レポート6
「でかい城だなあ」
タイナは丘の上の城を見上げてつぶやいた。その西洋風の城は街の中心にあり、街のどこからでもその姿を見ることが出来る。街を守る城なのか街に守られている城なのか、存在の定義が曖昧な城だ。
「何のひねりの無いコメントですね。漫画の主人公でさえもう少しまともなことを言うと思いますよ。脳みそ溶けましたか?」
横にいるローリエがタイナを罵りながら冷ややかな視線を送る。
「男の器の違いかしらね。今夜の宿もまだ用意していない男とは比べ物にならないわ。まさか、私たちに野宿しろとでも言うつもりかしらね。本当に器の小さい男よね」
スマは不機嫌な表情でタイナを一瞥してから顔を背けた。
「だから、それはどうにかなるから心配するなよ。それよりも仕事が先なの」
タイナはここまで歩いて来る間に手紙に書かれていた仕事の内容を説明した。その後で疑問点があるか聞いた時にスマから今日の仕事を終えたらどこの宿に泊まるのかと質問された。タイナは宿を予約していないと言うと、スマとローリエは不満の声を上げた。タイナはそれでも宿の予約は後回しにして仕事を優先させると言い張るので、スマは機嫌を損ねていた。
「野宿は無いよね。さすがに」
ローリエは呆れた顔でタイナを見た。
「だから、心配するな。そんなのどうにでもなるんだから」
俺もさすがに野宿は嫌だよ。やはり夜のお楽しみは暖かな部屋に限る。もしも宿が取れない時は先輩たちに頼めばどうにでもなる。だから、宿に泊まれないなんてヘマを踏む訳がない。ああ、夜が楽しみだなあ。佐渡江課長の顔と身体に似ているスマと一夜を愛し合うことが出来るなんて、最高だよな。でも、そうするとローリエが邪魔になるなあ。どうしたものか。
「えへ。えへへえへへ」
「あの、笑い方が気持ち悪いですよ」
「下品なことでも想像しているのかしらね」
タイナが今夜のことを妄想していると、その表情を見たローリエとスマは青ざめた顔になり、タイナとの距離を空けた。
「おい貴様たち!そこで何をしている!」
「ねえタイナ!城門の衛兵がすごい勢いでこちらに駆けて来ていますよ!」
城の門で見張りをしていた衛兵が辺りを見ていると、気持ちの悪い表情で笑うタイナの顔に目が留まり、不審者と判断して慌てて飛び出して来た。
「俺は何もしていないぞ!」
「顔面が猥褻物陳列罪だからですよ」
タイナは衛兵がこちらに駆けて来る姿を見て驚いた。ローリエは冷静な声でタイナの顔についての感想をつぶやいた。
「こういう方法で城に入る計算なのかしら?聞いていないわよ」
「まさか、そんな訳あるかよ!」
スマは文句を言う時だけタイナの顔を睨み、それにタイナが返答するとスマは再び背を向けた。まだ機嫌が治らないらしい。
「とりあえず冷静になれ。冷静にな」
タイナは駆けて来る衛兵を見て緊張してきたのを自覚して、冷静になれと自分に言い聞かせることで緊張を和らげようとした。衛兵がタイナの前で足を止めると剣を抜いて構えた。剣を見て身震いしたタイナは小さく息を吐いてそれを抑え込み、冷静な顔で衛兵を見た。
「ど、どうしましたか?私たちは何もしてはいませんよ。私たちは神殿長の名代として国王のご病気の快復を願い祈祷をするために参りました」
タイナは冷や汗をかきながら冷静な顔を保とうとして筋肉がこわばり小刻みに全身が震えていた。それを見たローリエは衛兵から見えないところでタイナの背中を軽くつついた。タイナは敏感に反応して不規則に全身を震わせた。スマは憐れみの欠片も無い笑顔でタイナを見ていた。
「どうも怪しいな。後ろの巫女はまだしも、神官にしては品の無い顔だな。その話、ウソではないだろうな!」
衛兵は首をかしげてタイナの顔を見た。こいつ、飲み屋で見つけたら殴り飛ばしてやる!タイナは壊れかけの作り笑いを浮かべた。そうだ、あれを見せれば納得するはずだ。
「今、神殿長からの書簡を出しますので、少しお待ちください」
衛兵はその言葉を聞いても警戒を続けた。構えを崩すどころか、むしろすぐにでも斬り込めるように神経をとがらせている。タイナはアイテムリストを開いてその中から書簡を取り出した。
「どうぞこちらを。神殿長からの書簡です」
「本当か?どれ、見せてみろ」
タイナは緊張して震える手で書簡を差し出した。衛兵は構えを崩してタイナに近寄ると、書簡を受け取りそれをおもむろに開いて中を確認した。
「うむ。どうやら本物のようだな。先ほどは失礼な発言をして申し訳ない。毎日のように不審者共を相手にしていると、人を疑うことが癖になりましてね」
そう言うと衛兵は確認した書簡を元通りに戻してタイナに返した。タイナは安心して小さなため息をついてから書簡を受け取るとそれをアイテムリストに仕舞い、手を広げて空を見た。
「そのような時は神に祈りを捧げなさい。そうすれば心も穏やかになりましょう」
神官らしい言い方はこれで良いのかな?よく分からないけど、少し偉そうにし過ぎたかな?タイナは横目で衛兵の様子を見た。
「有り難いお言葉です。ところでひとつ疑問があるのですが質問をしても宜しいでしょうか?」
「はい。なんなりとどうぞ」
衛兵は剣を鞘に納めると手を合わせてタイナと話している。どうやら衛兵は俺を本物の神官と信じてくれたようだな。あとはこの衛兵に城の中へ入れてもらえれば何とかなるだろう。
「そのですね、祈祷をするなら神殿でも出来る気がするのですが、どうして城で、それも国王の前で祈るのですか?」
衛兵はタイナの言葉を聞いて質問をした。タイナの動きが止まる。た、確かにそうだな。神に祈るのだからよくよく考えると祈祷のために城へ来るのは変だ。むしろ神の近くで祈れば良い。どうすればごまかせるのだろうか。
「お、王のお近くで祈祷をすることにより、より多くの神のご加護が王のお身体に届くことでしょう」
タイナは思い付いたデタラメをそのまま口から出した。
「そ、そういうものなのですか?勉強不足で申し訳ございません」
衛兵は頭を下げた。何かどうにか誤魔化せたようだな。これからはあまり余計な事は言わないように気を付けよう。どこかでボロが出るかもしれないからな。
「どうぞお気になさらずに。それではお手数ですが、王のもとへ案内して頂けますでしょうか」
「はい、もちろんです。どうぞ、こちらです」
衛兵は背筋を伸ばして礼をすると、手を差し出して城門へ向けて歩き始めた。タイナたちはその後に続いた。城門で警備をしている別の衛兵はタイナたちに敬礼をして迎え入れた。そしてタイナたちは跳ね橋を渡り城門をくぐり抜けた。どうやら城門は常に開けられた状態で跳ね橋も下ろされているようだ。平和な世界なら開け閉めが面倒になるのも当然だろう。
「タイナさん、なかなか上手いですね」
「そ、そう?お、俺、神官に見えるかな?」
タイナのすぐ後ろを歩くローリエが小さな声でタイナに話し掛けた。タイナは少し照れた顔で応えた。
「はい。善良な領民を騙して入信させたと思わせて金だけを巻き上げて各地を逃げ回るニセ神官に見えますよ!」
「お前、それダメな奴だろう!」
ローリエは意地悪な表情で何が上手いのかをタイナに説明した。タイナは間髪を入れずに言い返した。
「ダメも何も、神様なんていないんだから。城に入れれば何でも良いわよ」
それを聞いていたスマは淡々とした言い方で口を挟んだ。
「意外と冷めていますね」
「ここはVRMMOなのよ。仮想世界なのよ。そんな世界に神様なんている方がおかしいわ」
タイナも淡々とした言い方で返事をすると、スマはそれが世界の常識だと押し付けるように主張した。
「でも、NPCの人達は神様を信仰してるから教会とかが成立しているんだよな?」
「まあNPCはそうね。でも、私とローリエはNPCと言うよりもAIに近い存在だから。あんた、現実世界でAIがいきなり神を信じろとか言い出したらどう思うの?それと同じよ」
「まあ、それはそうだな。神なんている訳がないか。ははははは」
城門をくぐり庭園を抜けて、その先の回廊を通り、途中にいる他の衛兵に書簡を見せて塔へ入ることを許された。塔の階段を上り廊下を進むと案内をしてくれている衛兵は大きな扉の前で足を止めた。
「着きました。この部屋が国王の寝室です。現在、国王はこちらで静養されています。一度、私だけ中に入り、近衛兵に説明をした後で神官様たちをお呼びします。どうぞ、それまではそのままお待ちください」
説明を終えると衛兵は咳ばらいをした。タイナたちの返事を待つつもりはないらしい。タイナは国王の寝室と聞いて少し緊張しながら衛兵の仕草を見ていた。
「失礼します」
衛兵は国王の寝室の扉を開けた。その中にはまた別の兵がいた。装備が他の衛兵とは異なり強そうな印象だ。おそらく近衛兵なのだろう。
「近衛兵団長、国王にお目通りをお願いいたします」
案内をした衛兵は相手を近衛兵団長と呼んだ。
「何事だ?」
その近衛兵団長が返事をすると、案内をした衛兵は国王の寝室の扉を閉めた。中ではおそらく俺たちのことを報告しているのだろう。けれども、その内容は外には聞こえない。
「なあ、色々と疑問があるのだけれど」
タイナは緊張が解けて気の抜けた顔でスマに声を掛けた。
「どうかしたの?」
「書簡のひとつで城の最深部まで入れるのはおかしくないか?この世界の人間はどれだけ書簡を信じているんだよ。偽造したら誰でも城に入れてしまうぞ」
「別に書簡を丸ごと信じているわけではなくて、私たちが来る前に神殿から城へ神官が行くと伝書鳩で一報を入れてあるはずよ。正確にはそういう設定だから城に入れる訳で、偽造の書簡だけ携えて城を訪れても捕らえられるだけよ」
タイナの疑問にスマはまるで取扱説明書を読み上げるような言い方でGRAW内の設定の詳細について説明した。
「なるほどね。その辺りは萌炉先輩の仕事という訳か。あと、俺が国王と謁見したら病気の事とか分かるのか?俺、神官だよね?医療のスキルが皆無なのだけれど、治せないと知られたら、俺はどうなるんだ…」
タイナは青ざめた顔でスマに重ねて質問した。
「今更気が付いたの?脳みそあるのかしらね。それは私たちにも分からないわよ。第二開発部門からはタイナには色々なスキルを持たせたから、それらを使えば解決は出来るという情報は来ているわよ」
「え?そうなの?どういうスキル?どのスキル使うの?どれ?」
スマは感情の無い声で説明した。タイナは解決が出来ると聞いてスマに泣きつきながら尋ねた。
「具体的なスキル名までは知らないわよ」
「ど、どうしよう…。指示の通りに国王のところまで来たのは良いけれど、国王の病気を治せる気がしない…」
スマは泣きつくタイナを腕力だけで引き剝がした。タイナはそのまま床を転がり壁にぶつかると、青ざめた顔でその壁に向かいつぶやいた。
「それよりも、さらに大事なことを忘れているよ」
「な、何?」
「タイナは祈祷の作法やその言葉を習得しているの?」
意気消沈しているタイナにローリエは追い打ちをかけるように尋ねた。青ざめたタイナの顔色がより濃く青ざめて手足は震え始めた。
「あ…、し、知らないや…」
「詰んだわね」
「これでもしも国王のご病気が悪化でもしたら、その責任で首ちょんぱですね」
タイナは蚊の鳴くような声で返事をすると、スマは諦めた顔でつぶやき、ローリエは微笑みながら死刑宣告を下した。
「お、俺、死ぬのかな?」
タイナはスマにすがりつこうと振り向いて手を伸ばしたけれども、スマはどこを触られるのか分からないので不安になり足で踏み付けてその動きを止めた。
「安心しなさい。現実世界のタイナが死ぬことは無いわ。この世界で殺されたら強制ログアウトされるだけよ」
「でも、ものすごく痛いですよ。スマに殴り飛ばされた痛さの比ではありませんよ。ああ、痛いでしょうねえ。想像をはるかに超える痛さでしょうね。ぜひ、その断末魔を聞かせて下さいね」
スマの足を振り払い、頭を抱えながら起き上がるタイナにスマは冷静な眼差しで不安を和らげようとこの世界での死について説明した。ローリエはタイナの反応が面白いので逆に不安をかき立てた。
「痛いのは嫌だ!死にたくない!」
タイナは極めて単純な理由を堂々と叫んだ。
「殺される前にログアウトしなさいよ」
「それをしたら、現実世界である意味、死亡するかも…」
「まあ、それもそうね…。それなら諦めるしかないわね」
スマは簡単な回避方法を提案したけれども、タイナの返答を聞いて現実世界の事情を察し、他に良い方法が無いか考えた。しかし、何も思い浮かばないのでスマは考えることを諦めた。
痛いのは嫌だ。でもそれを理由にログアウトしたら現実の世界で佐渡江課長と萌炉先輩に何を言われるか大体の想像はつく。“想像よりもヘタレなのね”とか“ダメな後輩ですね”とか言われるに違いない。
「まあ、何回か死んで生き返るうちに、解決が出来れば良いと思いますよ」
「それはダメ!色々な意味でアウトだから!」
ローリエとタイナが話をしていると国王の寝室の扉が開いた。タイナの情けない顔が光に照らされた。
「神官様、お待たせしました。どうぞ、こちらへ」
案内をした衛兵が中からタイナたちに声を掛けた。その顔は信頼と期待に満ちている。タイナは覚悟を決めた。その顔から青ざめた色は消えていた。
「は、はい。タイナ、行きます」
どうせ治せないだろうから、スマの言う通り話を聞くだけ聞いて、その内容を現実世界に持ち帰り、社内の他の誰かに対応してもらうしかないな。とにかく、この場は治せない理由をどうにか誤魔化そう。
タイナは国王の寝室へ入ると、驚いて顔を上げた。
「広いなあ!」
国王の寝室は広さが謁見の間と同じくらい広く、天井も高い。ベッドは部屋の奥に配置されていて、そのベッドは上半身の部分が傾斜しており、国王は寝ている姿勢でも周りを見ることが出来る。国王はその姿勢でタイナたちを迎えた。年齢は70歳を超えたくらいの老いたやせ型で男性のNPCである。寝室ということもあり華美な装飾品は身に着けていない。
「よそ見をしないでよね!恥ずかしいから!」
タイナの後に続いて国王の寝室にスマが入ると、タイナの様子を見て顔を赤くしながらタイナに自制を求めた。
「ねえ、タイナ教えてあげる。国王の前で片膝をつくと、敬意を示す意味になるよ」
「なるほど、そうなのか。ありがとう。助かるよ」
「いえいえ。どういたしまして」
最後にローリエが国王の寝室に入ると扉は衛兵の手で閉められた。三人は近衛兵団長に部屋の中央へ行くように案内された。
「国王、こちらが神殿より参られました神官のタイナ様と二人の巫女にございます」
近衛兵団長が国王にタイナたちを紹介した。紹介されたタイナは片膝をついた。
「よく来てくれた。ん?神官殿、国王と神殿の間では膝をつく必要はないぞ」
タイナだけ片膝をついていて、他の二人は直立していた。国王に言われてタイナはそれに気が付いた。
「だましたな」
「ふふふ。良い顔していますよ」
タイナはローリエを睨んで小声で文句を言うと、ローリエは口元を手で隠して微笑んだ。タイナは気を取り直して静かに立ち上がる。平静さを装うものの耳だけを赤く染めていた。
「申し訳ございません。神に仕え修行の毎日で、人間界での作法に疎くなりました」
「それは仕方がないな。さて、本日はわしの回復を祈祷するために参られたそうだな。すぐにでもお願いしてよろしいかな」
国王は伝え聞いていた要件を言うとやつれた顔に期待の気持ちを浮かべた。祈祷のやり方なんて知らないよ!本当のことを言えばすぐに首をはねられるだろうし。あ、そうだ。
「かしこまりました。その前にひとつお願いがございます」
「何だ?申してみよ」
タイナは思い付いた内容を、さも当然のように言い始めた。
「本日の祈祷は神殿に伝わる特別なもので特別な者だけに見せることを許されたものにございます。そのため、申し訳ございませんがお付きの者たちの人払いをお願いいたします」
「おい待て!それは聞いていないぞ、神官殿!」
タイナの話を聞いて近衛兵団長が驚きの声を上げた。今すぐにでも捕えようとタイナを睨み構えた。タイナは背筋を凍らせて泣きそうな顔をした。
「よかろう」
「国王…、承知いたしました」
それを見ていた国王は即座に決断を下した。すると近衛兵団長は言いたい言葉を飲み込むと、その指示に従い国王の寝室から退出した。続いて他の近衛兵や世話役も団長に続き退出した。タイナは近衛兵団長が退出して胸を撫で下ろした。
「これでよろしいかな?」
「はい。ありがとうございます」
ふう。言い出した時は肝を冷やしたけれど、これでもしも祈祷の直後に王の容体が急変してもすぐに首をはねられるという最悪の事態だけは回避したぞ。それにしても具体的に祈祷は何をどうすれば良いんだろうか。ここは考える時間を稼ごうか。
「ところで国王、お体の不調とは具体的にどのような症状なのですか?」
タイナは祈祷の方法を知らないので考える時間を稼ごうと国王に体調について質問をした。意図せずに問診をしている形になり、それを見ていたスマは、まあ何だかんだ言いながら仕事をするタイナを少し頼もしく感じていた。
「うむ、頭が縛られるように痛くてな、次第に眩暈や耳鳴りもするようになり、夜も眠れない状態が続いておる。このような病気は初めてのせいか不安で憂うつじゃな。治らないと治世に影響するのではないかという焦りもある。おおむね、このような症状じゃ」
うん、なるほど。それ、ストレスによる身体的症状ですね。国王にも佐渡江課長のような酷い上司でもいるのだろうか、まさかいる訳がないな。なぜなら国王はこの国で一番偉いはずだ。そもそも、この仮想世界はNPCがストレスを受けるような環境なのだろうか。それが問題の根源かもしれない。とりあえず祈祷はそれらしい動きをすれば良いかな。でも、何も思い浮かばないな。どうしようか。
「国王、その症状はいつ頃からですか?」
タイナは祈祷のことを考えながら問診を続けた。
「確か2ケ月くらい前からじゃな」
国王はおおよその時間で答えた。タイナは指を折りながら計算を始めた。2か月前か。仮想世界の1日は現実世界の約24分だから、ええと、暗算が出来ない!計算するには指が全然たりない!
「スマ!ローリエ!この仮想世界の60日は現実世界では何時間だ?」
「約24時間よ」
タイナの質問にスマは即答した。ローリエは答えるのが遅れたので不愉快な気持ちでタイナの顔を見ていた。
「さすがAIだな。回答に1秒も掛からないとは」
「人間の頭で暗算しても1秒も掛からないと思いますよ」
「頭の出来が悪くてすみませんね」
タイナが褒めてもスマは嬉しそうな顔をしない。それどころかタイナの頭をバカにした。褒めたのにそのお返しでけなされるのかよ。この仕様を後で調整することは出来ないのだろうか。タイナは祈祷のことを忘れてスマを憎らしく睨んでいると、国王は思い出したことを言い始めた。
「そうじゃ。これはもしかするとな、神からの試練かもしれないのじゃ!2ケ月前くらい前、わしの目の前に神が降臨したのじゃ。そしてわしに試練を与えたのじゃ」
「神からの試練?ですか?」