名前で呼べない師匠と助手
「師匠」
魔術師セシリアは、呼びかける声に一瞥もせず「何だ助手」とだけ返答する。
「実は魔術師長様から魔術師試験の推薦状をいただきました」
「は……?」
助手としてセシリアに師事しながら、一向に試験を受けない彼を案じた魔術師長から、直接申し受けたと伝える助手。
「私に相談もなく!」
「長が仰るには合格する実力は十分と。なのに試験を受けさせないのは師の怠慢だと」
「君の実力は……」
「そして、『仮に5年も師事して実力不足ならば、それは師の指導力不足。師を変えねばならん』とも。師匠は僕を嫌いなようなので、その話を受けようと」
彼が師を変えることに前向きなのを見て、「そんなことはない!」と途端に慌てだすセシリア。
「魔術の指導はしっかりやっただろう!」
「そこは感謝します。ただ、いつも僕に対して無愛想、ぶっきらぼうで、弟子なんか欲しくなかったのではと思う節が多々あったので」
「居てくれないと困る……」
「それは師匠が家事全般ダメで、お手伝いさんが欲しいからでは?」
本職のお手伝いさんを雇えばと言う助手に、セシリアは違うのよとブツブツ呟いている。
「僕を助手に置く理由が他に?」
「あるよ……貴男を助手にしたのは、私が側に置きたいからだよ……」
本来なら弟子を取るには経験年数が足りない彼女だが、無理を言って幼馴染で昔から好きだった彼を迎え入れたのだ。
「無理に弟子を取らされたわけでは……」
「私がお願いした……」
「それって……」
「好きってことだよ」
「その割には……」
「恥ずかしいんだもん……それに君だって師匠って呼ぶばかりでセシリアって呼んでくれないもん」
「もんって……」
いつもキリッとした師匠が駄々っ子のように言うものだから、プッと吹き出す助手。
「お気持ち良く分かりました。やはり私は助手を卒業しないと」
「そんな……」
「僕は魔術師試験に合格してみせます。そのときは師匠に結婚を申し込んでもいいですか」
「け、け、結婚!?」
彼はセシリアと同じ魔術師という立場になったら彼女を名前で呼び、結婚を申し込むつもりだったと話す。頑なに師匠と呼んでいたのはそのためだった。
「師匠、もう少し待っていてください」
「そしたらセシリアって呼んでくれるの?」
「魔術師になったら必ず。その時は僕も名前で呼んでね」
「頑張る……」
◆
「やれやれ、世話のかかる娘だ」
研究室の外で2人のやり取りを聞いていた魔術師長は、満足そうに頷くとその場を立ち去るのだった。
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