ジュリアナへの風当たり
居心地が悪かった。いや、元々良くはなかったのだけど……
ここは貴族の学園で私は優秀だから入学ができた。世話役はこの国の王子であるジェフェリー様。美しくて、無口だけど分かるの。優しい人だって。
なのに婚約者のセリーナ様には冷たいの! なんでかって、そんなの簡単。
政略結婚だから。
最近の流行りは自由恋愛。貴族でも平民を娶っている位だもの! だからと言ってその平民が幸せかどうかは分からないけどね。
貴族って面倒くさいのよ!
家のしきたりや、貴族同士での作法!
バッカみたい!
私から見たら面倒なだけ!
表の顔は笑顔なのに裏ではどろっどろ! 会話も探り合いの様だし、周りくどいし、付き合いきれないわ! 喜怒哀楽って知らないんじゃないの!?
だから私がジェフェリー様と結婚して王妃になったらそんな面倒な事全部無しにして、皆平等になるようにしてあげるつもり!
ジェフェリー様は無口だけどお世話はしてくれるし、お茶にも誘われた。
しかも二回もよ? ジェフェリー様のサロンに呼ばれるなんて普通事無いんだから! 王子様だもの。呼ばれるっていう事は特別なの!
婚約者のセリーナ様だって呼ばれた事なかった筈よ!
なのになんでよ!!
「ジュリアナ嬢、君にはがっかりだよ。悪いが学園は退学してもらうことになった」
はぁ? 退学ですって? 優秀なこの私が?! 学園長室に呼ばれて急にそんなこと言われて納得する筈ないわよね! だって私は特別だもの。
きっと何かの勘違いでしょう? 優秀だからこの全寮制の学園に入学できたのに? この私が?
どいつもこいつもばっかじゃないの!
「理由を聞かせてもらえますか? 心当たりがありません」
にこりと笑顔を見せる。私の笑顔は無敵なの。街のみんなは私の笑顔の虜。
「君も分かっているだろう。学園の秩序を乱す行為は禁止している」
「私は身に覚えがありません!」
秩序を乱すとか? 何のこと?
「婚約者のいる者と仲良くすることは秩序を乱しているとは思わないかい?」
「あら、お言葉ですけれど、その考えは古いですわよ? 今は自由恋愛が主流ですのに」
「主流か……君はそれでも良いかもしれないが、家と家との結びつきを敢えて壊す様な真似をしたら、その家だけではなく、国のバランスが崩れて国内で争いが起きるかもしれない。ましてや殿下はランディ侯爵令嬢との結婚を強く望んでおられる。結婚できないのならまだ小さい弟に王太子の座を譲るとも言っていた。するとどうなる?」
……どうなるって、言われてもねぇ……
でも王族でしょ? セリーナ様と結婚できないなら私が結婚してあげればいいじゃない? 市民もそれを望んでいると思うわ。あんなに大々的に新聞の記事になったんだからね!
そう思い口にしようとした。
「王太子では無くなる。それによって王太子殿下派の貴族は反乱を起こすだろう。ごく少数だが弟殿下派の貴族も存在するからね。国で内乱が起きるとなると最悪な結果王政はなくなり、国の存続すら怪しくなるね。今か今かと待ち侘びている周辺諸国が奇襲をかけてくるかもしれない。急な事で市民は焦り逃げ惑い、弱い立場の尊い命は沢山失われるだろうね。国のトップがいない状況だからね」
「そんな事になるわけないでしょう! ジェフェリー様が可哀想だわ。自由がないじゃない!」
何そんなの横暴よ! 訴えてやるんだから! セリーナ様と結婚しないと国がなくなるなんてバカばかしい!
「可哀想かどうかは君が決める事ではないよ。君は自分が何をしでかしたかちゃんと悔い改める事だ! 学園内で起きた事は私に決定権がある。ランディ侯爵令嬢を故意に傷つけた事は許されるべき行為ではない」
「はぁ? 私がわざとやったとでも?」
「そうだよ。君はわざと足を引っ掛け、ランディ侯爵令嬢に怪我を負わせた」
「証拠でもあるんですか? 決めつけて!」
「みんなが見てないとでも思ったのかい? 多くの生徒が君が故意に足を出したと証言している」
「私を貶めるつもりなんだわ!」
「学園内で起こった事で良かったね。もしこれが学園外での事だったら……」
「……ゴクリ」
唾を飲み込んだ。何? その間は! 早く言いなさいよ!




