人見知り
どうしよう。
こんなとき、どんな話をしたらいいのかわからない。
おまけに日向が店に着いたときには、他のみんなは多少アルコールも入っていたため、結果的に日向一人が大幅に出遅れた形となっていた。
普段からコミュ力が高く、誰とでもすぐに打ち解けられる田中と秋吉が羨ましい。
ビールを一口飲む。
間が持てない。
チラッと隣に目をやった。
淡いブルーのワンピースを着た桜井ひなたは、みんなと楽しそうに喋っている。
日向はなんだか一人ぼっちになったような気がした。
料理が運ばれてきた。
チーズがたっぷりかかった鉄板焼きだ。
「食べますか?」
隣から声がした。
「すいません。チーズ、苦手なんで…」
「えー?一緒だ」
一緒?
「ひなたもチーズ苦手なんです」
「そうなんですか?」
意外だ。
日向は、今どきの女の子は大抵チーズ好きなんだと思っていた。
「チーズというか、子供の頃から乳製品が苦手で…牛乳とかヨーグルトとか…」
「あ、俺もです。給食のときとか、いつも最後まで残されて…」
「そうそう。懐かしいなぁ」
桜井ひなたはそう言うと、「よし。あっちにあげよう」と鉄板焼きを向かいの席の方に追いやった。
「ビールでいいですか?」
桜井ひなたがビール瓶を構える。
「あ、すいません…」
空になっていた日向のグラスにビールが注がれた。
「えっと…」
何か話さなきゃ…
「ねぇ、ひなた」
「何?」
向かいの席の声にタイミングが奪われた。
日向はビールを一気に飲んだ。
そういえば、日向と桜井ひなたは同じ地元だったはずだ。
何か共通の話題でもあれば…
高校は違ったが、中学はどこだろう。
部活は何かやっていたのだろうか。
しかし、あれこれ質問するのも変に思われるかもしれない。
何を話せば…
そんなことを考えていると、誰かがポンと日向の肩を叩いた。
見ると、今田が席を移ってきていた。
「飲んでるか?」
「はい」
「何か元気ないように見えたけど、大丈夫か?」
「あ、大丈夫です」
「そっか。お前、人見知りだからな」
どうやら今田にはお見通しだったようだ。
いつの間にか、桜井ひなたは今田の奥さんの隣の席に移動していた。
日向の心はホッとした気持ちと、ちょっと残念な思いが複雑に入り混じっていた。




