出兵Ⅱ
Ⅱ
竹田政夫が出兵して数か月後──一人の軍人が竹田家の玄関の戸をたたいた。
軍人が大事そうに手に抱えていたものは小さな壺だった。タカはそれがなんであるのか一目で分かったが、軍人の口が自分の思っているとおりに動くことが恐くて視線を逸らした。
「おめでとうございます!竹田政夫二等兵は沖縄戦において名誉の死を遂げられました」
「ありがとうございます…」タカは力なく骨壺を受け取ると黙って頭を下げた。
「それから、この骨壺の蓋は開けないでください」軍人はそう言い残して帰って行った。
タカは牧子に骨壺を見せた。牧子はその場にへたり込んで泣きじゃくった。タカはその背中を撫でてやりながら、やり場のない憤りと悲しみを口にした。
「なにがめでたいんだ…。なにが名誉の死だ…。なにも望まない…息子をかえしておくれ!」
「あなた…かわいそうに──こんな小さな骨壺に入れられて…」
「軍人さんが言ってたよ…。骨壺は開けるなって…」
骨壺は蓋の上から和紙が覆い被せてあった。和紙は剥がれないよう細い紐で骨壺の口の周りをしっかり括ってある。タカは軽く骨壺を振ってみた。〝カラカラ〟と音がする。
「開けてみます…。一目あの人を見たいから…」牧子が紐を解き和紙を取ると、そっと骨壺の蓋を開けてみた。そこには鉛筆が二本入っていただけだった。