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9/12

《短編》ネトル

遅くなりましたが明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します!皆様にとって素敵な一年になりますように。


【もしかしたらお前、天才なのかもしれないな】





ーーん?


ふと、前方に見覚えのある姿が視界に入り首を傾げる。別に知り合いが居た場所がおかしい訳では無い。普通に職場である建物の少し広めのバルコニーだ。常ならば今日は天気も良いし休憩がてら日光浴でもしているのだろうと考える。の、だが。


ーーまたあいつは何をしてるんだ………


その知り合いというのがあの(・・)フューなのだ。


「またバジル関係じゃないだろうな……」


何故かバルコニーで自らの頭を抱えてはひょこひょこと横に動いたり、フンフンと振り回してみては飛び跳ねたりしている。はっきり言って、奇行でしかない。


「はぁ………」


どうせこれを放置した所でまた苦情が時間差で自分の所に来るだけだろうと諦め、大きくため息を吐く。


「……フュー、念の為に聞くが何をしてるんだ?」


するとこちらに気が付いたフューはパッと顔を輝かせてニコニコと話し出す。


「あっ!おはようネトル。調子どうだい?」


「おはよう。調子は……お前に掛かってるよ」


「ん?」


しかし別に気にならなかったのか少し首を傾げた後にまあいいかと言いながら笑顔のまままた頭を抑えて飛び跳ね出す。よくない、全然良くないんだよ。


「フュー、その奇行の理由を聞いてもいいか?」


すると相変わらず何が楽しいのかにこにことしたフューは得意げな顔をして見せる。


「半獣化した時にね」


「うん」


「みんなみたいに」


「うん」


「ケモミミが欲しい」


「………は?」


「ケモミミが欲しい」


「………は?」


「だから、ケモミミが………」


「いやそれは聞こえてたけど……は?」


「ん?」


どうにもお互い相手に伝えたい事が伝わらず、そのまま鏡写しの様に2人で首を傾げる。そして混沌とした空気から何とか先に立ち直ったのはネトルの方だった。


「お前………自分が何の獣人だったか覚えてるか?」


「勿論!鮮やかな青色がチャームポイントのアオアシカツオドリだよ!」


「……何類だっけ?」


「鳥類!」


胸を張るフューを見ていると頭痛がしてくる。


「………なぁ、俺か?俺がおかしいのか?」


するとフューはキョトンとした顔をした後にすぐに笑顔で首を振る。


「ネトルは凄い奴だよ!」


「いやうん。ありがとう。いやそうじゃない、そうじゃないんだよなぁ………」


「ん?」


「鳥類………ってさ」


「うん」


「耳………あったっけ」


「あるよ!」


「ああうん、ある。あるよな。でもそれって俺やバジルみたいな耳の形状じゃないよな?」


どうにも治らない頭痛を額に手をやる事で紛らわす


「そうなんだよね。みんなみたいに耳が外に出てるんじゃなくて、僕のはただ穴が開いてるだけ」


そう言ってケラケラと笑うフューを見て思わずため息が漏れる。


「………で、もう一回聞くがお前は何がしたいんだ?」


「半獣化した時にケモミミが欲しい!」


「いやお前完全に獣化した所でその『ケモミミ』っての持ってないだろ!」


思わずそう指摘すると、指摘された当の本人は「そうなんだよねぇ」とケラケラ笑っている。


「えぇ………」


困惑の余り眉間に深く皺を寄せるも目の前の男は全く気にしない。


「だからさー。僕考えたんだよ」


ああ、聞きたく無いな。何だか自分の精神衛生上聞きたく無いなと思いつつも口を開く。


「一応………聞くけど何を?」


沈むこちらの声には興味が無いのか、気付いてもいないのか。フューはよくぞ聞いてくれたとでも言いたげに声を弾ませる。


「無い物は作ればいいんだよ!」


「なんて?」


しかしネトルの声は聞き入れられる事も無くフューの耳を右から左へと通り抜けて行ってしまった様だ。


「そして、出来た物がこちらです!」


そして叫ぶかの様に口を開いたフューは突然自分の側頭部上部を再び両手で押さえ、その素早い動きにネトルの肩が思わずビクリと跳ねた。ついでにちょっと尻尾も出た。奇行だ。本当に奇行が過ぎる。どうしてこんなのなのに仕事は出来るのか。反動か?素晴らしい仕事ぶりの反動なのか?そう恨みがましく目を細めてフューを睨んでみたが奴は意に返さない。


ーーていうか、こいつは昔からこう(・・)だったな………


まだ始業前なのになんだか既に疲れた。肩を落としつつフューを見ると未だに頭を抑えた状態で「見て!見て!」と言いたげにキラキラとした笑顔でこちらを見ている。本当に意味が分からないなと思いつつもネトルが首を傾げるとフューはパッと手離す。


「ん?!」


驚くネトルに自慢げなフュー。


「え、な……フューお前これ………」


その視線の先にあったのは耳………にも見えなくも無い十数枚の小さい羽の集まり。


「これは………」


呟くネトルに元気なフューの声が応える。


「耳!」


「耳………耳?」


「耳!」


耳耳言いすぎて耳の意味が分からなくなってきたが何とか声を押し出す。


「………音は聞こえるのか?」


するとフューはにっこりといい笑顔で言い放つ。


「全然!」


「耳じゃないじゃないか………」


再び頭抱えるネトルを気にもせずフューは話続ける。


「昨日森に羽を伸ばしに行った時、ミミズクの友人に会ったんだ!それで、その時閃いた」


「…………これだ!って?」


もう本当に付いていけないとヤケクソ気味に聞くがどうやらネトルの返答が嬉しい物だったのか上機嫌なフューは楽しそうに頷く。


「そうそう!これだ、って!前から思ってたんだよね。僕たち幼馴染の中でケモミミ持ってないの、僕だけでしょ?だからいいなぁって」


しかしケモミミとやらを欲しがった理由を聞いたネトルは一瞬どういう事かと考えたがその意味を理解してジワジワと恥ずかしくなって来る。やめろ、何だか無性に恥ずかしいからそんな嬉しそうにこちらの頭部を見るな。


「次はこの耳を自由に動かせる様になりたいな!」


フューのこの言葉にネトルはもう一度ため息を吐く。何だ。本当に何なんだ。幼馴染(俺達)の事大好きか。本当に、全く、こいつは下らない事に時間も労力も掛ける。その恥ずかしいオープンな愛情表現はバジル(好きな女)にだけ見せておけ。そう思うのに何だか背中がむずむずする感覚と緩む口元を誤魔化すかの様にネトルは口を開く。


「前々から思ってはいたけど………」









『もしかしたらお前、天才なのかもしれないな』





書きかけている番外編があるのですがそちらが中々進まず、とりあえずプロットだけ作っていた短編をちょこちょことあげていこうかと思います。短編集なのに思ったより長くなった……相変わらずネトルとフューはよく喋る………

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