つまらないあなたの話
人によっては不愉快な話かもしれません。
合わない方はバックでお願いいたします。
恋をすると人はキレイになるらしいけど、それは私には当てはまらない。
朝起きて着なれた制服を着てご飯を食べて家を出る。学校は好きでもないけど、嫌いでもない。勉強は嫌いじゃないし、授業も嫌いじゃない。時間がつぶせるから。
休み時間になると、元気よく声をかけられる。
「ミキ、ご飯たべよっ!」
リカだ。リカはかわいい。とても女の子っぽい。それはいい意味でも悪い意味でも。
「でね、修一がね、これ好きっていってたんだー」
そう言ってSNSの画面を見せてくる。
修一というのは、リカの好きな人だ。学年で一番というか学校でも一番くらいカッコいいという評判で、とてもモテるヤリチンだ。リカは修一の彼女になりたいらしい。
嬉しそうに話すリカの話はつまらない。つまらないと思いつつ適当に相槌を打てば満足したのか、話が変わる。
「てかさ、小林のやつ本当にムカつくー。」
リカは最近クラスメートの小林美夜にご立腹だ。
「修一、絶対なんか弱味とか握られてるんだよ。小林ってネクラっぽいし、なんかオドオドしててキモいし。」
リカはぐちぐちとずっと同じことを言っている。
正直リカの思い込みだし、僻みっぽいし、そういうところがリカが修一に好かれないところだと思う。絶対言わないけど。
小林美夜というのはクラスメートの女子だ。クラスカーストで私とリカをてっぺんとすれば、真ん中より下のあたりにいるような子だ。
とはいえこれは女子が考えているもので、男子から見ればまた違うと思う。
リカは認めたくないだろうけど、小林美夜みたいな子が男子には一番モテると思う。派手じゃなくて、少しぽっちゃり目で、ちょっとどんくさくて、押しに弱そうな感じ。そして何より胸が大きい。体育の時とか揺れてる。男子がよくちらちら見ては騒いでいる。
そんな小林美夜だけど、最近修一と一緒にいるところがよく目撃されている。まあ多分ヤってるんだと思う。
「ねえ、ミキ。ミキもそう思うでしょ?」
くるんとした上目遣いでリカは小首を傾げる。女子の私にまであざとさを発揮するほどリカは媚びるのが上手い。
「そうだね、」
あんまりそっけなくならないように言う。
リカは満足そうに頷いた。
「ねえ、ミキ。ごめんね。今日修一とデートできそうなのっ。約束また今度でいい?」
放課後、リカが申し訳無さそうに言うけど、ちっとも申し訳無さそうじゃない。むしろルンルンだ。
「…まあ、いいけど、」
仕方なく言う。本当は全然良くないけど仕方ない。
「ありがとっ、ミキ。ねえ、ミキ、どこか変なとこない?」
メイクを直したのだろう。瞳がキラキラとしている。甘い香水の匂いもする。
「ないよ。リカ、とってもかわいい。」
そう言うとリカは嬉しそうに笑った。
…修一は甘い香水の匂い嫌いだって言ってたけどね。
リカにドタキャンされて、仕方ないので一人で映画を見に行った。リカが好きそうな映画だけど、私はちっとも好きじゃない。顔がいいだけの女と男の恋愛なんか写真で十分だ。
映画が終わって街をぷらぷらと歩いていると、修一が小林美夜の手をひいて歩いているのを見かけた。リカとデートじゃなかったんだろうか。
リカに電話をかけた。
最初は明るくしゃべっていたけれど、そのうちすすり泣くような声が聞こえてきた。
「リカ?どこにいるの?今からいく。」
リカはまだ学校にいるようだった。
無我夢中で走った。あれから二時間以上経っているのに、ずっと一人でいたんだろうか。
リカは校門のところでポツンと座っていた。
「ミキ、わたし、もうやだ、、」
泣いているリカをぎゅっと抱き締めた。
リカをかわいそうに思う気持ちがあるのに、それでもどこか喜んでいる自分を自覚した。
自分が本当に嫌だ。汚ならしくて醜悪でおぞましい。
修一は一度リカのところへ来たらしいけど、急に「悪い、ちょっと用事」そういってどこかへ行ってしまったらしい。
おそらく小林美夜関係だろう。
「ね、ミキ、私ってそんなにかわいくない?なんで、修一は、」
小さくしゃくりあげながらリカが言う。
ごめんね、リカ。リカ、ごめん。修一が、リカに手を出さないのは私のせいなんだ。
「リカ。もし、私が男だったら、絶対にリカと付き合う。絶対にすきになってもらうようにがんばる。リカはかわいいよ。とっても。」
紛れもない私の本音、そして叶うことのない私の願望。心からの私の言葉に、リカは虚をつかれたような顔をして、それから笑った。
「ミキおおげさ。ふふ。」
修一はヤリチンだけど、面倒は嫌いで、面倒を避けるためにある程度頭を使う。
それはヤった女の友達とはやらない、というものだ。昔面倒に巻き込まれたらしい。
それを知った私は修一とヤった。絶対修一はリカのタイプだと思ったから。
次の日、修一が小林美夜は俺のもの発言をして、 学校中が大騒ぎになった。
リカは興味なさそうに、ふうんと言うだけだった。
クラスメートにからかわれ、恥ずかしそうなでもどこか嬉しそうな小林美夜を見ていると、リカに頬をぐいっと引っ張られた。
「ミキ。顔こわいよ。」
いたずらっこみたいな笑顔のリカ。一緒になって笑った。
どうせまたリカはつまらない話を始める。それに私は相槌を打つ。
いつかリカが醜い私を知るその時まで。
それまでどうか気付かないで。
読んでくださりありがとうございました。