謎の旅行Ⅳ
Ⅳ
錫が次に案内されたのは、摩文仁の丘と呼ばれる小高いサンゴの丘だった。
激戦地とされていたこの丘も、今はアスファルトで舗装された道が続いている。丘の上には各府県や団体の慰霊碑が点々と建てられている観光地だ。
「見てごらんよ錫──丘の周りには柵があって、その向こうはジャングルになっているだろ?今日はあの柵を乗り越えてジャングルに入って行くよ」
「えっ!?──あのジャングルの中に…?」
「そう、それが沖縄に来た目的だからね!」
意味も分からず、錫はヘルメットをかぶらされ、先に進めぬほど生い茂る樹木の中へと足を踏み入れた。
「おばあちゃん…もしかして登山ってこのこと?」
「ふふっ…そうだよ。あんたをいつかここに連れて来ようと思っていたんだ」
「今まで何度も沖縄に足を運んでいたのはここに来るためだったの…?」
「姉さんはご主人が亡くなってから、毎年のようにこうして山に入っているんです」
「ふぅ~ん………何のために?」
「お骨を拾うのさ…」ミツがさらりと呟いた。
「お、お骨を…?」錫は聞き間違いかと思って聞き返した。
「ああ…お骨だよ。こんな綺麗な道を歩いているとそんなの想像できないだろう?観光でここに来ている人たちだって、まさかこの柵を一歩跨いだら、その辺りにご遺骨が眠っているとは考えもしないことだろうよ」
「その辺りに転がっている…?」
「驚きだろう?──あんたが恐がるといけないから、登山ということにして黙っていたんだよ」
「そうだったの…。た、たしかにそれを聞いた途端ビビッっちゃったけど…」錫は眉を下げて泣きそうだ。
「大丈夫よ錫さん。ご遺骨と対面して恐がった人はまだ一人もいないから」
「だけど、戦後八十年近くにもなるのに、まだご遺骨があるなんて信じられないなぁ…」
「さすがに地表に転がっているご遺骨はほとんど残っていないけど、地面の下には多くのご遺骨があるんだよ。それに、ほら…あちこちに壕があるだろ?」
「あの自然の穴ね?」
「当時はああした壕の中にたくさんのご遺骨が眠っていたんだよ」
「おばあちゃんはいつもここに来て、ご遺骨を拾っていたんだね…。でもどうして?」
「最初はあんまり深く考えてなかったのさ…」
ミツが未亡人になって暫く経った頃、仲本晴美は気分転換に沖縄まで遊びに来いとミツを呼び寄せた。
季節が寒い時期だったので、晴美はミツに遺骨を拾ってみないかと誘った。
「寒い時期にご遺骨を拾うのには訳があるの?」錫が何気なく尋ねた。
「あるよ──沖縄は猛毒を持つハブがいるからね。冬眠している寒い時期を狙って山に入るのさ」
「ひぃ~~…ハブ…猛毒…」錫は想像しただけで鳥肌が立った。ミツは恐がる錫を見て笑った。
「晴美に誘われるまま初めてご遺骨を拾ったとき、忘れられない出来事があってね…。それからは毎年この時期はここを訪れるのさ」
「そうだったのか…。それでおばあちゃん…忘れられないことって何?」
「そうだね…。その話をしてあげないとね…」
ミツは手に持ったスコップで遺骨を探しながら──ある出来事を語った。