学園長
「……ゴクリ」
唾を飲み込んだ。何? その間は! 早く言いなさいよ!
「まずはそのくせの悪く薄汚い足は要らないだろう。切り取って使えなくしてやろう。それから何をしたか反省するまで毎日の鞭打ち、罪人が入れられる牢に収監ってところかな。私も優しくなったものだ」
「何が優しくよ! それに薄汚いですって! レディに向かって失礼な」
ばっかじゃないの! 小さい声でつぶやいた。
「何か言ったかね? バカとか聞こえたような……? これは笑ってしまうね。ここは王立学園で私が君の処罰を決められる。王族をここまでバカにするとは、呆れてモノが言えないね……私たちも舐められたものだな」
学園長が見るからに上等な椅子から腰を上げ、立ち上がった。
「私たちって……」
変な汗が出てきた……学園長は確かに品格が備わっている感じはするけど……
「あぁ、知らなかったのか? それは君が不勉強なせいだな。特には驚かない。勉強ができるわけではないものな、君は」
ニヤリと笑う学園長。ちょっと! 怖いんですけど? そんなに身長が大きい訳じゃないのに……大きく見えるというか圧? が……
「っ! 私は優秀だから入学出来たんです!」
学園長は失礼な人ね! ここで引いていられるものですか! 不勉強って! うちは裕福で家庭教師も付いていた。私が不勉強と言うなら家庭教師が悪いのよ!
「まだ分かっていないのかい? 平民の中でも格が違うというフロス商会が、そこそこの金額を寄付してきたから入れてやったんだよ。平民の優秀な女子生徒を来年から増やし、その世話役を君に頼もうと思っていたのにすっかり当てが外れた。勉強については学園で真面目に向き合えばなんとかなるレベルだろうと踏んでいたが、ダメだったな。この学園に君の学力が足りなかったんだな。授業もついていけなかったんじゃないか?」
学園長は机の引出しから一枚の紙を出してきて私の前にスッと置いた。それは前期の試験結果で……私の名前は……え? 下から五番目? 嘘でしょ! だってちゃんと答案は埋めた!
「君以外の平民の生徒は皆良い成績を修めているよ。下位の生徒は貴族だから退学にはならない。入学の際に多額な寄付金を入れているからね。問題さえ起こさなければ良い」
「お金なの?!」
なにそれ! 貴族はバカでも問題さえ起こさなければいいって? そんなの矛盾でしょ! 私よりバカが存在して学園に居られるなんて! しかも成績が張り出されるのは上位の十五位までだから、それ以下は個人で知るしか無い。ズルいわ!
「君たちは授業料も寮の費用も食事も全て貴族の寄付金で賄われているから当然成績が悪いと退学になる。学ぼうとしないものにタダで飯を食わせる事はしない。学園はボランティアではない」
キッパリと学園長は言った。でも一つ間違いがある!
「お父様が入学金として寄付したでしょ?」
私には切り札がある。入学金を支払っている。そこら辺の平民と一緒にしてほしくは無いのよね! ふふん。
「そこそこにね。君の学園生活一年分にも満たない額だ」
一年に満たない? 確かにご飯は美味しいし部屋も個室で寝心地のいいベッドだけど、それくらいでしょう? え? 教師は国内で最高の人材を揃えている? 教授は世界でも最高峰の研究者? へ、へぇ。知らなかった。
「……お父様が入学金をケチったの? またお金を入れれば良いの?」
世の中金だ! と言いたいの?
「言っただろう? この学園は私の采配でいろんなことが決められる。私にはその権利がある。王立学園の学園長として、王家の一族として」
「…………王家の一族って王族!?」
え? 学園長が? 知らないからっ!!
「ジェフェリーとセリーナは将来の国王と王妃だ。そのセリーナに怪我を負わせた。それだけでも十分理由になるだろう。退学くらいで済ませてやるんだ。それとも他の罰を受けたいとか?」
学園長は王族と言った事により、王太子殿下や侯爵令嬢と言った敬称で呼ぶのはやめたようだ。
「でもジェフェリー様は私の世話役でしたし、セリーナ様も大した、」
「王太子であるジェフェリーの名前を気安く呼ぶな。舌を抜いても足らん侮辱だな。王太子が庶民の世話をするなんてここでしか考えられない事だ。庶民と交流を持ち庶民の暮らしを知ると言う社会勉強だ。じゃないと世話役なんかさせるか! 大した怪我じゃないだと? 暴力を振るった事に変わりない」
「……そんな」
ただ転んでちょっと机に体をぶつけただけなのに。それにちょっとだけ足を捻ったとかその程度よ?
「ジェフェリーは婚約前からセリーナしか見ていない。あの庶民の読んでいるゴシップ誌は事実無根で訴えられ、謝罪文を載せたのち廃刊になっておる。お前の名前も出ていたから実家に帰っても大変だろうな。もし学園に残っても地獄、実家に帰っても地獄と言うことだ」
「私の居場所を無くそうとするなんて、ひどいじゃな、」
「ジェフェリーは賢い。セリーナを愛しているが故、素直に伝えられなかった事を反省している。そんなジェフェリーが他に女を作るとは到底思えない。街の噂というものは前からある。もちろん面白おかしく書かれる事もあった。しかしあくまで噂だ」
「街のみんなは王族がどんな暮らしをしているかなんて分からないもの」
もっと偉そうなイメージがあったのに実際は無口だけど優しくて、私のことを見てくれた。
「噂はあくまで噂であれば良い。王族の暮らしを公開する訳なかろう。そんな事をしたら良からぬ輩に餌を撒く事になるではないか。噂、いや想像をまるで真実だと面白おかしくネタを提供する様な輩が一番好かん。王族とはただ着飾って遊んでいるだけではない。王は毎日執務に外交にと忙しくしている。今度お前たちの街が整備がされるのは知っているか?」
「えぇ、知っています」
ふふん。と鼻を鳴らした。本来なら数年後と言われていた工事でしょ? 知っているわよ、バカにして!
「それはジェフェリーが手配しておる」
「ジェフェリー様が?!」
え! もしかして私の為に? 馬車で移動できないところもあって不便だったもの。ちゃんと考えてくれているのね! うちのすぐ目の前だもの。顔がにやけるのがわかる。
「薄気味悪い顔をして何を考えているのか知らんが全く違うぞ。ジェフェリーは学生でありながらも立派に執務をこなしていると言う事だ。王族としての義務を果たしている。表には出さないが我々は国を良くする為に日々努力をしている」
「貴族のそう言うところって嫌いだわ」
表に出さない努力って何よ? 堂々と自慢しなさいよ! そうじゃなきゃ分からないからっ!
「お前は貴族ではないから分からないだろうな。政治をするにあたり感情を表に出すという行為はマイナスになる」
「だから貴族の人たちは薄ら笑いをしていているのね」
「貴族に対する侮辱も追加だな。君と話をしているととても疲れる。ジュリアナ・フロス、本日を以て退学とする。学園長である私が決めた判断であり異議は認められない! 荷物を纏めて一刻も早く学園から立ち去れ! この生徒を寮まで連れて行き校門を出るまで監視するように。暴力性を秘めているから他の生徒に手を出されては困るからな、後は頼んだ」
「「「はい」」」
どこから連れてこられたかわからない三人の屈強な男たちに連れ出されて行くジュリアナだった。
「ちょっと離しなさいよ! 自分で歩けるってば!」
何よ! あの学園長! 今まで出てこなかった癖に偉そうに!!
え? ……国王の実の弟? ジェフェリー様の叔父さん?
自ら教育者になる為に留学までしていた?
優秀な人材を育成して国を豊かにするように?
学園長は王族から抜けたくても国王が許さない?
仲が良い兄弟で学園の事は全て学園長に任せてある?
そんなの知らなかったわよ!
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