6. 管理者世界閉域と異世界
死んだ俺は、管理者世界で再び肉体を与えられた。マナで構成されているが通常の人型生命体と全く変わらない生身の身体だ。
腹も空けば喉も渇く。怪我もすりゃ死にもする。疲れもするし睡眠も必要だ。排せry
。
老化がとても遅く、数十億年変わらず管理者をやっているなんてザラらしい。確かにみんな若々しい。老いていくほど、仙人のようになっていくようだ。
地球のような、知能のある生命体が存在する世界は他にも無数にあり、”現世”呼ばれている。
そして現世の他には、妖精や精霊、妖怪などが住まう”幻域”や、俗に霊界や天国、あの世などと呼ばれる、死んだ生命体の全ての魂魄が溶け合う”幽域”、死ぬ間際に現世への未練などがあり残留思念となった魂魄の向かう”冥域”があり、幽域へ上がることもできずに漂う魂魄をゴーストと呼び、それらと結ばれるゲートという門がある空間が門域となっている。
ゲートと呼ばれている現世とつながっている場所は概ね固定されていて、神社やパワースポット、神隠しなどが起こる場所がそうらしい。
管理者は門域を経由して、ゲートでつながった現世へと出入りし、配属された世界で数年〜数百年滞在し、活動する。それが管理者の仕事である。
「現世・幻域・冥域・門域・幽域」を管理しているのが、ここ管理者の住まう閉域だ。
地球や他の世界での神話に出てくる神は、管理者のことが後世に伝わったものであるらしい。火の神術を使う管理者のことを、現世の神話では「火之迦具土」や「スルト」となっている。
例えば火の管理者も多くいるから、特定の管理者だけがそう呼ばれるわけではなく、火の管理者のことを総称しているのが実態だったわけだ。
管理者をやっていれば、そのうち神話のモデルになった人物と出会えるだろう。
例えばゼウスや天照大神とか。
ちなみに管理者には上下関係がなく、年齢や経歴年数での差別もない。マナの性能差はあれど、それをネタにマウントする奴もいない。とりあえず、現段階での俺の分析としては、平等と言えるだろう。
大きく分類された12属性の中で最もマナの高い管理者を、畏敬を込めてまたその属性の管理者のまとめ役として「トラステッドインストーラ」と呼ばれる12人がいる。属性のエキスパートということだ。
魔法や超能力など、異能の力のことを、管理者世界では『神術』と呼称している。他の世界でも、管理者ほどの力はないが使えるものがいるとのことだ。呼び名もそれぞれ異なるらしい。
この力を使う場合、いわゆるカロリーや体力を消費するため、食事や休息は必須だ。無限に使えるものではない。
念を押されたのが、いわゆる神と呼ばれる存在であることを知られてはいけない、現世以外の世界が存在することを知られてはいけない、と言うものだった。一部、異世界が存在することや管理者の存在が公になっている世界も存在しているらしいが、配属される場合は事前に教えてくれることになっている。
確かに、神やそれに準ずる存在がいることが立証されてしまうと、宗教戦争とか余計な争い(崇拝する神の違い)が一層酷くなりそうだし、願い事も叶えてやらなければいけなくなる。
管理者の絶対数が少ないんだから、全てに平等を、なんて不可能だ。神でも万能ではない。労働者の一員、労働社会だ。
通常の生命体であれば死後は「幽域」へ行き、全ての魂が溶け合った世界で悠久の時を過ごしながらマナの源となったり、再び生命体として生まれ変わる輪廻転生のサイクルで成り立っている。そこでなら、労働からは逃れることができるんだろうが・・・。
俺はふと、両親のことを考えた。どんな笑える死に様だろうと、息子が死んでしまったら流石に悲しみに明け暮れているだろう。
人間としての生は終わってしまったが、再び生を与えられたことを教えて安心させたい。そう考えていると、目の前の空間が歪み、両親の姿が映し出された。
声も聞こえる。夢や俺の空想ではないのだろうか。向こうの声も聞こえている。やはり悲しんでくれていた。
「俺は別な世界でちゃんと生きているよ」
そう呟いた。
両親は辺りを見渡し、驚いていた。そして、お互いに俺の声が聞こえたと話していた。きっと波長があったのだろう。少しでも気がまぎれてくれればいいが。
いつの間にか両親の姿は見えなくなっていた。俺のマナ、一体なんなんだろうか。考えているうちに、眠りへと落ちていった・・・。
どれくらい眠ってたのだろうか。時間の感覚が曖昧になる。窓から外を見ると、星とオーロラ、虹が空を覆っていた。不思議な情景だ。ふと、外が気になった。
「散歩、してみるか」
この世界にも小規模ではあるが街や家があり、管理者はほとんど生前と変わらない生活を営んでいる。
服や生活用品、食料を販売(通貨や物々交換は不要だから販売とも言えないが)していたり、映画館や美術館、コンサートホールもある。現世へ行くよりも、周囲を気にしなくていいと言うのもあるのだろう(管理者の人手不足と言う割には設備が充実しているのは置いておこう)。
動物の姿をした管理者もいる。テレパスでの意思疎通や神術の使用もできるようだ。
ただし人型に比べて絶対数は少ない。
そして大多数の管理者は、現世での仕事のために出払っているため、街中で出会うことがほぼない。現に、お店を営んでいる管理者以外とは出会ってもいない。
そのうち知人や友人になれるやつもできるだろうか。
街の外にも世界が広がっていて、ざっと地球の月くらいの大きさらしい。
いくら神みたいな連中の世界でも、根本的には物理法則は働いているようだ(マナはどうなんだろう)。
景色が違うだけで生きている時と感覚は変わらないな、なんて考えて散歩をしていたら音楽が聞こえてきた。この音色は、ハープだろう。心地よいが、どこかもの哀しさがある。
音に導かれ、森を抜けた先には湖が広がっていた。湖畔にその「音の主」がいるのが見える。