1.初体験
「うーーーーん、10体くらいか、な」
俺は独り言を呟いていた。
この世界の野生生物は、馬や牛、鳥に属するものと、魔獣と呼ばれるある程度の知能を持った生物が存在している。
異世界へきて10日目経つがここまで近距離で魔獣と対峙したのは初めてだ。
魔獣の形態は野犬や狼に似ている四足動物。ただしサーベルタイガーのような外見と牙、青紫に淡く輝く体毛があり、高貴さを感じ取れる。何より、かなりの大型獣だ。
「ヒューマよ、ここは我々の領地ぞ。何をしにきた」
群れを率いているリーダーと思われる魔獣が語りかけてきた。
ヒューマ、俺のような種族のことらしいな。いきなり攻撃を仕掛けてくるわけでも無いし、知能が高いようだ。
人語を話せるなんて、舌や口腔内の構造はどうなっているのだろうか。見てみたい。しかし今はそんなことを考えている状況では無い上、意思疎通ができるのは都合がいい。
「君たちのテリトリーだったのか、申し訳ない。今は狩りに出ている相方と二人で、ここから東にあるヒューマの街まで行く途中なんだ」
とりあえず、ツレがいる事と、食事のために猟ををしていることは教えておこう。
「狩猟するにも君達の縄張りであるならまずいな、相方が戻り次第、ここから離れるし、獲物も置いて行くことにするから、それで許してはもらえないかな?」
「いいや、今宵はここで過ごして構わぬし、獲物もお前達で食してかまわぬ。ただし」
俺たちを食べるつもりかなー。この辺りで取れるものより美味しいのかなー。そんなことを考えていると、
「こやつの戦いの相手となってほしい」
リーダーの背後から幾分小型ではあるが、これまた雄々しい魔獣が出てきた。
「今宵はこやつの成人の儀の日でな。強い魔獣かヒューマを探しておった。そなたは他のヒューマとはかなり違う雰囲気があったので、な。戦えぬのであれば、そなたの相方を待たせてもらうとするが」
なるほどー、そういうことね。人生で初めての魔獣との遭遇、人間同士でやる喧嘩とは全く違うベクトルの戦闘。なのに不思議と不安や負けるなどとは全く思えない。そういうことであるなら・・・
「承知いたしました、私で良ろしければお相手いたします」
やば、口調が仕事モード(生前会社員)になってしまった。
「それで、戦いではあるけれども、儀式の一環であるなら勝負のルールなどはあるのですか?」
念のため聞いておく。
「いいや、こやつが倒れるまでやってもらいたい。死んだとしても、それは仕方がない。こやつにも、そなたを殺すつもりでかかってもらう」
うっわ、すげースパルタ・・・、このリーダーには俺の強さがそれとなくわかるんだろうなー。こちらも殺されるわけにはいかないし。
「わかりました。神術・・・、いや、ここでは魔法か。魔法は使ってもいいのですか?」
「かまわぬ。そこにある、神秘的な力を感じる剣も、な。名乗るのが遅くなったが、我はマカイロドゥス一族の長、セオドア。こ奴は孫のギルともうす。」
お見通しですか、やれやれ。
「私はクウマ。一応、魔法剣士、ということで。じゃあ、少し遠いけど、あの開けた岩場でやりましょうか」
さて、これが初めての実戦なのだがどこまでやれることやら。
☆設定及び用語☆
・エディアカラン
・現世(いわゆる、人間みたいな生命体がいる世界。宇宙のこと)に存在している星の一つ。
・自然豊かな世界。
・大気はほのかに甘い香りがする(地球大気組成との違い)
・ヒューマを含む数多くの種族が生存している。
・惑星周囲には、リングを持った青い星ウィスカ・ゲアラハ(Uisce Gealach、水の月)と、小さい薄紫の星グィー・ゲアラハ(Gaoth Gealach、風の月)が周回している。生命は存在していないガス状惑星。
・現在は戦争はほぼなく、平和が続いている
・能力は「魔法」と呼称される。
・言語コミュニケーションが取れる存在であるなら得意不得意の差はあるが、誰でも魔法を使用できる。