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やっぱり阿呆なんですのね

さらっと読める長さの短編始めました。

よろしくお願いします。



「エキナセア・バートム!私、クラリセージ・モロノートンは今この場をもって貴様との婚約を破棄する!」



学園生活最後の卒業パーティー(おめでたい宴)の中、この国の第二王子(おめでたい頭の男)が何か叫んでいる。



ーー聞こえなかったふりしたいなあ




うんざりとした気持ちを扇の下でひっそりと噛み殺す。そして名指しされた私が一言も発していないのをどう受け取ったのか悦に入った表情の男は劇団員顔負けな大振りな身振り手振りを加えながら言葉を続ける。



「そして同時に私はここに居る美しい女性、ベルガモット・バートムとの婚約を発表する!!」



第二王子のクラリセージにぐっと肩を引き寄せられ恥ずかし気に頬を染めるのは私の異母妹。今日も今日とて庇護欲を唆るその小さな身体をふるふると揺らし、ふわふわとウェーブの掛かった美しい金髪は崩れそうで崩れない絶妙な力加減で編み上げられている。

青空を写し取ったかの様な蒼くて大きな瞳は泣きたいのだろうかと思う程潤み、自らの肩を抱き寄せる王子のことを上目遣いで見上げる。




いやまあ、うん。好きにすれば良いんじゃ無いですかね。ただまあどうせ破棄するならもっと早くにしてくれれば私は自分の仕事(・・)にもっと時間を割けたのになとは思う。私もう18なんですけど。あと茶髪に灰色の瞳(地味な色合)で悪かったわね。




ーーでも解放してくださると言うのなら有り難く解放して頂こうかしら



「しかしその前に!」



おっとまだ続くらしい。



「エキナセア、大罪人である貴様を国外追放とする!貴様の悪行の数々をきっちりと白日の元に晒すのだ!でないと私の可愛いベルガモットが安心してこの国で過ごせないからな!」


「クラリセージ様………私の為に………っ!」


「ああ、そうだ愛しいベルガモット。其方の為ならば私はどんなに非道な判断でも下してみせよう」



うっとりと見つめ合って2人の世界を楽しんでいる所申し訳ないがそれは権力乱用ではないだろうか。相変わらずの阿呆である。そんな事は思っても堂々と口にするな。あと婚約破棄するなら何回もファーストネーム呼ばないで欲しい。



「ふふふ、もしやこれから行われる断罪が恐ろしくて震えているのか?しかし憐みを誘おうとしても無駄だ!きっちりと自分の犯した罪を自覚する為衆目の目に晒されながら羞恥に苦しむが良い!読み上げろ!」


ブレてんのは第二王子(お前)の頭だよと教えて差し上げたい。それにしても私の罪。今度は一体どれ程下らない茶番を見せらせるのだろうか。いずれにしてもさっさと解放してくれないだろうか。こんな頭の緩い茶番を観るくらいならば学園の庭の草毟りをしていた方がよっぽど生産性がある。


そして私がうんざりしている間に2人の元へ歩み寄る人物が4名。



「それではこれよりエキナセア・バートムの罪状を読み上げる!」



その内容は私がベルガモットの美しさを妬んで彼女の髪を鋏で無理矢理切ろうとした、服を盗んだ、靴を隠した、側室の子だと不当に蔑んだ、婚約者であるクラリセージの心を射止めたベルガモットに嫉妬し彼女の陰口を言い触らした、ノートを破り棄てた、果ては学園の階段から突き落とした……等々。

分厚い割に内容の薄い書類を裁判長かの様に読み上げている緑髪の男性は第二王子の取り巻きの1人、フェンネル・マビクロウ。宰相の息子だ。

そしてその罪状やらの読み上げに合の手を入れるかの様に私へ向かって「ベルガモットに謝れ!」「謝罪しろ」「赦される事では無い!」などと叫んでいるのは

タイム・バジバルーン(騎士団長息子・赤髪)

ヤロウ・バートム(財務大臣息子・茶髪・考えたくはないが同母の弟だ)

マジョラム・ザーナット(大商人息子・青髪・国への援助と賄賂で子爵位まで昇り詰めたとの噂)

の3人だ。主人が主人であるだけにこちらもこちらで阿呆である。



ーー茶番が長い……



もしこれが全て真実なのならば私は確かに婚約破棄をされても仕方ない愚かな女なのだろう。しかしどれもこれも身に覚えがない。つまり、冤罪。

人一人を断罪だなんだと吊るし上げる前にきちんと事実確認はしたのだろうかとげんなりするが恐らく彼等にしてみれば冤罪でもなんでも私を吊し上げられればそれでいいのだろうと気付き更にげんなりする。



ーー金が2つに緑・赤・茶・青……



まだ喚いている4人にもいい加減飽きてきたので騒音は無視し、少しでもネタになる物が無いかと頭を観察仕様へと切り替える。



ーー金が被ってるけどここはもう纏めて1つにしてしまえばいいわね。茶色……茶色を黒とかに替えてさっき無くした金をピンクにして1つのグループにしてしまうのは?



其々のイメージカラーを元にだいたいの性格も考え幾つかの冒険譚や勧善懲悪物でも面白いかも知れない。



ーーふむ、これは案外いい発想かもしれないし、忘れない様直ぐにでもメモしたいわね



と、なるとここ(・・)はもういいか。

そうなれば直ぐにでも行動あるのみだ。



「分かりました」



「ーー更に!悪女エキナセア・バートムは……ん?」



気持ちよさそうに朗読している所悪いが火急の用事が出来た。阿呆共に付き合っている時間は無いのだ。ひいてはこの思い付いた幾つかの計画を実現する為にフェンネルの言葉を遮り私は王子に重要な確認を済ませる事にした。



「長々とお話しして頂いた所申し訳ありませんがわたくしには全く身に覚えが有りませんので謝罪は致しません。が、婚約破棄と国外追放に関しては承諾致します。つきましては殿下にお聞きしたいのですが今回の件、陛下はご存知なのでしょうか」



謝罪はしないと言う私の言葉に目を剥いていた王子だが、陛下への確認は済んでいるのかと聞いた瞬間私を見下すかの様にニンマリと口元を歪める。大方婚約破棄も国外追放も国王が認めるのならば了承してもいいが国王はそんな事認めないはずだと私が信じているとでも思っているのだろう。

未だに肩を抱かれたままのベルガモット()も勝ち誇った表情をしている。




「ああ、勿論国王陛下もバートム卿も認めている」



ほほう。国王も父親にも話が通っている、と。相変わらず妙な所で実行力を発揮するお方だ。少し感心すら覚える。しかしその2人も納得しているのなら もうここで私がしなければならないことは無い。



ーーよし、帰ろう。



後ろで王子劇団が何やら喚いていた様な気がしたが私はさっさと先程浮かんだアイディアをノートに書き留めたい。



ーー撤収!!


























後日、私の罪について沙汰を言い渡すと言って王城に呼び出された。婚約破棄と国外追放という沙汰が出ているのにわざわざ王城へ向かうなんて本当に面倒くさい。







「以上の事から、エキナセア・バートムには第二王子であるクラリセージ・モロノートンとの婚約を破棄、国外追放を命ずる。今後如何なる理由が在ろうとも再びこの地に立ち入る事は許さん」


「かしこまりました」


私は国王の言葉に深く(こうべ)を垂れる。婚約破棄も国外追放も全然構わないので文句も何も無い。そろそろ退出出来るのだろうかと思い国王の次の言葉を待つ。



「よって、其方の持つ紡績工場を国として引き取る事とする」



…………ああ、やっぱりそういう事



確かに私は幾つかの事業を手掛けており、その内のひとつである紡績工場は他の事業のカモフラージュとして国にも申請している。

ゆっくりと顔を上げると国王の他、国の主要人物達たる者達が醜悪な表情でニヤニヤとこちらを見ている。顔を上げる許可を取っても無いがこの様子なら構わないだろう。




「国を追われるせいで事業の運営もままならん愚かな経営者に代わり、あの工場は其方の追放後国の事業として活用してやるから安心するが良い」



「国王陛下の言う通りだ。お前の大事な従業員とやらはお前の()父親である私自ら事業を運営し国の為に使ってやろう」





成る程。大体だが今回の騒動について裏でどう言うやり取りが行われたのかが見えてきた。まず、大前提としてこの国の国庫はここ何代も頗る余裕が無い。それなのに王家の人間は誰1人として贅沢な暮らしを改めようとはせず金が無くなれば国民から更に巻き上げるか、今回の私の様にカモ(・・)から無理矢理奪えば良いと思っている。


次に私の元父、サイプレス・バートムには多くの側室とその子供がいる。正妻であるローズマリーの子供は私と先日私を断罪していた1人であるヤロウ・バートムだけだがその正妻との仲が驚く程悪い。政略結婚の貴族同士での不仲は特段珍しい事でもないが我が家の場合母と結婚する前から恋仲の1人であったベルガモットの母であるアンジェリカが側室として同じ敷地内に居るし、母の若い燕も大量に屋敷に住んでいる。両親共に言い方は悪いがどちらも色狂いなのでうちの敷地内は大層賑やかであった。勿論、平和な意味ではなく殺傷沙汰が日常茶飯事という意味でだ。

話が逸れたがサイプレスは我が家と王家の婚姻話が出た時、本当は私ではなくベルガモットを推したかったのだろう。しかし正妻である母の実家の家格が侯爵である我が家よりも高い公爵だったので押し切られたと言った所か。実際ベルガモット(あの子)は勉学でも、マナーでもなんでも面倒がってサボっていたので人前に出せるものでは無かった。なので彼も折れるしか無かったのも間違いない。しかし数年後茶会で第二王子を一目見て気に入ってしまったベルガモットが第二王子の正妻の座が欲しいと言い出した。勿論サイプレスは許可したかったに違いない。だがその頃には私の興した事業が軌道に乗り国に多大な金額を入れていた。もしベルガモットが王子妃になり私が他の貴族に嫁げば紡績工場は相手の家に取られるかもしれない。そう思うと中々首を縦に振る事が出来なかったのだろう。


しかしそんな物は知ったこっちゃないベルガモットはさっさと王子を籠絡しに行き、王子もそれにコロッと陥落した。で、誰から言い出したのかは知らないが私から工場を取り上げ、婚約破棄して、国外にでも放り出せば全て解決出来るのでは?とでもなったのだろう。全く。事業がこの国の中でしか行えないはずが無いだろう。



ーーまあ、今更紡績工場(あそこ)を取り上げられても全く問題無いんですけどね



かなり時期は早まってしまったが工場を狙われていたのは薄々予想してたので元居た私の大切な部下や従業員達は皆移動させている。それこそ望むのならばここでは無い国々にも。




ーー下請けも不審がられない程度の余裕を持って撤退しているし……問題はないわ




国やバートム家から送り込まれたスパイだらけなのは分かっていたので素晴らしい適性があるとか何とか言って適当なポストに就かせ、実際に重要な現場には入れない様にしてあるとの報告も受けている。



「かしこまりました。紡績工場の事はお願い致します。では国外へ出る準備の為御前失礼致します」


帰って旅の為の準備をしなければ。大切な物は何一つあの屋敷に置いてはいないが流石に着替えや食料は用意したい。あと明らかに旅には不向きなこの重たいドレスを脱ぎたい。




「ならん」



「?」




しかし退出しようとしたその時、ずっと黙ってニヤニヤしてるだけだった第二王子が口を開く。




「お前の非道な行いのせいで繊細なベルガモットは深く傷付き悲しんでいるのだ!その報いを受けよ!!よって屋敷へよる事は許さん。現在の着の身着のままこの国を出て行くが良い」



「………は?」



チラリと他の大人達を見てみるが皆一様にニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべているだけだった。




ーー繊細、ねぇ




兵士により引き摺り出されるかの様にして謁見の間を出されそのまま城外に出される。先程浴びせられた私の犯した罪だと言う悪行の数々も、そのほぼ全てがベルガモットからむしろ私に行ってきた事なのだと言う事を知る者は一体どれ程いるのだろうか。




そして勿論家の馬車には乗せては貰えず水の1つも無いままに兵士から「さっさと国から出て行くんだな」と言い放たれる。



ーー殺す気かしら?でも相変わらず頭の軽い…さっさと死んで欲しいならせめて身に付けてる物を換金して路銀を手にしない様見張りながら国を出る所迄確認したり、こんな人目につく場所じゃ無くてもっと薄暗い場所に放り出してから暗殺者か足の付き難そうな破落戸を使って確実に息の根止めるとか……





まあ良いけど





今頃紡績工場の売り上げを誰がどれ程持っていくかで盛り上がっているであろう阿呆共に構ってやる義理ももう無い。この腐り切った国から解放されるのだ!



手をグッと握り締め、前を向く。新たな人生に向かってエキナセア・バートム改めただのエキナセアは清々しい気分でスカートを翻しながら歩き出した


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