2. 儀式
ほんと、いい夜風だ。寝る前の運動としても良いな。
「じゃあ、早速やろうか。準備はいい?」
「・・・構いません。」
若い魔獣・ギルは緊張しているようだ。誰もが初めて経験するときは緊張するものだ、がんばれ、若者よ。
俺だって戦闘なんて生まれて初めてだし、ましてや実戦に使う異能の力・神術なんてこれが初だ。この世界での呼び名は魔法となっているから、この世界では魔法としておこう。
「それじゃあ行くよ」
そう言うと、俺は片手掌を相手に向け、竜巻をイメージした。
その瞬間。
ギルを囲い、逃さないように巨大な竜巻が出現した。サイクロン(?)だ。同時に、俺自身の周囲にも風の壁を張り巡らせておく。
双方の風の渦は天空まで貫いている。思った以上に大規模となってしまったようだ。
ギル側の内部では、かまいたち(?)が発生し、彼に裂傷を負わせているはずだ・・・。まあ、小規模にしているから、大怪我は負わない、と思う。神術の扱いは慣れるしかないな。
「おぉ・・・あれほどとは・・・」
セオドア達のどよめきが聞こえてきた。どうやらこの世界での風魔法は、この規模では大きい部類に属するみたいだ。魔法の発動方法は聞いていたが、なにせ初めて使うんだ、さじ加減がわからん。次回はもう少し規模を小さくするか。
巨大な竜巻が発生してから数十秒が経過した。
俺のシナリオとしては、ギルは、サイクロン(?)に巻き込まれて空中に飛ばされつつ体を切り刻まれているだろう。そして、そろそろ竜巻から弾き飛ばされて何処かへ行ったか、もしくは・・・。
天空から、淡い光が降ってくる。
「もしくは、の方だったな」
もう少し戦闘は続きそうだ。だが、あんなに上空に飛ばされては落下の衝撃で致命傷を負うのでは無いか。それに、あの状態からどんな攻撃を仕掛けてこれるのだろうか。
ギルの身体の輝きが強くなり、そして、風を纏う俺へと放射された。
無数の光の矢が天から降り注ぐ。昼間のように眩ゆい。広範囲へと、光のドームでも作られるかのように、天気雨でも降るかのように降り注ぐ。
轟音とともに光の矢が大地に突き刺さり、輝き、そして消滅。一瞬ではあったが、荒野に光の草原ができたようだった。
荒野は砂塵が舞い、視界の閉ざされた地となった。
突如、砂埃が、風とともに吹き飛ばされていく。
「うん、凄い魔法でしたね、。光に質量を込めたのか。いわゆるフォトンや光子ってのになるのかな。私には使えそうにないなぁ・・・」
素直に感想を述べた。
俺を避けるように、周囲に降り注いだ痕跡が残っている。
「そんな・・・俺のティンクルレインが・・・効いていない・・・」
ギルは傷だらけになりながらも力を込めて放った魔法が通用していないことに畏怖していた。ギルの得意技だったのだろう。落下する体を、光の圧力を反動にし、着地した。
「感じた以上の強さだ、な・・・」
セオドアも驚嘆を隠せきれていないのがわかる。
「くそっ・・・。あれが通用しないとは・・・それにあの風の魔法の威力も・・・。あのレベルのヒューマなんてこの世界でもそう多くはいないぞ・・・」
ギルの焦りがひしひしと伝わってくる。だが、ギルはまだ負けてはいないし、諦める気もないようだ。
「次は接近戦でやってやる」
ギルの得意分野なのだろう。受けてたとう。だが、攻撃の届く範囲まで近づけるかな。
俺は再び風を纏った。次は防御のための、いわば風の結界といったところか。この結界内にも、かまいたちを巡らせているからね。近づけば跳ね飛ばされるし、入り込んだとしても切り刻まれる。
「さあ、どう対処する?」
口元を引き上げ、ギルは笑った。
ん?なんだ?そう思った瞬間。
果敢にも結界に飛び込んできた。切り裂かれるのもお構いなしか。だが、強風に阻まれて俺に近づくこともできない。この距離でさっきの光の魔法を使われても、回避する手立てもある。
さっきの魔法以外であっても同様だ。俺には当てれない。
風に吹き飛ばされるのを耐え、かまいたちの切り刻みにも耐え・・・。仕方ない、これ以上戦うと本当に死んでしまうだろう。
それならばいっそのこと・・・。
俺はさらに風の渦を大きくした。
ギルは数分耐えていたが、ついに力尽き吹き飛ばされた。気を失いながらも俺に向かってきていたのだろう。ギルの身体は、どこも動いてもいない。
やば、飛ばしすぎた。
俺は、気絶し飛ばされていくギルの周囲に進行方向とは逆に強風を発生させ、落下のダメージを軽くしようとしてみた。
☆設定及び用語☆
・マカイロドゥス族
・サーベルタイガーみたいな。長い牙、青紫の淡く輝く体毛が特徴。
・セオドア・・・族長。
・ギル・・・若い個体