の方は入学時に多額の寄付金を出しておられるようですから成績が振るわなくても問題さえ起こさなければ卒業出来るようです。一方で平民は問題を起こしたり、成績が振るわない場合は退学処分となります。これはよく知られた話です」
「ただで飯は食わせられませんしな。学園はボランティアではありません。世の常です。切磋琢磨して私達の希望となるのですから」
「社長の娘さんは成績が振るわなかった。よって退学させられた。もちろん例の問題も起こした。学園に入れたのは寄付金を出したからでそれは会社の金でした。娘さんが問題を起こしてフロス商会はある貴族様の家に食材を卸さない事にしました。しかし別の取引先と契約をするようになられて、他の貴族様たちもこぞって取引先を替えました。フロス商会は今や経営危機に陥っています。その事を言いますと社長に脅されました。なので私は会社を自ら辞めました。商売の手を広げすぎて色んなところに綻びが出てきてました」
「なるほど、最近またゴシップ記事が出ていましたな……これに対抗して記事にさせていただいてもよろしいですか?」
「はい」
「それでは詳しく──」
フロス商会は貴族の家に食材を卸してやっている。うちが卸さなければひもじい思いをするのだからと言って、金額を上乗せし始め調子に乗っていた。その分儲けた金を娘の学園の費用に充てていた。
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「ちゃんとした取材をされた新聞ですのね」
「学園長にも新聞記者が行くそうだよ」
「ジュリアナさんは大丈夫かしら?」
「心配?」
「そうですわね。心配というか気の毒ですわね。私達にとっては普通の事でも平民の方にとっては異常である事もあったのかもしれませんわね」
貴族と平民との生活の違いや考え方の違い、マナーだって違います。
「それでも、学園で学ぶ事を選んだんだ。学園には合わなかったけれど、いや、学ぶ事を拒否したんだ」
「……そうですわね」
「セリーナに対抗してどうするつもりだったのかさっぱり分からない、会話が成り立たないと学園長も言っていた。学園内だから処分は緩めだけどこれが学園外だったら、あの子は一生罪人として牢獄で過ごす事になっただろう。叔父上は教育者としては優しい方だけど、王族としてはやや過激なところもお持ちだ」
「陛下が信頼をしていらっしゃいますもの。学園長様もそれをしっかりと分かっていらっしゃるから、退学となったのでしょうね」
その後学園長は記者からインタビューを受け真実だけを述べたようだ。退学をしなければならなかった理由には記者達も呆れていた。と聞きました。
学園長様はジェフェリー様を認めていてとても良い関係だと思いました。そんな学園長様をジェフェリー様も尊敬しているのだと聞きました。
次回最終話となります。




