再開
桜井ひなた―
今田の奥さんの同級生。
先週の土曜日、今田の結婚パーティーに来ていた。
なぜ一瞬、葵と思ったんだろう。
日向は喫煙コーナーから見える空巣山をぼんやりと眺めていた。
喫煙コーナーのドアが開いた。
日向はビクッとして振り返る。
「今田さん…」
「何だ?そんなに驚かなくてもいいだろ」
「あ、いえ…」
日向はなぜか慌てて煙草の火を消した。
「お前、今度の土曜日ヒマか?」
「あ、大丈夫ですけど…」
「そっか。よかった」
「何かあるんですか?」
「お前らに、ちゃんと嫁さん紹介しようと思ってな。あいつらにも声はかけた」
確かに今田の奥さんのことは何も知らないが、そうやって紹介してくれるという今田の気持ちが、日向は嬉しく思った。
「はい。ぜひ」
「じゃあ、6時に浜太郎な」
今田は煙草の火を消すと、右手を軽く上げて喫煙コーナーを出て行った。
土曜日、午後6時。
日向はバスの中にいた。
ヤバい、遅刻だ。
こんな日に限って渋滞に巻き込まれた。
もう一本早いバスに乗ればよかった。
事故でもあったのだろうか。
バスは一向に進まない。
このままバスに乗っていては、何時になるかわからない。
日向は一つ前のバス停で降りた。
人込みを縫うように駅前の通りを走る。
こんなに走ったのは久しぶりだ。
額に汗がにじむ。
ようやく浜太郎の前に着く。
肩で息をしながら、額の汗をシャツの袖で拭った。
深呼吸をして息を整える。
ドアを開けて店に入ると、奥の座敷に案内された。
「すいません、遅くなりました…」
みんなの視線が日向に集まる。
えっ…?
今田夫婦と田中、秋吉の他に女性が三人。
あのときの三人だ。
「おう、お疲れ。いいから早く座れ」
今田が手招きした。
「すいません…」
えっと、席は…
桜井ひなたの左隣だ。
マジか…
日向は人見知りだ。
しかも女性の隣では煙草も吸いにくい。
やっぱりもっと早く来ればよかった。
日向は心から後悔した。
「どうぞ」
桜井ひなたがビール瓶を両手に持った。
「あ、すいません…」
慌ててグラスを持つ。
瓶とグラスが小さな音を立てた。
ビールがグラスにゆっくりと流れていく。
「どうも…」
「えっと…」
「あ、神崎といいます」
「日向さん…」
えっ?
「桜井ひなたです」
そう言って、桜井ひなたは人懐っこい笑顔を見せた。




