さよなら現実
サクラ舞うなか、1人の少女が学園へ続く坂道を駆ける。
淡い栗色をした、肩にかかるくらいな長さの髪はボブヘアー、それはまるで風と戯れているかのように軽やかに揺れ動いている。
今日は私立桜煌女学院中等部の卒業式!
わたし、華之宮 美海里は中等部のクラスメートと一緒の時間を少しでも長くしたくて、校舎へと急いでいた。
走る風に乗って、路面に敷き詰められた桜たちが空へと舞い上がる。この桜たちのように、わたしたちもまたこの校舎から新しいステージへと進むのだ。
「おっはよーう!」
自分のクラスへつき、元気よくあいさつ。
美海里の日課だ。すぐにおはようのおかえしが返ってくるが、早く来すぎたのか登校してきている友達が、いつもより少ないのが寂しい。
「ちゅり、今日ははやいね♪」
「最後の日だからはやく来たんだけど早すぎたみたいー。」
「さみしがり屋だなぁーちゅりはー。あえなくなるわけじゃないんだぞー?」
席につくなり仲良しの駒澤 小悠里が話しかけに来てくれた。
ちなみに【ちゅり】とは、みんなで沖縄の修学旅行へ行った時に彼女がつけてくれたニックネームだ。
美ら海水族館からあやかっているらしい。かわいいからあたしも気に入ってる。
「ごきげんよう華之宮さん。」
「あ、須藤さんおはよー! みうりでいいっていつも言ってるのにー。」
「ちゅりも委員長のこと、須藤さんって言ってるー。」
「あたしはいいのー!」
「あははっ、さゆりさんと華之宮さんはホント仲いいよね!」
「初等部からずっと一緒だからね、ちゅりとは赤い糸にくくられてるのだー!」
「それを言うなら結ばれてるだよー。」
あたしのクラスの委員長をしてくれてる須藤黄子さん。
冷静沈着で、ちょっと怖いイメージのある子だけど、話すと全然普通で結構話しやすい人です。
3人でお話ししていると、空席で目立っていた座席がだんだん埋まってきました。ちなみに在校生のみなさんは体育館に直接登校して、最後の予行練習をするそうです。
キーンコーンカーンコーン。
「はーい、最期のホームルームはじめるよー! 委員長、お願いね。」
予定と同時に担任の岡 静先生が入ってきた。
「起立、礼! 着席!」
みんなで立って、礼、そして着席。
何気ないこんな動作ですらこの校舎でするのは最後かと思うと感慨深いものがある。
「みなさん、おはようございます。今日で最終日ですね…。今日はまず最初に、今年に入学してくる子達へのメッセージをひとりひとりに書いてもらいます。皆さんも新入生の頃にあったので覚えている子もいるかと思いますが、この紙は皆さんが卒業したあとに入ってくる新入生たちの机、右前のところに名前とともに一人一枚ずつ並べます。なので、これからの学園生活へのエールを込めて書いてください。」
喋りながら手のひらサイズの大きさの紙を前列の子に配布していく先生。
前の子が一枚とって、後ろへと順次回していく。
まっしろなその紙は、まるで入ってくる新入生のように美海里に感じられた。
(いまの卒業していく私たちに配られるとするなら、真っ黒な紙か、それとも高等学校へ進む希望を込めて真っ白な紙をもらえるのか…どっちかなぁー…。)
そんなどうでもいいようなことを考えていた。
『これからつらいこともあると思うけど、笑ってのりきっていこう!』
とりあえず思い付いたことばを書いてみた。
「ねぇ、ちゅりはなんて書い……あ、あれ? なんか揺れてない?」
「え? あっ、ホントだー!」
おそらくなんて書いたのか聞きに来たと思われる小悠里のことばに、美海里も異変に気づく。
グラグラ…ガシャン!
グラグラガタガタガタガタ!!
きゃっ! いたっ!
わたしをはじめ、あまりの強い揺れに座っていられない生徒は思わず床に座り込んでしまった。
「みんな! 机の下に隠れて揺れがおさまるまで耐えて!」
岡先生がみんなへと声を張り上げる。
幸か不幸か、小柄なわたしは机に頭をぶつけることなく潜り込めた。
揺れのなか、突然重りのなくなったイスはガタガタと音をたてて揺れ、中には倒れる物もあった。机の下に隠れたからさいわいケガこそしていないけれど、あまりのひどい揺れに机の中身が飛び出してくる。
数分揺れて、やっと収まったところで外へ出ようとする。
しかし、
「まだだめよっ! 地震には余震と本震があるの、今のが余震なら…。」
先生が言い終わらないうちにまた激しく揺れ始めた教室。
中途半端に出ようとしていたわたしは、揺れて倒れてきたイスにノックアウトされ、意識を手放してしまったのでした。
タイトルは仮です。
あとの物語内容によっては変える可能性もあるのでご容赦ください♪
誤字脱字等や、みなさんのこうなるかな? という予想があればぜひ感想まで…。
がんばって予想を裏切らせていただきますので♪