セリーナの目
「セリーナはすぐにイミテーションだと分かったんだね」
ジェフェリー様に問われました。
「素敵なデザインでしたわ。本物なら王妃様が持つ様なとても貴重な品物ですわね」
大小のエメラルドだけではなく、サファイヤもふんだんに使われていました。
「確かに……あの娘はこのような騒ぎを起こした事でこれから学園で肩身の狭い思いをするのではないだろうか。貴族の学園で問題を起こし、しかも王族の婚約者に楯突いたのだから。しかも冤罪だ」
「ジュリアナ様に悪気はなかったのだと思います。私もジュリアナ様に対する配慮が足りなかった様ですわ」
私がもっと穏便にすませていれば、こんな騒ぎにはならなかったはず。私はまだまだ未熟。この件でジェフェリー様の婚約者としてダメ出しをされてもおかしくはない。
「余計な心配はしなくていい。優しいところはセリーナの良いところだけど怒っても良いんだ」
普通に話をするジェフェリーだが、セリーナの顔は見ていない。横に座っているセリーナの顔が見られないから誰も座っていない正面のソファを見ていた。でも些細なセリーナの話し口調を聞き何かを感じ取ったのかも知れない。
「はい。ありがとうございます。ジュリアナ様が明日どの様な様子なのかを見てみます」
「頼むよ。そうだセリーナ、週末は王宮に来るよね?」
この話は一旦終わり。と言った感じで違う話題を切り出すジェフェリー。
「えぇ。参ります、王妃様とお茶をする約束ですの」
「母上から聞いた。私も行くからエスコートさせて欲しい」
「……はい。その、久しぶりですね」
久しぶりと言うか、今まではエスコートというよりはただジェフェリー様の後ろについて歩いていたという感じだったけど、エスコートを申し出てくれる事が嬉しかった。
「今まで悪かった。本当にごめん」
「いえ、私も勘違いしていて……ジェフェリー様が他にお好きな方がいらっしゃると思っていたから」
「それは本当に誤解だ。何度も言うけど十年前からセリーナしか好きではない」
「…………ジェフェリー様はわたくしが思っていたよりもお話をされるのですね。ずっと嫌われていたと思っていたから、知りませんでした」
副学園長先生相手にも堂々としていてカッコよかった。ジュリアナ様に名前呼びをされていたのは許可をしていなかった。私だけは特別で……それが嬉しかった。
貴族の子女なら誰でも分かる。勝手に名前を呼んではならない。許可を得てからお互い呼び合うのだけれど、平民の方は家名がない人もいるから、ナチュラルに名前で呼んでしまっただけなのかもしれませんね。
「緊張して話ができなかっただけだ。もちろん今も緊張しているけど、セリーナと居ると嬉しいと言う気持ちが勝るんだ」
顔を赤くして恥ずかしがるセリーナ。
「気持ちを伝えていないのに振られるのは嫌だから、ちゃんと伝える事にした。私がセリーナの事をどれだけ思っているか知ったらきっと驚くだろうけどね」
「そんな、こと、ないですよ」
きっと嬉しいと思うもの。ジェフェリー様が考えている事を知りたい。
「ふふっ。そうかな? セリーナといると緊張するし、顔をまともに見る事もままならない。でも一緒にいてくれることが嬉しい。ずっとこうして過ごしたかったから、誤解されるくらいなら、気持ちを伝えたいと思った。これが最後のチャンスだと思うから、当たって砕けたくは無いけどね」
そう言って笑うジェフェリー様のお顔は赤くなっていた。
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二人の甘い? 時間を過ごせた事によりジェフェリーはとても機嫌が良かった。
「殿下、良かったですね」
「まぁな。こんな事ならとっとと告白しておけば良かった……反省しているよ」
「殿下も成長されましたね! これから仲を深めていけば間に合いますよ。ところでセリーナ嬢のドレスが週明けに届くとの事ですよ」
「本当か! デビューまであと一ヶ月とちょっとか……!」
「それまでにはセリーナ様にちゃんと認められると良いですね」
「頑張るよ!」
「ところで街の噂ですが、また大きな話題となっています。噂の元はフロス商会」
「フロス商会といえば、あの娘の実家か?」
「はい。どうやら殿下とジュリアナさんは懇意にしていてセリーナ様と婚約解消をすると。その後はジュリアナさんを妃に、」
「はぁ?! そんなわけなかろう!」
「えぇ。私たちはとんでもない噂だと思っていますよ。殿下が誰をお好きか知っていますからね」
「聞くに耐えられない!!!」
「これ、どうぞ」
平民たちが読むゴシップ誌を渡す側近の一人
【ジェフリー殿下、平民の娘と婚約へ!】
【ランディ侯爵令嬢と婚約破棄へ!】
【王族と平民の許されぬ恋の行方は?】
「全くの事実無根! このゴシップ誌を訴えろ!」
「父に相談したところ、徹底的に潰すとのことでしたので、既に解決してますでしょうね」
「フロス商会か! 貴族相手に商売をしているからと調子に乗っているのか?」
「それも含めて対応を検討します」
「頼む。何か嫌な感じがするな」




