石鹸箱Ⅱ
Ⅱ
幸い遺品の石鹸箱に彫られた住所は、ミツの住まいからさほど遠い場所ではなかった。
いきなり訪れては失礼なので、電話で事前に遺骨が見つかった経緯は説明してある。竹田家の一族はミツの来訪を今か今かと待ち構えていた。
ミツが玄関に立つと挨拶もそこそこに、在りし日の竹田政夫の写真のある仏間へと通された。
「本当に…本当にありがとうございました。私は竹田日出雄と申します──父・政夫の息子です」
「お父様のご遺骨はできる限り拾ったつもりですが、取りこぼしていたらごめんなさい」そう言ってミツは、日出雄に大きな段ボールを渡した。中には白布に包まれた遺骨が納められている。
「遺骨というのはこんなに重たいものですか?」男の日出雄が持ってもズッシリとした重さだった。
「土の中に眠っていたお骨は火葬したお骨とは違うんですよ」
日出雄は納得して段ボール箱を開け、白布の中を覗いた。
「父さん──!」日出雄は、割れてしまった頭蓋骨の下あごの骨を優しく両手で手に取ると、頬に当てて泣いた。「お帰りなさい父さん…。ずっと冷たい土の中で辛かったでしょう?寂しかったでしょう?これからはずっと家族と一緒です。本当にお疲れさまでした…」
日出雄の妻も、娘家族もすすり泣いていた。
「──それから…これ…」ミツは持っていたバッグの中から遺品を取り出した。これも白布に丁寧に包まれていた。日出雄は白布を開くと、なんとも言いようのない切ない顔で遺品と対面した。
日出雄が暫く遺品を見ていた時間が、なぜだかミツには長い時間に感じた。
そして、どうして黄色い石鹸箱だったのかをミツに語り始めた。