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そのに。

 女性型の仮外装は、いつもの外装(ボディ)よりはるかにパワーで劣りスピードで劣る。機能確認は必要だ。

 そんなのは当然のことだろうと思うのだが、


「で、なんで機能確認(それ)が完全装備での戦闘訓練になるんですか」

 なぜか疲れた口調で言ったのはβ(レイ)だった。

 ちなみに今日はレイの勤務日にあたるから、レイも連合宇宙軍の軍服姿だ。とはいえ諸般の事情もあり、戦闘訓練を眺めに来たあと、こうしてのんびり喋っている暇もある。

「近接戦闘だけだぞ?」

 こてんと首をかしげて見せる己の姿が他人の目にどう映るかなど、もちろん横田は考えていなかった。


 外装だけ見ているなら、肩までの長さのさらさらの黒髪をそっけなくうなじでまとめた、戦闘服姿の美少女である。動きを阻害しないが微妙にだぶついた衣服が華奢な体格を強調し、ショートロッドを握る手も小さく、いかにも庇護欲を唆るデザインだ。中身を知っている連中すべてにとって噴飯ものだが、確かにこれなら、いい囮になるだろう。


 そして中身をよく知っているレイ・イシグロ・グラエスにとって、この美少女っぷりは頭痛の種にしかならない代物だった。

 ぶっちゃけ、中身はいつもの(あに)である。どうせろくな真似はしない。


「その仮外装、戦闘用じゃないでしょう」

 どうせ理解してないよなと思いながら口にしてみると、

「意外に良く動く、安心した」

 案の定、まったくいつも通りの兄だった。


 体外ユニット4体を操り攻撃をしかける機械知性体との戦闘は、通常なら『意外と動く』レベルでできるものではない。致死的兵器の使用は皆でこぞって止めたが、止めなければ無邪気に使っただろう。というか使う気満々だったのだから、少しは考えろと言いたくもなる。


「整備するサイバネティカーの苦労も考えてくださいよ」

 先ほど、見学中に泣きつかれたのを思い出しつつツッコミを入れてみたが、

「長期間使う物じゃないんだ、少し雑に扱っても問題ないだろう」

 と、こうだった。

「消耗品じゃありませんし、あなたの扱い方は『少し』の範疇を越えてます」


 原種にとっては立派に変人の域である。

 もちろん、鍛え上げた特殊部隊員がしかるべき装備を身につけた上でやるなら通常のことだが、こんな細っこい一般用の外装でやる事ではない。


「生身の原種が出来ることしかやってないぞ」

「その判断基準になってる参照個体は誰です」

「井口隊長だな、豊洲の防衛隊の。生身の女性だぞ?」

「……で、彼女の兵科は」

「今は後方支援だ」

()()?以前は何だったんです」

「強襲機動歩兵だ、連合宇宙軍流にいうなら」


 強襲機動歩兵とは、戦闘用外装(パワードスーツ)を身につけ前線で戦い占領することを任とする、もっとも武骨な兵科である。


「基準が間違ってます」


 とりあえず、きっぱり断言しておいた。

 言ったところで、どうせ理解する気さえ無いα(あに)なのだが。


 そして案の定、整備班長チーフ・サイバネティカーが雷を落としにやって来ても、納得がいかないと言わんばかりの脹れっ面で連行されていっただけだった。


「お身内から見て、どうです?少佐」

 整備班長(かなり大柄な機械知性体だった)に戦闘服の襟首を掴まれ、文字通りぶら下げられて連行されていくα(サカエ)をイシグロと一緒に見送った強制捜査課員が、そう訊ねた。

 たしか、アニー・ホールといったか。通常型装具を使用している今も立派な体格を誇る女傑だが、外装デザインに一枚かんだと聞いている。あの外装は完全に彼女の趣味を反映しているそうで、日ごろ荒事が多いだけに、ああいう愛されるためだけに存在するような外見が大好きなのだろう。

 イシグロの部下にも同じような趣味の者が数名いるから、判らないでは無い。


 それにしたって、あのα(あに)にあの外装は無いだろうと思わなくもないが。


「表情は補正を入れてあるんですね」

「ああ、いつもの通りじゃ仏頂面ばかりですからね。任地での若年女性の反応パターンに合わせて、表情補正を入れてあるんですよ」

 面倒くさがりのαは、感情に合わせて表情を作る手間すら省いている事が多い。表情くらいは半自動で作れるから大した手間でもないはずなのだが、それすら面倒くさがるのだからもはやどうしようもない。

 さすがに囮役にそんな事をさせたらまずいという事か、とイシグロは納得し、それから普段のαの非常識ぶりに思いいたって、溜息をついた。

「どうやら、ご面倒をおかけしているようで」

「いつものボディが完成したら、貴方の表情パラメータを使わせてもらうと良いかもしれませんね」

 αが通常使用しているボディの外見はイシグロと瓜二つだから、イシグロのパラメータを移植してもそれほど違和感はないだろう。

「ご入用ならいつでも声をかけてください、オフにされそうですが」


 にやりと笑ったホールは「シロ」だ。


 先日の『事故』の報告はすでにチェックを終え、現在は准将(ヒロヤス)経由で情報部に流れている。ペルシル線とB二〇二二の原種至上主義者組織が手を組んでいる以上、調査の主力は連絡将校のイシグロでは無いし、その情報部は何人かの作戦従事者を『事故』と無関係と判断した。

 そして無関係と判断された中には、アニー・ホールも含まれている。


「少佐のいらっしゃる間に完成すればいいんですけどねえ」


 今のイシグロの仕事はもっぱら、αの個人的な(ということになっている)繋がりを利用しての各方面とのコネクション作りだが、その仕事もあと少しで終了となる予定だ。

 それほど時間は残っていないとホールも知っているのだろう。


「そんなに特殊仕様でしたか?」

「軍用ですから、さすがに通常型よりは時間がかかるそうです」

 軽く肩をすくめた後、ホールは立ち去った。

人物紹介

レイ・イシグロ・グラエス:

 横田栄の生体部位から得られた遺伝情報をもとに違法作成されたクローン。

 諸々あったが、現在は横田裕保・栄の弟と法的に認められている。

 3兄弟で最も常識人(いしあたま)

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