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統一戦争

 統一戦争とは、ひとつの時代を指し示す名であるが、元号ではない。

 魔大戦の後、白龍によって起きた地殻変動により、一枚岩であった大陸は【幻灯界】【具象界】のべつなく分かたれた。三つの大陸と氷の大地、八つの島。それぞれには、それぞれに暮らす者たちが名前をつけた。


 世界の中央より西に位置する大陸ラティオセルム。緑豊かで気候の変動もすくなく、巨木の森が山のようにあちこちで茂っている。澄んだ川や泉が湧きだし、豊かな自然の恵みに育まれ、数多くの種族が暮らした。

 森から吹く涼やかな風は心地よく、魔素や養分も含んで土地を肥沃にした。よって、森の外には人々が集落をかまえた。森の中は精霊や獣族たちの領域。暗黙の了解が、両者の均衡を保っていた。

 人族はひとつの大きな国を離れると、そうした小さな集落をきずき、方々で暮らすようになった。生活は城を持っていた頃より原始的で、狩猟や農耕で生計をたてる日々。商人などははやらず、集落の仲間たちは助け合って生きていた。

 おとなしくなった人族たちに、魔大戦のころに向けられた多種族の冷やかな視線も、向けられることはなくなった。

 日が昇る少し前から畑仕事に精をだし、日が暮れるとちいさな宴を開く。そうして平穏に一日を終える。それが人の暮らしだった。

 しかし、浅ましくも他人の持つものに目がくらみ、それを奪おうと考える輩が現れた。

 強暴なる国。

 ラティオセルム大陸の南端に位置する名もなき集落を、人々はそう呼んだ。


 強暴国の長は血気盛んな若者たちを中心に、次々と周辺の集落を襲い、簒奪し、吸収した。国の規模は見る間に広がっていき、恐怖と力による支配が、他の大陸にまで及び始めた。


 南端の国が勢力を強め、一方的な戦争によって数々の小国を我が物にし、勢力を拡大しつづけている。その噂が対岸、北端の弱小国に伝わってきた。小国の呼び名は「カラデュラ地方の集落」。名すら持たないその国には、屈強で誠実な長があった。

 集落の広場にやぐらが組まれ、松明から火が移されると、集会の合図となる。若連や長老たちが険しい顔でやってきて車座になると、長は重い口を開いた。

「強暴なる国の勢いは、もはやラティオセルム大陸の外にまで及んでいると聞いた。尋常ではないことだ」

「いずれ、この北の果てにやってくるのも時間の問題だ」

 若連の代表が片手を挙げて言うと、長は深くうなずいた。

「我々は強暴国に抗うだけの力を持たない。しかし、戦わねば守れない」

 長がふと遠い目をしたので、人々は振り返り、集落の家々を眺めた。藁ぶきのちっぽけな寝屋のなかで、妻子が、きょうだいが、父母が。それぞれの家族が肩を寄せ合っている。いろりには粥料理がくべられ、毛皮のブーツが木板の壁に立てかけてあって、手入れした農具や弓矢が長持ちに……

「平穏なこの暮らしを守る。我々は、我々の手で、我々の幸せと自由とを守る」

 長の言葉に「オウッ!」という威勢のいい声が返った。とくに若連などは死地におもむく真剣な眼差しでいる。長は一息つくと、燃え盛る炎に負けないよう声を張り上げた。

「我々は守るために戦う。よって、自らをも守らねばならない。我々に何かあっては、暮らしが成り立たなくなる。家族を路頭に迷わせることになる」

「しかし、長」

 今度は長老衆のひとりから手が挙がった。炎でゆらめく影のなか、不安に顔をくもらせている。

「この少人数で戦ったとして、一矢報いるのがやっとではなかろうか?」

 長は白いひげを撫で、心得顔でにやっと笑った。

「うん、この人数ではな……そこでだ」

 長は立ち上がり、両腕を大きく広げた。

「わしは、この周辺の小国に呼びかけ、ともに戦おうと思っている」

 そのどよめきは、集落の若連や長老衆にはとどまらず、実際にそう持ちかけられた隣国などにも起こった。

 たしかに、同じ人族、同じ敵を前にした状況ではあるが、集落どうしが連携しあうなど前代未聞であった。

「昔、人は強大な結束を持ちすぎて滅んだ。その教えを忘れたのか」

 かつて魔大戦があった折、人々は【国家】という依代をもち、そのため魔王軍に立ち向かおうなどという大義をとなえた。数が集まればどうなるか。強暴国もいい例で、争いを起こす気になると決まっている。

「もはや起きていること。迫りくる災いからは身を守らねばならん。良いか、我らは守るために戦うのであって、奪い殺すために戦うのではない!」

 長の呼びかけに、周辺の集落からもちらほらと人が集まりはじめていた。

 ある晴天の日のこと、集落の門にたち、おずおずと様子をうかがう人々の前に立ち、長は言った。

「強暴国に攻め入り、滅ぼすことが目的ではない。我らの土地を、民を守れればそれでよい。この誓いにたがわぬよう、わしは連盟各国が『不可侵条約』を締結するよう提案する!」

「『不可侵条約』だって」

 人々のざわめきはさらに大きく、広く、大陸を飛び越えて伝わっていった。日に日に小さな集落を訪れる人々は増し、中央のサルベジア大陸から、南東のセピヴィア大陸から、砂漠の国ギドロイから、海をも越えて有志が集まった。

 小国どうし、大陸どうし、それぞれが「不可侵条約」を結び、団結して強暴国の魔手に立ち向かった。

 長は元より高齢で、いまだに頑強ではあったものの、戦いのなかで地位を二人の息子たちにゆずった。集落はもはや小国と呼ぶに値するまでに成長し、兄弟はそろって王の称号を冠することとなった。

 初代「カラデュラ王」の誕生である。兄弟は常に平等で、もとより助け合い、互いを思いやっていた。統治も二人で協力し、知恵をかしあって行った。

 強暴国に立ち向かう連盟各国は、代表をだし合って「協議会」を開設した。協議会全体の議長は、カラデュラの兄弟王が推挙され、つとめることになった。後世のことだが、カラデュラの兄弟王の名は『基盤』にも記されている。

 兄弟の活躍も大きく、連盟各国の軍勢は、力をあわせて強暴国を討ち破った。これを機に、カラデュラ国はラティオセルム全体をとりまとめる首都、大国と位置づけられるようになった。兄弟王は自分たちの故郷に城をかまえたが、政府機関は航路の多さ、交通の利便性を考え、中央大陸サルベジアにおかれた。

 すなわち、統一戦争の終結を意味する。

 以降、ラティオセルム大陸カラデュラの王城は、連盟の名残から、世界各国を統べる「中心王都」と位置づけられることとなる。いかに国が強大になろうとも、兄弟王は盟約を守り、他国を侵攻することはなかった。圧倒的な人々からの支持は、その人徳がなすところも大きい。

 彼らは「賢王」「慈王」と呼ばれ、民衆からの人気はすさまじく、神格化されそうな勢いであったという。

 兄弟王は今後のことを考慮し、兄を本家、弟を分家とする体制をつくった。【本家に有事の際も、原則、分家が本家に代わることはありえない】という取り決めは、兄弟での統治を安定しておこなうためのもので、合意のうえであった。彼らは骨肉の争いを望まなかった。火種は、熱くなるまえに取り除いてしまいたかった。

「ご不満はないのでしょうか」

 分家ということは、つまり、弟には今後一切、王となる機会は訪れない。弟方に仕える臣下たちは、自分たちに不満はないものの、一度だけ主に尋ねてみたという。すると弟王はこう答えた。

「私は兄を支えることに誇りを持ち、兄もまた、私を誇りに思っている。王はひとりで充分だが、ひとりきりでは王には成れない」


 数年も経ち、兄弟王は意中の女性と恋におち、結ばれた。

 まず兄王が結婚したが、しばらく子どもは産まれなかった。弟王は結婚して一年後、王妃が玉のような男児を出産した。

 それからしばらくして、兄王のもとに美しい女児が産まれた。

 行われた祝賀パーティーの盛大さたるや、どちらがどちらにも引けをとらぬ素晴らしいものではあったが、王位継承権は兄王の子どもにある。この先、兄王の血を引く一族だけが王となりえる。

 自分の子が馬上にのせられる年になると、弟王はよく物思いに耽るようになった。兄王の招待も断りつづけ、兄弟が顔を合わせる機会は格段に減った。

 兄弟のあいだに落ちた暗い影は、徐々にその深刻さを増していき、世代を経るごとに大きな溝となっていった。

現代に至るまでに起きた大きな出来事は三つ。

①世界が創世された。

②魔大戦が起き、世界が上下にわかれた。大陸も分割され、現在の地理となった。

③統一戦争が起き、人間の国の形が作られた。戦争を繰り返さないための不可侵条約が締結した。

前提は以上です。


補足。

【魔王は討伐対象じゃない!】

 「魔王アルワーインドの体を12に分けてー…復活させてー…」というのは、

 「魔王=魔を総べる者=統治者」というポストを欠くと、世界のバランスが狂っちゃうからですね。

 世界の均衡を保つために、必要不可欠な存在なのです。

 アルワーインド個人の性格に問題があったので、強すぎる力を分散して、12人の新たな命に再生したのですね。

 あくまで「話し合い」が理想とされる世の中です。


【じゃあバランスを欠くとどうなるのか】

 以前、同じ世界観でゲーム作ろうとして挫折したんですけど←

 その時生まれた草案を、大学時代の同人誌に発表しました。

 ≪非存在≫というとても厄介なものが生まれます。

 「リーズベルト」の時間軸には、影も形も存在しませんが。。。

 このシリーズ上で≪非存在≫の誕生エピソードを書くことが目標です。

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