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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

深海遺伝子

作者: 土鳩


あぁ神様。

神様。神様。

どうして私たちを見捨てたの―――――――



それがいつから起こり始めた事象なのかは定かではない。

人間を含めたありとあらゆる生物が、自らの意志に関係無く好き勝手に進化をし始めたのだ。


ある者は手足を16本生やし、ある者の上半身はケーブルの束となり、ある者はドロドロに溶け跡形もなく地面に染み込んだ。

前に見た奴は、自分の体の膨張に耐え切れずに爆発したな。死んだのだろうか。


火星は太陽に呑まれ、木星はグルグルと回転し消滅した。

月は宇宙の彼方へ飛んでゆき、強風が吹き荒れ、灼熱の昼と極寒の夜は目まぐるしく変わり、四季の境も無くなった。


宇宙は、地球は、この世界はもうめちゃくちゃだ。

しかしそんな大きな事も些細に感じる程、人々は進化の恐怖に怯えていた。


一説によると、この宇宙を管理していた神様がオーバーフローを起こし、

全体に関わる設計図も仕様書も破り捨て失踪したのだという。

そして、そんな状態であるため、宇宙の保守管理をする引き継ぎの神が現れない。


…ほんの冗談だ。笑ってくれ。


俺はというと、今でいう背中に退化し動かなくなった元々の手足をぶら下げ、人間でいう背中から新しい無数の足を生やしている。

まるで触手のような足だ。虫とは違う。うねうねとした海洋生物みたいな感じだ。

目線はは空の方を向いているが、頭を上げるような形で前を見る事が出来る。

幸運な事に新しい足は前にも後ろにも動けるようで、ぶら下がった元の足が生えている方向へ進む事が出来る。

仰向けのまま歩くような、そんなふざけた格好だが、これでも俺はまだ進化が緩やかな方だ。こればかりは個人差が大きい。


新しい足が生えて来る時は、この世の物とは思えない激痛だった。

背中の内側から外側へと何かが突き破る感覚。その痛みがひと月程続いた。

しかしその過程で命を落とすものは殆どいないらしい。

というのも、こんな事が起きてからというもの生物は進化の度合いに関わらず、刺されても切られても潰されても死ぬ事が出来ない。

気も失えず、鮮明な意識の中残るのは永遠の痛みと苦しみ。恐ろしい事だ。






強風に吹かれつつ、俺は街を見遣る。

街と言っても倒壊したかつてのビル群であり、もはや虫か何かの巣だ。


私のように各地を転々としている者は少ない。気が触れた奴らに襲われる危険があるからだ。

大体はこんな街の残骸にコロニーを作りそこで暮らす。


噂によると、どうやら救いの神と呼ばれる存在が各地巡回しているらしい。

そして、この近くに来ているらしい。


俺は救いなんてモノに興味はないが、一目見てやろうとそれが来るのを待っている。

複数の人間ような物が歪に絡み合い出来たような巨大な岩山のてっぺん。そこに俺は居る。

周りは荒野だ。視界を遮る物は無い。眺めは最高だ。


そいつは生き物が好きらしい。流石は救いの神だ。

だから現れるのは基本的に街だ。

ここは街からだいぶ離れている。こちら側に来ることはないだろう。


岩山に登る途中、人間の腕に似た物が一本生えていた。それだけは人間性を感じられる部位だった。

その手には何かが握られている。卵状の実のような物体だ。実の中は透明な液体に満たされていた。

その中にうっすらと、液体を泳ぐ無数の魚のなりかけようなものが見える。

俺はお構いなしにそれを触手でもぎった。


岩山がグラリと揺れて実の持ち主である腕の指先がわさわさと動き苦しむかのように痙攣したが、腕はすぐにおとなしくなり力なくダラリと倒れてしまった。


この岩山も元は人間なのか。岩や植物がたまたまそんな姿になったのかは分からない。もしくはそれ以外か。


まだ救いの神は現れない。待っている間にこの実を食べてみようか。ちょうど景色も良い事だ。

飢えや渇きは死をもたらさないが、不便な事に喉は乾くし腹も減る。

時代が時代であればピクニックってやつだろう。


ブチュン。と口いっぱいにみずみずしさが弾ける。味は柑橘系の果物に似ている。旨い。

口の中で魚のなりかけが踊る。活きが良いな。

弾力のあるそれを歯で潰してやると、口いっぱいに程よい酸味が広がった。


基本的にこんな世界になってからは、美味しそうな見た目であっても吐瀉物のような味だったり、砂を食べているような酷いものばかりなのだ。

久々にありついた物が稀にみるおいしさだった事に感動を覚えつつ、俺は救いの神が現れるのを待った。






なかなか来ないので退屈してしまった。寝転がりながら触手で人型の岩肌の窪みをなぞり暇を潰す。

すると地響きがして、ゴウゴウと砂埃を巻き上げて遠くの方から何かが来る。

俺は荷物から、だいぶ前に拾った双眼鏡を触手で取り出し目に当てがった。


それは巨大なトンネルのような物体だった。横に倒した高層ビル程の大きさはあるのではなかろうか。

大口を開けたクジラやサメにも見える。


荒野を泳ぐように進むそれは、ブオォオオォとひと鳴きし、けたたましいモーター音と共に街にたどり着くと人だったモノや街の残骸を次々と呑み込んでゆく。

時折見える身体のエラのような裂け目からグチャグチャになった血肉や瓦礫などをまき散らし、その勢いで前に進んでいるようだ。

再度グオォオォオォと鳴くと、頭に空いている穴から真っ黒な液体が噴出した。

こちらまで届く刺激臭。この臭いは石油だろうか。


人々はそれを見て歓喜し、石油のシャワーを浴びつつその大口へ我先にと飛び込んで行くのだ。


……これが救いの神か。狂ってやがる。


ビルの瓦礫は呑み込まれ、人々は挽き肉になり荒野へ降り注ぐ。

あの街はもうおしまいだろう。


神なんてものは居ない。ましてや、救いなどない。

神が居ない今、死などという救済のシステムすら崩壊してしまっている。


荷物から脈打つ挽き肉の塊を取り出し、俺はそれを崩さぬよう優しく抱きしめた。


地獄だ。あぁ。かつて君が言ったように、この世は地獄だ。


救いなどない……救いなど――――――――

不条理でカオスなの良いよね。

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