洋食屋
さて、どこに行こう。
まだ3時過ぎだ。
お酒を飲むには早い。
ひとまず駅前の商店街を歩く。
「好き嫌いとかないんですか?」
隣を歩くひなたに聞いた。
「ないですよ。乳製品以外は」
よかった。
普段外食をしない日向は、あまり店を知らない。
あれこれ注文がつくと選択肢がなくなってしまう。
「日向くんは?」
えっ?
日向はドキッとした。
「好き嫌いはないんですか?」
「あ、えっと…俺も乳製品だけ…」
「よかった」
ひなたは、胸の前で両手を軽く合わせるような仕草をしながら、嬉しそうに言った。
少し歩くと、見覚えのある横文字の看板が目に入った。
ここは以前一度だけ来たことがある。
よし。ここにしよう。
「ここでいいですか?」
「はい」
日向は店のドアを開けた。
カジュアルな感じの洋食屋。
パスタでもハンバーグでもオムライスでも、女の子が好きそうなものはたいがい揃っている。
二人は壁際の席に座った。
メニューを開く。
今日のおすすめは…
「チーズ入りハンバーグ?」
思わず日向の心の声が出た。
「チーズか…」
「本当だ…」
二人は顔を見合わせて笑った。
ひなたもチーズや牛乳などの乳製品が苦手だった。
以前、日向が牛乳が飲めずに、給食で最後まで残されていた話をしたときも、ひなたは自分もそうだったと言った。
そういえば、確かあのとき「懐かしい」とひなたは言った。
そのときは特に気にはしなかったが、あれはどういう意味だったんだろう。
自分も同じような経験をしたという意味だったのか。
それとも、その場にいた?
いや、考えすぎだ。
そんなはずはない。
「どうかしました?」
ひなたが心配そうに顔を覗き込む。
「あ、いえ…」
そこにチーズの入ってないハンバーグが運ばれてきた。
「わぁ、美味しそう」
ひなたは手を合わせた。
「遅いお昼になっちゃいましたね」
日向が言うと、ひなたは「美味しい」と言って目を細めた。
「美味しかったぁ」
ひなたは満足げな笑みを見せた。
「これからどうします?」
どこか行きたいところでもあるのか?
「時間は大丈夫ですか?」
日向は逆に質問した。
「大丈夫ですよ」
「だったら…」
「お酒、飲みに行きません?」
日向が言おうとした言葉を、ひなたが先に口にした。
「いいですね」
とは言ったものの、今食べたばかりで何も食べる気にはなれない。
当然、浜太郎という気分ではないし、そもそも昨日行ったばかりだ。
「RIZEとか?」
ひなたが言った。
なるほど。
ひなたと出会った場所。
「いいですよ」
「じゃあ、行きましょ」
ひなたはとても嬉しそうだ。
「あっ…」
ひなたは空を見上げた。
雨だ。
「走ろっ」
ひなたは日向の左手を握って走り出した。
ちょっ…
日向は走りながら、ひなたの横顔に葵の姿を重ねると、その手をそっと握り返した。
そして日向は、いつしかひなたのことを愛おしく思うようになっていた。




