夢
あれから18年。
日向は今年の夏で26歳になる。
葵が消えた日。
今でも昨日のことのように覚えている。
いつも遊んでいた公園。
お気に入りの場所。
いつもと変わらない日常の中で、葵は姿を消した。
葵の母は泣いていた。
日向も泣いた。
警察、団地の大人たち、町内会の消防団。
降りしきる雨の中、何十人もの人たちが葵を探した。
日向は薄暗い自分の部屋で小さな膝を抱えて、バスタオルを頭から被り、雨に濡れた体を震わせながら一人神様に祈った。
葵ちゃんが早く見つかりますように―
必死で、何度も何度もつぶやいた。
ピンクのトレーナー、デニムのパンツ、赤い靴、赤いリボンのついた麦わら帽子。
少しクセのある長い髪と、左の耳元にある小さなほくろ。
テレビや新聞でも何度も報道された。
日向や日向の母は、警察から何度も何度も同じことを聞かれた。
しかし、葵は見つからなかった。
幼い日向の心には、葵の元気な笑顔と深い傷が残った。
いつからか、日向はときどき不思議な夢を見るようになった。
葵の夢だ。
いつもは日向の後ろを走っていた葵のことを、なぜか日向が追いかけている。
「日向くん、早く」
葵はときどき日向の方を振り返っては、また走り出す。
「葵ちゃん、待って」
日向が必死に手を伸ばしてもわずかに届かない。
そして葵は立ち止まると、寂しそうに日向を見て泣き出す。
「ねぇ、どうして…」
その後の葵の言葉が聞き取れない。
「葵ちゃん、何?」
日向が言うと葵はスッと消えてしまう。
いつもここで目が覚める。
葵はいったい何と言ってるんだろう。
もしかしたら、葵は日向に助けを求めているのか?
葵はいったいどこに―
日向は夢を見る度に、葵への思いを強くしていった。