雨
「寒っ…」
冷たい風が頬を撫でた。
思わず毛布に包まる。
いつの間にか部屋の床で寝ていたようだ。
日向は手探りでテーブルの上のエアコンのリモコンを掴む。
冷房?
日向は慌ててエアコンのスイッチを切った。
どおりで寒い訳だ。
昼間はだいぶ暖かくなってきたとはいえ、まだ4月だ。
冷房を入れるには早すぎる。
ケータイを開いて時計を見る。
7時過ぎ。
それにしては外は暗い。
日向はケータイを閉じて起き上がった。
日向はこの年代にしては珍しく、いわゆるガラケーを使っている。
特にこだわりがあるわけではない。
こだわりがないからこそ、電話とメールができればそれでいい、という感じなのかもしれない。
日向はケータイをテーブルの上に置くと、大きく伸びをした。
「頭痛ぇ…」
完全に二日酔いだ。
昨夜は、会社の同期、田中と秋吉と三人で遅くまで飲んだ。
昨日は土曜日で、本来ならば休みのはずなのだが、新年度に入ってからの仕事が溜まっていたこともあって、休日返上で出勤しなければならなかった。
それで、仕事終わりに軽く飲みに行こうということになったのだが、気がつけば日付が変わっていた。
いつもの居酒屋、いつものバー、そして最後はいつものラーメン屋。
毎回同じコースを辿るのだが、なぜか飽きることはない。
せっかくの日曜日だ。もう少し寝るか。
そう思ってベッドに目を移した瞬間、日向は自分の目を疑った。
「なっ…」
見知らぬ女性が寝ている。
背中を向けているため顔は見えない。
少しだけ茶色がかったクセのある髪の隙間から、細い肩が見える。
赤いTシャツには見覚えのあるバックプリント。
どういうことだ?
落ち着け。
日向は音を立てないように、そっと部屋を出た。
1DKの狭いキッチンで小さく息を吐くと、静かに冷蔵庫の扉を開けた。
ペットボトルの水を少し口に含んで、ゆっくりと飲んだ。
昨夜のことを思い出してみる。
ラーメン屋までは確実に記憶がある。
それからタクシーに乗って…
ダメだ。
そこからの記憶がない。
日向はもう一口水を飲むと、おそるおそる部屋に戻った。
ベッドを見る。
いない?
部屋の中を見回す。
やはり誰もいない。
今のはいったい何だったんだ。
夢でも見ていたのか。
日向はカーテンを開けて、ぼんやりと窓の外を眺めた。
いつの間にか雨が降っていた。