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執務室があったのですね


 コンコンコンと軽くノックをしますと、ガチャっと扉が開けられました。



「お待ちしておりました。セリーナ嬢! さぁ殿下がお待ちです。こちらへどうぞ」



 殿下の側近の方ですわね。何度かお会いしたことがありますわ。それにしても学園にも殿下の執務室があっただなんて……知りませんでしたわ。



 学園でも執務をこなしていらっしゃるのですね。真面目な方ですもの大変ですわね。





「お待たせいたしました」


「う、うむ。まぁ掛けるがいい」


「はい、失礼いたしますわ」



 触り心地が良さそうなソファに腰をかけました。フワフワなのに硬さもしっかりあって見た目通り触り心地が良いですわね。



「どうぞ」



 殿下の側近の一人の方がお茶を出してくださいました。



「ありがとうございます」



 殿下がお茶を口にしたので、私もお茶で喉を潤しました。


 このカップとても素敵ですわね。殿下御用達の工房の新作かしら? 

 お茶は桃でしょうか。とてもいい香りがしますね。




「…………」




 なぜお話をしないのか? ってお思いでしょう? 殿下は私がお話をしても面白くなさそうなお顔をしますの。いつも下を向いてうむ。としか返ってきません。



 その顔を見ていると辛くなってしまいます。政略結婚の相手ですもの。

 私の顔を見たくないのでしょう、やっぱりこちらを向きませんもの。



 でもお話があると仰っていましたわね。無言の時間は辛いですわ。ここは私から



「……殿下、お話というのは」



「……でん、か?」



「? どうかされましたか?」



「いや……、母上に聞いたんだが、学園の寮は寂しいとか?」



「えぇ。そうですわね。家族と離れるのは初めてのことでしたから」



「……って、いい」



「何か仰いましたか?」








「……頼って、いいと言った」



「仰る意味が分かりかねますが、お気になさらずに。殿下が気になさることではありませんもの」



 殿下に気を遣わせてしまいましたわね。機嫌が悪いのでしょうか? 

 そっぽを向かれましたわ。熱でもあるのか顔が赤いですわ。


 早くお話を切り上げて差し上げないと、体に差し支えがあっては困りますね。




「私は殿下の足枷にはなりたくありません。もう自由になっても宜しいのですよ? 私の事は気になさらずに、」




「セリーナ! いったい、何を! なんの話だ!」




 殿下の紫色の瞳が驚いた様に見開きました。久しぶりに殿下と目が合いましたわ。



「十年間、殿下と婚約をしておりましたが、殿下を支えるどころか私が至らないばかりに、」



「待て! なんの話を、」


「……婚約の解消、」


「しない! 絶対にしない! させない!」




 あら? 私何か怒らせる様な事を……こんなに必死な殿下を初めて見ましたわ。



「なんでそんな……」



 立ち上がったと思ったら膝から崩れ落ちる様に床に座り込みましたわ。


 側近の方達がそぉーっと退室なさいました。執務室は私と殿下の二人になりました。




「あの、殿下、なにか」


「殿下と呼ばれるのも嫌だ……」


「どうなされましたの?」



 まさか泣いてらっしゃるのでは?!



「誤解を招いたなら謝る。今まで悪かった、婚約を解消なんて、言わないでくれ」



「私たちは政略結婚で、殿下には思い人がいるのではないのですか?」



「……私は政略結婚だなんて思っていない」



「でも、ジュリアナ様は」



「だれだよ、それ? セリーナの口からそんな名前なんて聞きたくない」



「殿下がお世話をされていますでしょう? お茶に二度お誘いして、相思相愛なのだと皆さんが噂をされていますし、」



「誘おうと思っていたのはセリーナだよ。ずっとずっと言いたかった! 私はセリーナのことが好きなんだ」



 堰を切ったように話し始めました



「殿下?」



「婚約を解消なんて、冗談でも言わないでくれ……その話を母上から聞いた時にどれだけ辛かったか……」



「殿下、どうされましたの? まさか泣いて、」


 泣いているのか分かりませんが、涙声のように聞こえます。声が出て小さくなって……




「泣きたくもなるよ。こんな自分嫌いだ。ずっとセリーナが好きだったのに告白もできないで政略結婚だと思われていたなんて」




「殿下……せめて顔をあげて言ってくだされば良いのに」



「セリーナが可愛くて直視できない! セリーナの顔を見て告白なんてできないんだよ。コレが限界なんだ……」



 床に座りながら膝で顔を隠したままなんて……。



「殿下、私は、」



 何が言いたいのでしょうか……。殿下が私のことを好きだなんて、信じられませんもの。



「セリーナが信じてくれるまで待つ。セリーナが少しでも私の事を好きになってくれる様に努力する。これまでセリーナに言いたかった事も隠さずに言う」


 ばっと顔を上げる殿下……鼻が少し赤くなり、ピンクの髪の毛が少し目にかかっていますがしっかりと目線を合わせてくださいました。



「……はい」



「好き、なんだ」



「……私は」



「今すぐに返事はいらない。誤解を解くことから始めたい」



 そう言って殿下はすまなかったと私に謝られました。



 床に座る殿下に手を貸してソファに座りました。横並びに座ると顔が見られませんでしょう?


 しばらく無言でしたけどね。


 その後、殿下宛に王宮から手紙が届いて、すぐに出発しなくてはならなくなりましたので、この場から解放されました。




 殿下は名残惜しい様でしたが、私は頭が混乱していたので、良いタイミングだと思いました。






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