毎回それくらいの気持ちって事ですよ!
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。とても嬉しいです。
誤字脱字報告も大変助かっております………!
俺はフュー。正式にはフィーバーフュー・アリントン。伯爵家の長男で、アオアシカツオドリっていう鳥の獣人です。知ってますかね!アオアシカツオドリ、めちゃくちゃ可愛いんですよ!まあ、自分の好きな人の方が可愛いんですけどね!
「弱そう」
初めて彼女にかけられた言葉はこの一言。まあ、鳥の獣人って一部を除けば殆どが大人しいですからね。間違ってないんです。ただ、面と向かってここまでハッキリ言われたのは初めてだったので思わず笑顔で「はい!激弱っす!」って言えばまるでゴミを見るような目で見下されて凄く嬉しかったんです。あ、待って、誤解しないで下さいね。自分、そっち系の危ない嗜好の人じゃないですよ。彼女にだけですからね!まあ、何が言いたいかっていうと自分は彼女に一目惚れしたって事ですね!
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「さあ、待ちに待ったこの日。緊張するけど頑張りますよ!」
僕はパリッと糊のきいたスーツに彼女の瞳と同じ黄色のバラで作った大きな花束を抱え呟く。
「おいフュー、お前本当にやるのか?」
そしてこちらを見てうんざりとした表情のネトル。彼とは幼馴染だ。
「うん、やるよ!準備はばっちり。後は上手く行くのを祈ってて!」
「はぁぁ……」
片手で額を抑えため息を吐くネトルをよそに鏡の前で最終チェックをする。
「それで、バジルは?」
「数分なら時間を取ってくれるそうだ。お前………まあいいや、がんばれよ…………」
「ありがとう!!」
今日自分、一世一代の告白をするんす!
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呼び出しに応じてくれたバジルは同じ建物内のテラスに居た。もっと別の場所をとも思ったんだけど、エキナセア様と離れたくないからこの距離しか移動したく無いと言われ「それならまあしょうがないか」と思ってここにした。
「バジル!」
少し離れた場所から彼女に向かって駆け寄ると一瞬こちらを見た後ため息を吐かれた。彼女は今日も綺麗で可愛い。
「来てくれてありがとうバジル。今日も綺麗だね」
するとそれには答えずに彼女は短く「それで」と先を促す。
「早速なんだけどバジル、好きだ!」
「帰れ」
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今日もだめだった。やっぱり彼女に受け入れて貰うのは難しい。いっその事、彼女の好きな岩兎みたいに染めてしまえば………そう思いながら自分のペンキみたいな青い髪をそっと摘む。
「うぅーん……でも前少しやったらかぶれたからなぁ」
あれは痒かった。
「あ、皮膚がかぶれるなら獣化した状態で羽の表面を茶色にすればいけるかな?そうれば皮膚に薬液が着かない!目の灰色は………後で考えるとして。」
これはいい案かもしれないと思っていれば後ろから声が掛かる。
「やめとけ。それ最悪そのまま踊り食いだぞ」
「ネトル」
踊り食いか。それはちょっと、いや大分痛そうだ。そう答えればネトルにまたため息を吐かれた。まあ彼女の血の執着が髪や羽の染色程度でどうにかなるものではないのは分かっているのであくまで冗談だ。
「エキナセア様かー…………」
初めてお嬢様を見た時ははっきりと覚えている。国王からの内密な依頼でモロノートン国へと赴いた先で彼女とは出会った。人間側の協力者か、目当ての事業主を手分けして探していたがディルの帰りが遅かったので途中で合流した他の仲間と共に迎えに行ったのだ。しかし発見した彼は何故かこんな街中で獣化しており、その上人間と向かい合っている。ナスタチウムならば大丈夫だとは思うが何かあればすぐにでも飛び出せる様にと皆で物陰から様子を窺っていればなんとナスタチウムが抱きつかれているのに抵抗しない。珍しい事もある物なんだなと眺めていれば不意に隣からパシンパシンと軽い音が聞こえた。
「!」
見れば隣で隠れていたバジルの目が爛々と輝き頬は紅潮し、そして尻尾が出ていた。
ーー半獣化してる!バジル半獣化しちゃってるよ!!!
慌ててジェスチャーするも彼女にしては珍しく一点に気を取られてこちらが目に入っていない。こんな事は初めてだ。しかしそうこうしている間も彼女の長くて細い尻尾は無意識なのかパシン、パシンと地面を叩き続ける。これではあの人間に気付かれてしまうかもしれない。すぐ様そう判断して僕は獣化して彼女の尻尾と地面の間に潜り込んだ。
「ぶべっ!」
僕の柔らかい羽毛の身体に容赦なく叩きつけられる彼女の尻尾。相変わらずどこもかしこも力が強い!痛い!でもこれできっと地面の音対策はできただろう。まるでムチの様にしなり下される尻尾をただ無心で受け止めた。あ、違います。別に下心があった訳でもないんです。信じて。
漸く尻尾の動きが止まったので顔を上げるとバジルは必死に両手で頭を抑えていた。
ーーああ、そういえばさっきも抑えてたような………
そこで僕は気付く。
ーー(耳が)出ない様にしてるのか………!
可愛い!可愛いすぎるよバジル!いつもなんでも簡単にこなして、強くて美しくてカッコいいのに耳は隠そうと意識するのに尻尾が出てた事に気が付かないなんて!
僕は人間とナスタチウムの様子見は他の仲間に任せてバジルの観察に勤しんだ。
ーー可愛いなぁ、可愛いなぁ
後で気付いたバジルに真っ赤な顔で「何でもっと早くに言わない!」って怒られたけど。
✳︎✳︎✳︎
「ねえネトル」
「んー?」
書類を眺めているネトルに話しかける。
「ネトルも気付いてるよね。バジルの最近のほら……ディル様のさ」
「ああ、あれな」
半目になったネトルは顔を上げて肩を落とす。
「普通に考えたら噛み殺されても文句言えない様な事はしまくってるな……」
「うん」
流石に先日の視察後に起こったディル様とお嬢様の間の出来事を指差して笑うのは同じ男として全力で「やめてあげて!!」と叫びたくなる。
「ただなぁ……バジルの一族は特に獣の血が強いから、同じ獣人として完全にバジルが悪いって責める事も出来ないんだよな」
ネトルの言葉に大きく頷く。
「バジル達一族のあの執着は本来『獲物』に対する物だからね。バジルがたまたま愛でる対象としても見てしまうからバジルが酷く感じてしまうけれど、バジルからしてみれば『獲物を横取りされた』と感じるのかもしれない」
それにもし、エキナセア様が異性だったならバジルは間違いなく自分の伴侶として捕獲しにかかっただろう。同性で、しかもディル様の婚約者にもなって。どんどん自分から離れていくエキナセア様をどうにかして引き留めたい気持ちと、エキナセア様の幸せを祝ってあげたい人としての理性が鬩ぎ合ってどうしていいか分からない状態が今なのだろうなとは思う。
「バジルからしてみれば漸く見つかった『愛でても逃げない相手』だもんね」
「そうだな」
ふぅ、と2人同時にため息を吐く。獣人全てがその獣の習性に引き摺られる訳では無いが、儘ならないものである。
「あ、それより」
このままでは暗くなってしまうだけなので話題を変えようと少し明るい声を出す。
「今日も駄目だった!」
するとネトルは余計に疲れた顔をする。なんで?
「今日はね、好きだって言ったら被せ気味に『帰れ』って言われたよ。」
「お前………」
「ん?」
しかしネトルは天井を見上げて「あーーー」と言った後に首を振りながら「何でもない」と言った。
「とりあえず今日呑みに行くか」
「いいね!行こう行こう!あ、バジルに声掛けてもいい?」
「俺はお前を尊敬するよ…………」
✳︎✳︎✳︎
次の日、仕事の件でエキナセア様の小説についての打ち合わせがあったのでエキナセア様が仕事をしている部屋を訪れた。
「失礼します、フィーバーフューです」
「入って」
部屋に入ってさり気なく周りを見渡すがバジルはいない様で少し残念だ。そしてそんな僕を見ながらエキナセア様は少し笑う。
「今日バジルは"murasaki"の件で出ているのよ。何でも近隣諸国の首脳会談が近々……とは言っても2.3年後なんだけど、それくらいにあるらしくて。それで色んな国の方々から注文が入ってね。相手が相手だからバジルが担当してくれているの」
「成る程。そうだったんですね」
「今日はこの間下書きを渡した物についての打ち合わせよね?」
「はい、そうです」
手元にある書類をエキナセア様に差し出し、彼女がそれをチェックしている間に2人分の紅茶を淹れる。モロノートン国の集会所での様にお茶は手の空いている者が淹れるので特に侍女等は置いていない。
「ありがとう」
カップを置くと書類から顔を上げたエキナセア様にお礼を言われる。その顔をジッと見つめていると不思議そうにこてんと首を傾げる。
「やっぱり似てますね」
「何に?」
「岩兎です!」
「うさぎ………」
私そんなに丸々としているかしら、と自身を見下ろすお嬢様は何だか毛繕いをする岩兎に似ている。
ーー成る程。この動きを取り入れれば……!
「……………何をしてるんですか」
扉が開き、ディル様が入ってきた。
「あらディル。今日はこっちに来られるの?」
パッと顔を上げたお嬢様は嬉しそうで、その笑顔を真正面から受けたディル様が心に多大なるダメージを負ったのが目に見えた。
ーー恋って人を変えるんだなぁ
その後、渡されていた小説に関して多少の打ち合わせを終わらせて部屋を出た。次の打ち合わせは表紙見本が出来た頃だろうか。
ーーポンコツ達にイメージカラーがあるから表紙はそれとなく其々のカラーを取り入れよう
そう思って扉を閉める瞬間、笑い合う2人が見えた。
ーー幸せそうで、良かった。
自分の大切な人達が幸せなのは、いい事である。
✳︎✳︎✳︎
今日は仕事がお休みなので出掛けることにした。街で買い出しするのもいいが久しぶりに獣化して大空を飛びたい。なので今日の目的地は近くの草原だ。
「近くに大型の獣人は………うん、いない。大丈夫」
こういう開放感のある所は運が悪ければ気晴らしに爆走する馬や牛の獣人に吹っ飛ばされそうになる。
「よっ」
獣化してパタパタと広げた羽の艶や向き、流れを確認後大事な足もチェックする。うん、今日もいい青色だ。初めてバジルにこの足を見せた時を思い出す。
「見てバジル!」
僕は自分の足の青さには割と自信があった。これを見ればバジルも少しはときめいてくれるのではと思い幼馴染で集まった時に嬉々として彼女に見せた。すると彼女の口から出た言葉は
「鬱血?」
だった。鬱血。まさかの鬱血。違うよ、これ血が止まって青くなった訳じゃないんだよ!と必死に説明するもよく分からなさそうな表情をしていた。この足の色保つのにちゃんとサプリメント飲んだりして気を使ってるのに。もう、好き。
ふわりと飛び立ち、いい感じの風が吹いていたので身を任せる。確かバジルは僕と友達になるまでは身近に鳥の獣人が居なかったと言っていた。だから、当然アオアシカツオドリの獣人も、その獣化した姿も、その習性も知らなかった訳で。思えば僕達幼馴染の中で鳥の獣人は僕だけだ。他は皆四足歩行の獣人というか、全員肉食の獣人。うん。やっぱり、知らなかったのはしょうがない。
「あ」
その時、空を飛ぶ僕の下を馬の獣人が獣化した状態で気持ち良さそうに走っている。そしてその背には彼の恋人なのか、伴侶なのかは知らないが大切そうに女性を乗せている。
ーーいいなぁ
僕も出来ることならバジルを背に乗せて飛んでみたい。もしくは僕の脚に籠を引っ掛けてバジルを入れて飛びたい。けど、残念な事にそれは叶わない。
「僕……というか肉食じゃない鳥の獣人って基本的に小さいしなー」
逆ならばいけるのだろうが何となくそれは駄目な気がする。
ーーみんな大きくて、いいなぁ
本物の鳥の大きさよりは断然大きいが幼馴染の皆の様に人が乗れそうな程の大きさは無い。やっぱり羨ましい。
ーーせめて何か無いかな
その時、地上で何かキラリと光る物があった。ほぼ無意識の内に光った物へと吸い寄せられる様に近付いたフューが見つけた物は白っぽくて歪な球体の石だった。
「わー綺麗だなぁ」
フューが人型へと戻ると手の平の上に乗せてその石をよく見てみた。そのまま太陽に透かして見てみれば石の中にはいくつもの細い線が入り、それがまた自然が作り出した芸術品の様でフューはにっこりと口角を上げる。フューはこれを持ち帰る事にした。早速家に帰って物置代わりの邸から石を研磨できる古い機器を引っ張り出し、何となくでだが感覚で石を磨いてみた。すると時間はかかったもののフューが拾ってきた石は拾ってきたとは思えない程美しく生まれ変わった。磨いている内に石の中心部と周りとでは透明度や色が違ったので「ああ、母石かな」と気付き削り出した。掌大だった石はフューの親指第一関節くらいの大きさになった。
ーーこの大きさならブローチかな?
結局昼前に作業を始めたのに完成したのは夜更だった。しかし、とても満足のいく物ができた。
「これなら鬱血なんて言われないよね」
鼻歌を歌いながら完成したてのシンプルなブローチを飾り箱に仕舞い、やっぱり自分は鳥の獣人なんだなと笑う。
「この間も断られてしまったけど、また明日もあるし。めげない限り可能性はゼロじゃ無いはず!」
少し透明感のある白い石の中に走るキラキラとした幾つもの青色筋。このブローチを着けたバジルを想像しながら僕は呟く。
「バジル、鳥の獣人は弱いけれどその分器用な手先で作り出した贈り物で相手の愛を乞うんだよ」
さて、明日こそ彼女は首を縦に振ってくれるだろうか。
フューはとっても一途です。
次回はバジルのお話です。
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