謎の旅行Ⅱ
Ⅱ
「お世話になります」錫は玄関先でミツとさほど年齢の変わらない初老の女性に挨拶した。
「私の孫の錫だよ。よろしく頼むね」
「こちらこそ。まあまあ、そういった話は後で。さっ、姉さん早く上がって」
「そうだね…。さぁ錫、ここでは遠慮はいらないから上がんなさい」
香神ミツが沖縄を訪れた時の寝泊まりは、決まって糸満市にあるこの家だった。
家の持ち主は仲本晴美。ミツと共に憑子園で育った姉妹のような存在だ。夫とは早くに死に別れた。サトウキビ畑を営む一人息子は妻と二人の子供に恵まれ近所に住んでいる。普段は晴美も自分のペースで息子の仕事を手伝いながら、悠々自適に暮らしていた。
「ここまで車で送ってくれたおじさんが、おばさんの息子さんね?」
「そうだよ。死んだ主人の跡を継いでくれている孝行息子さ。あとで錫ちゃんもサトウキビをかじってみるといいわ…ふふっ」
「食べたことないから楽しみです!──それにしてもここに来るまでの間、登山するような山らしい山はなさそうでしたけど…もっと遠くに高い山があるのですか?」
「登山…?」晴美は不思議そうに聞き返した。
「ふふふっ…私がこの子に登山の用意をしてこいって言ったんだよ」
「えっ!?──姉さん…じゃ、錫ちゃんは明日どこに行くか知らないの?」
「そういうことになるね…ふぉ~っふぉっふぉっ…」
錫は二人の会話に入って行けず、ただ黙って聞いていた。