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週明けの学園

 

 貴族の学園は夏季休暇が長い! 前期・後期に分かれていて、前期試験が終わると夏季休暇へと入るのです。



 夏季休暇に王宮でのデビュタントがあるので、試験が終わり結果が出たら皆が家に帰り学園は静かになります。遠くに実家がある方は帰らない方もいるのだそうです。そしてこの試験結果が振るわなかった奨学生は校則に則って退学という事になります。学費や生活費は無料ですから試験の結果次第では、やる気がないと見做されても仕方がない事だと思います。




「セリーナ様のおかげでうちのパン屋の評判がとても良くなりました。両親もとても感謝していて、なんてお礼を言っていいのか……」


 本日もサムさんやダニエルさんとお話をしていました。いつの間にかクラスの令嬢達も話に参加することも増えました。皆さんのお家でも食材が変わったようです。



「セリーナ様のおかげで、うちも忙しく人を雇うことが出来ました。なんてお礼を言って言いのか……」


 サムさんとダニエルさんが言いました。



「私は何もしておりません。週末屋敷に帰るとサムさんの家のパン、ダニエルさんの家の乳製品を美味しくいただきました。シェフに聞いたのですけれど、とても手が掛かる作業だと聞きました。ですから美味しいのですわね。両親も気に入っているようです」



 パンは今まで屋敷で焼いていた。今でも焼いているけれど、サムさんの家のパン屋さんでしか出せない味わいがあるのだそうです。お母様はクロワッサンをたいそう気に入っていました。



 ダニエルさんの家のミルクは濃厚で甘くて美味しいですし、バターはシェフが気に入ってわざわざ買いに行くこともあるそうです。 

 チーズも然りで丁寧に作っているから味が濃いとシェフが言っていましたわ。お父様もワインを飲む際にダニエルさんの家のチーズをおつまみにしているのだそうですわ。



 手が掛かるためあまり多くは作れないそうで、シェフは年間契約をしたとのことでしたわ!




「屋敷の皆が言っているのだけど……その、以前使っていたものよりも美味しくて、しかもコストパフォーマンスも良いそうなの」


 損はしていないのかしら? 正直言って前の取引をしていたところのモノとは違うもの。



「貴族様向けに作ってないので……それと、間に業者が入っていないことも関係していると思います。セリーナ様の家とは直接取引をしていると聞きました。味を認めてくださってありがとうございます」


 ダニエルさんが言いました。間に業者が入ると急に料金が跳ね上がるのは当然。


「手広くされるおつもりはないの? 美味しいですからもっと沢山の方の口に入れたいと思いませんの?」


「はい。それをしてしまうと、味が変わってしまいます。ジィちゃんはそれを許しませんし、僕もジィちゃんの意見に賛成です。目の届く範囲で納得のいくものを自信を持って今まで通り作りたいと思います」



 ダニエルさんのおじいさまは、味に絶対の自信がありますのね。伝統の作り方を変えたり作業効率が多少悪くても、おじいさまがプライドを持って作っているなんて素晴らしいことですわね。お父様も驕って味が変わったら取引はしないと仰っていたもの。手広く商売をするということはどこかに綻びが出てくるという事ですね。



「素晴らしいおじいさまですわね。いつも美味しくいただいていますのでお礼を伝えてくださいませね」



「はい! ジィちゃんがこの話を聞くと大喜びですよ」






「ふーーーーん。やっぱりあなたの家が邪魔していたんだ!」



「ジュリアナ様? ご機嫌よう」



 と言いながらもなんだか機嫌が悪そうですわね。どうかされたのかしら?



「あなたの家のせいでうちがどれだけ被害を被っているか分かりますぅ?」


「なんのことでしょうか? 仰っている意味が分かりませんわ」


 首を傾げる。ジュリアナ様の家が被害? 何のことでしょう?



「わざとらしい! こんなくだらない男どもを褒めたりして調子に乗らせて! 貴族様のお遊びかしら!」



「ジュリアナ様、少し落ち着いてください。クラスの皆さんが驚いていますよ」



 この方はまた何か問題を起こすおつもりなのかしら? 先日あれだけ注意を受けましたのに。問題が多いと学園長様が出て来てしまいますわ……それだけは避けないとジュリアナ様の学園生活に影響が出て来てしまいます。


「また良い子ぶって! 王族の婚約者ってそんなに偉いわけ?」



「……ジュリアナ様、口が過ぎますわよ。まずは落ち着いてください。場所を変えましょうか?」


 王族の事を軽々しく口にするなんて。これはいけませんね。まずはジュリアナ様を落ち着かせて……お茶でも飲んでゆっくりと話を聞こうと思いました。



「あら! それは良い考えです事」



「……それではあちらに移動しましょう?」



 とにかくここから離れないと。と思い歩き出しました。ここは人の目につきますものね。ジュリアナ様の前を通ろうとすると何かに足を引っ掛けて思わず転んでしまいました。



 その拍子に机に体をぶつけて、膝は床につき、手首を捻ってしまった様です。


「きゃっ」



「「セリーナ様!!」」



 すぐに近くにいたサムさんとダニエルさんが近寄ってきました。



「大丈夫ですわ、ご心配おかけしました」



 と立ち上がろうとしたら




「いたっ……」



 足も捻ってしまった様です。



「人を呼んでまいります!!」



 その様子を見ていたクラスメイトの一人が教室を飛び出して行きました。ざわざわとする教室内。



 ジュリアナさんはそんな様子を見て鼻で笑っていました。


 サムさんとダニエルさんの手を借りて、なんとか立ち上がるとそこへ



「セリーナ!」



 ジェフェリー様がやってきました。すぐに近くに寄って大丈夫か? と聞いて下さいましたわ。



「セリーナに何をした!」


 ジュリアナ様を見ながらそう言いました。お顔は見えないけれど声に怒気が込められているような感じがしました。



「何もしていませんわ。セリーナ様が急に私の目の前で転んだのですわ。皆さん見ていらしたと思いますわ。セリーナ様大丈夫ですか? 意外とおっちょこおちょいなんですね」



 ざわざわとする室内。皆ジュリアナ様に悪意のある表情を向けていました。



「ジェフェリー様、その通りです。私が勝手に転んだのですわ。ご心配おかけしました。もう大丈夫ですから、」


「大丈夫な訳あるか! 心配して当然だろう! 大事なセリーナに何かあったらと思うと居ても立っても居られない!」



「ジェフェリー様……」



 きゅっと胸が掴まれる思いがしました。ジェフェリー様の顔を見ると真剣な顔つきで、心配してくださっているのが分かりました。お顔を背けずにちゃんと私の方を見てくれました。



「ちょ、セリーナあんまり見ないで、恥ずかしいから、いや、嬉しいけど、くそ、可愛いな、」



 急にしどろもどろになるジェフェリー様はいつもの様子に戻りました。すごく凛々しくてカッコよかったのに……でもそんなジェフェリー様も素敵です。









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