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STAYHOMEと彼ら

作者: モキチ

初めての投稿です。駄文ですが読んでいただけますとうれしいです。


「明日から遂にリモートワークか…」

昨今の某ウィルスの影響を受けて、勤務先の会社でもリモートワークが開始されることとなった。世間ではまだまだリモートワークが進んでいない中で、この決断は早い方だと珍しく我が社を誉めたくなった。


普段、家にいない時間帯に家にいることで分かることがある。私は、都内のマンションの一室に一人暮らしをしている。もうかれこれ1年ぐらいだろうか。一人暮らしといっても平日の昼間は普段会社に行っているため、この家で過ごす時間というのはとても少なく、もはやただの寝床である。

例えば、昼間は意外とお隣さんは静かだということ。隣には大学生が一人暮らしをしている様で、週末の夜なんかは遅い時間まで友達と騒いでいることもあるのだが、平日は昼間はとても静かである。もちろん、大学に行っているから当然である。


私の部屋についても、新たな発見があった。

それは、平日昼間は意外と騒がしいということ。

リモートワーク初日、突然テレビのスイッチが入り、チャンネルがザッピングされた。

タイマーを間違えて設定していたのか、それとも故障か。そのぐらいに思っていた。

次に、箪笥の上のものがカタカタと揺れていたり、不自然にものが移動していたりと、明らかに何物かの関与がそこにはあるようだった。

そう、私の部屋には、居るのだ。

厳密にいうと、平日の昼間に、彼らは私の部屋に居るのだ。

私が帰宅する夜には彼らは外に出ていく。週末は、恐らく彼らにとって一番の働きどころなのだろう。ずっと外出しているのだ。


私が「彼ら」とそれを呼ぶのは、その存在をどのように捉えていいかが私にもわからないからだ。そもそも数という概念や、性別という概念があるのかも分からない。なので、ここでの「彼ら」というのは捉えようのないものに対しての表現である。


そんな物音が響く自分の部屋での仕事を続けていたが、私はふとこう言った。

「すまない、仕事に集中したいから、静かにしてくれないかな。」


私がそう呟くと、部屋は静かになった。話せば分かるだろうということは何となく分かっていた。彼らがいつからここに居るのかは分からないが…いや、ひょっとすると私が暮らす前から居るのかもしれない。そんな中で、彼らが私にその存在を悟られることに居続けていたことは、彼らがそういった配慮ができる存在であることの証明でしかない。また、不動産屋さんからも何かが出るという話も聞かされていないし、何の噂にもなっていない部屋である。そう、彼らはただここに居るだけの存在なのだ。今回は、私がこの時間帯に家に居るという普段とは違う、イレギュラーな行動を行ってしまった。だから、彼らにとっての日常に私が入り込んでしまったのだ。

「すまないね。しばらくは私もこの時間は家に居るから、静かにしてくれると助かるよ。」


とはいえ何も無いのは退屈だろうに、私は小さな音量でテレビをつけておいた。

時折テレビのチャンネルが切り替わるところを見ると、彼らもささやかな娯楽を享受しているようだった。


夜になると、テレビが突然消えた。

「行くのかい?」

ことことと玄関の方に向かって音がする。恐らく、彼らの仕事はこれから始まるのだろう。


昼間は彼らが居る部屋で仕事をして、夜になると彼らを送り出す。そんな生活をしばらく続けていた。

とは言っても、私の生活には全く何も影響も無いし、リモートワークにもそろそろ慣れてきたころだった。


その日は、平日昼間のことだった。

私は仕事の合間に、テレビのニュースを見ていた。

時の人である都知事が、インタビューで答えている。東京都内では、今まで以上に某ウィルスの対策に力を入れていくとのことで。不要不急の外出や、テレワークの推進を強く呼びかかけていきたいとのことだ。


夜を迎え、いつもの彼らを送り出す時間になった。

しかし、ごそごそと音がしていて彼らは、まだ部屋に居るようだった。


「どうしたんだい。今夜はお休みかい?」


私がそのように呼びかけると、急にテレビの画面が暗転した。

そして、部屋の明かりが真っ暗になった。

部屋の空気が明らかに変わった。その時、テレビの画面に、赤色の文字が表示された。














「テレワーク、ハジメマシタ」




















「…ここで次の話題です。政府からの営業自粛や外出自粛を受けて、現在多くの芸能人やアーティストの方がライブ配信を行うという試みを行っていますが、その映像の中に時折不思議なものが映り込むという現象が相次いでおります。コメンテータの沢渡さん、如何でしょうか。」


「はい、これは間違いなく昨今の国民の在宅化が影響していますね。」

「と、言いますと?」

「シンプルな話ですよ。在宅化が進むことで、今まで以上に多くの方がインターネットにアクセスするようになった。知っていますか?今はどこのプロバイダにも新規の回線契約が殺到しているそうですよ。つまり、インターネットにアクセスする人の数がものすごく増えたんですね。著名人の方々も、今まで以上にこういったインターネット上での配信を行う機会が増えました。しかし、ネットワークの回線自体が急速に進化したわけでもないので、たくさんのアクセスやこういった配信により、ネットワーク上で渋滞が起きてしまっているんですよ。国民皆さんが車で一斉に出かけているようなものですよ。それによって、回線は時折パンクしてしまい、映像の乱れが起きてしまう。その結果として、こういったものが映り込んでしまうんですよ。」

「なるほど。それは理に適っておりますね。松本さんはいかがでしょうか。」

「そうですねぇ…僕はね、彼らも人間が外に出えへんから在宅から仕事してるんとちゃうかなって思いますね。今はどこに行っても人がおらんでしょ?だから、こういったオンラインで仕事するようになったんと違うかなぁ。」



スタジオが笑いに包まれる。


仕事を再開しようと思い、私はテレビを消した。

テレビを消す直前に、画面下に表示されている「新時代の怪奇現象!?」というテロップが不自然に点滅しているのが見えた。




「さてと…私も頑張るか。」




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