二つ結び
「日向くん、がんばって」
牛乳は苦手だ。
一口飲んではため息をつく。
給食のときは、牛乳が飲めなくていつも最後まで残される。
「あと少し」
先生が優しく声をかけた。
隣で誰かが泣いている。
誰だろう。
髪を両側で束ねている。
女の子だ。
「葵ちゃんもがんばって」
葵ちゃん?
「二人ともあと少し」
日向は残りの牛乳を飲んだ。
負けじと葵も飲み終えた。
「二人ともよくがんばりました」
そこで目が覚めた。
夢か…
昨夜は、翌日が休みということをいいことに、田中と秋吉と遅くまで飲んだ。
ベッドに横になったまま、テーブルに手を伸ばした。
ケータイの時計を見る。
もう昼の1時過ぎだ。
何だ?メール?
日向はメールを開いた。
ひなたからだ。
「おはようございます。今日、お昼行きませんか?」
着信は9時過ぎ。
日向はベッドから飛び起きた。
ヤバい。どうしよう…
もう4時間も経っている。
慌てて返事を送る。
「ごめんなさい。寝てました。3時に駅前でどうですか?」
「わかりました。待ってます」
ひなたからの返事は1分もかからなかった。
日向は急いでシャワーを浴びた。
財布の中身を確認する。
昨日使いすぎた。
日向は、途中のコンビニでお金をおろしてバスに乗った。
窓の景色を見ながら、ふと夢のことを思い出した。
いつも牛乳が飲めなくて、最後まで一緒に残されていた友達は、葵だったのか。
バスを降りると、日向は駅前まで急いだ。
7月中旬の土曜日の午後。
月曜日の海の日まで三連休ということもあって、さすがに人が多い。
ケータイを見る。
何とか間に合いそうだ。
歩く速さを緩める。
約束の場所にひなたの姿を見つけた。
ひなたは小さく手を振った。
「すいません…遅くなって…」
「こちらこそ、急に誘ってごめんなさい」
ひなたは、髪を両側で結んでいた。
日向は夢の中の葵の姿を思い出して、無意識にひなたの横顔をじっと見つめていた。
「何?」
「あ、えっと…葵ちゃんに似てるなぁと思って…」
「葵ちゃん?」
しまった。
「葵ちゃんって誰ですか?」
ひなたは少し口をとがらせて言った。
「えっと、幼なじみで…」
「初恋の人とか?」
「いや、そんなんじゃなくて、本当にただの幼なじみで…」
「ふーん…そうなんだ…」
ひなたは、今度はすねたような素振りを見せた。
「あ、と…その…」
マズい。
何か機嫌を損ねるようなことでも言ってしまったか。
「あの…」
「あー、お腹空いた」
えっ?
「何か美味しいもの、食べに連れてってください」
ひなたはわざと甘えたような口調で言うと、無邪気に笑った。




