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3. 晩餐会、そして朝

 ギルは運よく、湖に落下した。

 一緒に来ていたマカイロドゥスの仲間が探しに行き、連れ帰ってきた。かなり傷だらけになっている。

 

 すまん、やり過ぎた。

 俺はセオドアと共に野営場所に戻ってきたが、相方はまだ帰ってきていない。あんだけ大規模な爆発や竜巻があれば気付いていいものだが・・・。


「クウマ殿、ギルの儀式の相手になってもらい、本当に感謝する。我としてもまさかそなたがここまで強いとは思わなんだ。ギルもこれで、そなた程の魔法力を持つもの者以外には大概は怯まなくなるであろう」


「いえ、こちらこそいい魔法を見せてもらいました。勉強になります。そして少々やり過ぎてしまいました。ところでギルの使う魔法、ティンクルレインでしたっけ?あの光の矢を降り注ぐ魔法はマカイロドゥス一族固有のものですか?」


 気になったら聞いてみる。


「そうではない。そなたも存じているように、個体ごとに得意属性は光精・闇精・風精・土精・火精・水精・雷精・氷精・治癒精のうちどれかとなっておろう。ギルは発現率の少ない、光が得意属性でな。その中でもギルの光魔法は特に強力な部類なのだが・・・。まさか無傷で凌ぐとは、な」


「いや、風によって大気の気圧に変化が生じて、光の軌道を逸らせれたんですよ」


 なんて、もっともらしく言ってみた。

 というか、属性って10しかないのか。さらに細かくは分類はされていないんだな。土であれば、土に関わる元素とか。風であれば酸素とか。


「だが、光の軌道を変えるなど、余程の魔法力を持っても難しいはず・・・。現にギルのティンクルレインを凌ぐには、同威力の魔法での相殺か高レベルの結界魔法、土属性の土壁魔法もしくは身体能力依存での回避くらいのはずだ。風属性で防ぐにしろ、高レベル者となるとヒューマの中でも数人しかいないはずだ」


 セオドアは納得していないようだ。そりゃ、そうだよな。かなり無理がある。と思う。だが大気の影響によって光の方向は変わるはずだ魯王からあながち不可能では無い。


「・・・族長、お話の最中、間に割り込んで申し訳ありませぬ」


 突然、話しかけてきたのはさっきまで戦っていたギルだ。傷は・・・治りかけている。


「ギルか。もういいのか?」


「はい、族長。クウマ殿、今日のお相手、本当に感謝しています」


「もう大丈夫なの?」


 気になる。かなりの傷だったのに。おそらく、治癒魔法が得意な者がついてきているのだろうが、それにしてもなかなかの回復の早さだ。人間があれだけの怪我を負えば動けるようになるだけで数日はかかりそうなほどだったのに。


「ええ。我等一族は治癒能力が高いので。魔力の回復と多少の睡眠時間があればあの傷程度であれば治りが早いので」


 回復魔法じゃないんかいって心で突っ込んでしまった。

 異種族間コミュニケーション。まさか異世界にきてからの最初のコミュニケーションが魔獣となるとは想定外だったが、これはこれで面白い。セオドアやギルと談笑をしていると、何かの気配を察したマカイロドゥス一族は臨戦体制に入った。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ」


 夜の闇から聞こえてきた声。この声はあれだ。俺の相方のお出ましだ。


「みんな、彼は敵ではない。むしろ私の相棒だ」


 そう俺に紹介された人物が、やれやれ、といった表情で焚き火の近くに寄ってきた。炎に照らし出され、褐色の肌に銀髪が映える。


「ん?私?クウマ、今そう言っていなかったか?なんか仕事でも依頼されたのか?」


 仰る通りですよ。ついさっきまでやりあってました。ていうか、騒動に気付けよー。あと仕事モード解除だ。


「さっき、この辺りでかなり大きめな戦いとかしてたんだけど、気付かなかったのか?ヒノヤセ・ン・パ・イ」


 先輩であることは間違いないが、皮肉を込めてセンパイと読んでみた。

 ヒノヤ。そう、彼が俺の相方で、さっきまで狩りに行っていた人。


「いやぁ、なんか拠点でイベント発生しているな〜って思ったけど、どうせお前がいるからいいやってw」


 「w」じゃないぞ!まあ、この人に何かあっても俺も同じように振る舞うから仕方ないか。でも最低限はここでの動植物や魔獣の知識くらい話して欲しかったな。

 狩りに行く前に教えてくれたことって、「これから行く目的地・どれくらい時間がかかるか・何度か野宿・メシは狩りで交代・盗賊とかはでない」これくらいだ。

 せめて、「人語を話せて魔法を使える魔獣がいる」くらいは言ってくれてもよかろう。


「ま、少し魔法を使って戦ったくらいだから・・・」


 少し呆れたように言ってみた。


「お!早速魔法使ったのか!お前の魔法、見てみたかったゼ☆ま、その話は置いといて、と」


 マカイロドゥス一族を見つめ直し、一言。


「俺の名前はヒノヤ。すまない、この辺りはあんた達の領地だったのか。気づかなくて申し訳ない。そして、獲物も返そう」


 さすがこの世界を担当している先輩。状況は把握していたのか。


「ヒノヤ殿、と申されたか」


 セオドアは一呼吸おき、続けた。


「この世界エディアカランに名だたる、焔の踊り手・ヒノヤ殿で間違いなかろうか」


 炎獄の踊り手・・・その二つ名に俺は心の中で笑ってしまった。


「へぇ。そんな呼び名がついていたとは知らなかったが。多分、そのヒノヤだゼ☆」


 ・・・チャラい。


「クウマ殿、このような方と旅をされていたとは・・・。通りで強いわけだ」


 セオドアさん、納得してくれた。


「クウマ、褒められてるみたいだなっ!・・・だが。とりあえず彼らの領地から離れようか。獲物も返すから、許してくれないだろうか。」


「いいや、ヒノヤ。その話なんだが、さっきの戦いの結果で、離れなくても獲物も返さなくていいことになったんだ」


「そうなの?どして?」


 俺はこれまでの経緯をヒノヤにざっくりと話した。


「なるほど、そういうことがあったのか」


 そして小声で「クウマにとっても自分の力の強さを把握できてよかったな」と囁かれた。耳元で。う・・・鳥肌が・・・。


「それじゃあ今日はここで野宿できることになったんだし、パーっとやろうぜぇ!パーっと!!』


 そうヒノヤは徐に荷袋から酒瓶を取り出し、そこらへんの木をくり抜いただけの器に注いだ。淡く琥珀色に色づき、クリーミィな泡が器の外まで膨らんで溢れていく。

 そして、あたりに漂うこの香りは・・・ビールに近いものだ。ヒノヤは俺の器にもなみなみと注ぎ、そしてセオドア達にも振る舞った。


 う・・・。顔には出さないが、トラウマが蘇る・・・。少し飲む程度にしておこう。


「cheese!!!」


 ヒノヤが立ち上がり、叫んだ。


「cheese!!!」


 セオドア達もそれに呼応した。

 どうやらこの世界での乾杯は「cheese」であり、魔獣も酒を飲むのものらしい。俺もとりあえず乾杯はしておく。

 野性味溢れる異世界でのアウトドア。

 ヒノヤが狩ってきた猪みたいな豚みたいな動物の肉の丸焼きと、マカイロドゥスがつい先ほど狩ってきた野牛みたいな動物の丸焼き、そして果物のようなもののデザートとで大所帯の宴会となった。

 ギルの儀式のお祝いにもなるし、これもいいか。


 満点の夜空に、青と薄紫の星が輝いている。その星空の下では、管理者と魔獣たちの宴の焔が煌々と輝いていた。その宴は空が明るくなる頃まで続いていた。



 紅い朝焼けが平原を照らしていく。太陽より日差しが少し強く感じる。異世界での初日の出だ。

 印象に残る出来事となるだろう。俺の頬を、柔らかい風がそっと撫でて過ぎていった。

 この世界では、日中出ている主星との距離が少し遠いのと、大きい伴星が二つあるおかげで、昼夜の気温差がほとんんどないらしい。だからこそ、特に寝袋がなくても寝冷えしないですんだ。


 あたりには何本もの空瓶が辺りに散らばっていた。どこにこんなにしまっていたんだ。そして度数の高い酒・・・。

 エイルと呼ぶものだと知った。

 ビールよりも味が濃く、アルコール度数も高い。地球で飲んだインペリアルスタウトみたいで美味しかったな。量は少しにしたから、二日酔いもない。


 共に宴を楽しんでいたマカイロドゥス族のみんなは、夜明け前に自分たちの集落へと帰っていった。宴を開いた張本人である俺の相棒、ヒノヤというと・・・。


 気持ちよさそうに大いびきをかいて寝ている。とりあえず、空瓶はまとめてかまいたち(?)に細かく切り刻んでもらおう。魔法というのもは便利だとつくづく思う。

 生きていた時に魔法というのもが普通のことのように存在していたらどうなっていたのだろうか。魔法力の大小で仕事の差別もあるだろう。

 そう考えると「魔法はあってもなくてもそんなに大差がない」ということだろう。使えるものと使えないものではまた別な差別を生むだろうけど。


 かまいたち(?)でのエアーシュレッダーが終わり、ガラス瓶が砂粒程まで細かくなった頃にヒノヤが起き出してきた。


「・・・んーー・・・。もう朝か・・・。クウマ、もう起きていたんだな」


 寝起き声でヒノヤが話しかけていきた。


「もう出発準備はできているよ」


 宴でのヒノヤの話によれば、今、俺たちが目指している「城塞都市チェスター」までは、人の足ならばあと30日ほ

どで着く距離だそうだ。当然ながら30日も歩きっぱなしなんて今までしたことがない。


 もっと少し早く着く手段は他にも色々あるんだが、ヒノヤ曰く「この世界を知るためには、歩いて行く方がいいだろ」ということで、徒歩での行動になった。

 生きていた頃は電車や車、飛行機での移動ばかりで旅の醍醐味を知らなかったから、歩いての旅もいい経験になっていくだろう。


「さて、行くとしますか」


 ヒノヤも準備を整え、出発する。


 やはり日中でもこの風景は地球とは大幅に違う。

 共通点といえば、「空はある、植物や生物はいる、大気がある、水分の流れる川もある」くらいだろうか。そして共通点であるはずのものも、地球での生活ではあり得ないものだ。


 空は濃い青で地平線に向かって鮮やかな青緑がかかり雲は乳青色。プテラノドンみたいだけどエレガントな翼竜が飛び交っている。


 植物は、巨大な綿帽子のたんぽぽみたいな樹木や、巨大コゴミもどき、カラフルな草原。


 大気は仄かに甘く感じる。エチレンでも混ざっているのだろうか。そういえば、昨日の焚き火の炎、燃料である木材が少なかった割には燃え盛っていた気もする。


 そして水分。

 確かに液体の川や湖はあるし、それを飲料にしていることは間違いない。

 だが、味がとてつもなく爽やかだ。レモン水とはまた違うが、爽やかで飲み続けられる。地球に持っていけるのなら売れそうだ。

 動物も広い原野で走り回り、植物の色彩の鮮やかなこと・・・。こんな世界が存在していたなんてな。


「そういえばさ」


 おもむろにヒノヤが話しかけてきた。


「昨日の酒盛りで、お前あまり酒を飲んでなかったな。酒、弱いの?」


 俺は話すか少し悩んだが、もう恥もないから話してやろう。どうせ当面の間はヒノヤと活動を共にするのだから、いずれ知られることになるだろうし。


☆設定及び用語☆

・ヒノヤ

 ・管理者の一人。褐色肌で銀髪セミロング。お酒大好き。

 ・炎獄の踊り手w

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